自分の好きなアーティストの曲を初めて聞いた時のことを覚えているだろうか? 耳にしたその瞬間に、雷に撃たれたような衝撃を受け、歌詞やフレーズが頭から離れなくなる。誰でも一度はそんな経験をしたことがあるのかもしれない。私(佐藤)もロックバンド「人間椅子」の曲を初めて聞いた時に、度肝を抜かれたことを鮮明に記憶している。
そんな人間椅子の約30年の活動を辿るようなライブが行われた。2017年3月25日、「ライブ盤リリース記念ワンマンツアー『威風堂々』」のツアーファイナルである。超満員の赤坂ブリッツで、レア曲を連発してファンを魅了したのである。
・20歳の頃の興奮
私が人間椅子を初めて耳にしたのは、20歳の時のこと。後輩に「コレ、多分好きだと思いますよ」と、貸してもらったのが、彼らの1stアルバム『人間失格』だった。アルバムの最初に奇妙なノイズ音が流れたと思ったら、その流れを断ち切るようなベースの低音が繰り返され、曲へとなだれ込んでいく。オドロオドロしく、身の毛が逆立つような緊張と興奮を覚え、それ以来虜になった。
この日のブリッツ公演1曲目は、その記憶を瞬間に呼び覚ますように1stアルバム1曲目の『鉄格子黙示録』から幕を開けた。ベース・ボーカル鈴木研一が奏でる、腹の底まで響くベースの低音が鼓膜に触れた瞬間、私は20歳の自分へと戻った。続く2曲目の『陰獣』で、20年の月日を超越して、身体の内側には若き日の躍動が完全によみがえったのである。
・未収録曲まで披露
しかしながら、ただ時間の流れを遡るだけが、彼らのやり方ではない。特に今回は、ライブ盤のリリースツアーである。アルバム収録曲をなぞっただけでは、以前のライブの繰り返しになってしまう。そこで、意外な曲を多数用意していたのだ。
たとえば、6枚目のアルバム『無限の住人』から「宇宙遊泳」や7枚目の『頽廃芸術展』から「九相図のスキャット」など、近年演奏をしていない曲を相次いで披露。
極め付きは、アルバム未収録曲の「わたしのややこ」だ。この曲は、バンド初期の定番曲なのだが、新しいファンには知られることのなかった幻の曲である。ただでさえレア曲が続くなかで、突然激レア曲が炸裂し、ファンは動揺すると共に、興奮を抑えきれず、会場には歓声があふれかえった。
・テルミンで歩き回る
ライブ中盤には、最近のステージではすっかりおなじみになったテルミンが登場して、不可思議な音を響き渡らせる。テルミンは持ち歩くのに優れた楽器ではない。だが、ギター・ボーカル和嶋慎治は、テルミンを移動させながらメロウィックサインやハートマークを手で作り、怪しげなノイズを奏でていた。テルミン奏者でも、あれほど歩き回ったりはしないだろう……。
・自伝を読み、曲をより深く理解
そしてライブは後半戦に突入。MCで、増刷が決まった和嶋の自伝「屈折くん」に触れ、東京・高円寺で生活した時代に作った、「見知らぬ世界」へと演奏は続いていく。さらに、和嶋自身の人生の転機を象徴する曲「深淵」を披露。
この曲の背景を書籍で垣間見たファンは、きっと胸のうちにこみ上げるものを感じたに違いない。実際私は目頭が熱くなってしまった。バンドはこの曲に特別な思いがあるに違いない。だが、それはバンドだけでなく、和嶋の書籍を読んだファンにとっても、特別な意味を持つようになっているはずである。
ライブは終盤に向けて、ますます疾走する。ドラム・ボーカル、ナカジマノブの「ロックンロール特急」を境にして、さらに加速度を増していき、バンドを代表する1曲「針の山」で本編は終了した。
当然ながら、そこですべてが終わる訳でない。アンコールに「猟奇が街にやってくる」、「地獄」。さらにダブルアンコールで「なまはげ」を炸裂させて、夢の宴は終演を迎えた。
・さらに大きな会場で!?
ステージ上で挨拶をして、メンバーが袖に引こうとした時、ナカジマがとても気になることを発言していた。年内にアルバムを発売する予定であることが和嶋から告げられ、再び全国ツアーを行う。そこまでは、時期的にも想像がつくのだが、その後に「もっとデカいとこでやります!」とナカジマが発言したのだ。
デカいところとはどこだ? まさか!? まさかまさか!? あそこでやるのか? 想像しただけでワクワクを抑えられない。2年後には、デビュー30周年を迎える。すでにそこに向けて照準を合わせているのだろうか。とにもかくにも、今年1年も驚きと感動と興奮を与えてくれるに違いないだろう。
8000枚のライブ撮影写真のなかから、厳選した40枚は次のページ で見ることができるぞ!
取材協力:徳間ジャパン、人間椅子
Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24
取材協力:徳間ジャパン、人間椅子
Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24