昨年2015年7月14日、NASAの無人探査機・ニューホライズンズが冥王星に初接近した。今や、地球から約50億キロメートルまで到達するに至った人類の科学力。しかし、その科学力をもってして、いまだに未踏の地なのが “深海” である。
そんな人の立ち入れない領域に住むのが深海生物。地球の総面積の7割が海、その海の8割を占めるのが深海ということを考えると、地球は深海生物の王国と言える。独自すぎる進化を遂げたその姿は我々の想像を超えるほどグロテスクで奇怪だが、彼らのことを知り、ひいては地球のことを知るために、深海生物を食べてみることにした。
・お馴染み『米とサーカス』
訪れたのは、以前昆虫を食べた際にもお世話になった高田馬場の居酒屋「米とサーカス」。同店では、4月15日から5月15日までの間、深海生物を料理として提供する「春の深海祭り」が開催されている。メニューは以下の通り。
・オオグソクムシの丸揚げ(1980円)
・オオグソクムシの和風チリソース(1980円)
・幻の深海ガニ “ミルクガニの丸焼き”(3500円)
・ヌタウナギの蒲焼き(1800円)
また、まれに裏メニューとして「深海鮫」も仕入れられるという。この日は、残念ながらヌタウナギと深海鮫はなかったので、「オオグソクムシの和風チリソース」と「ミルクガニの丸焼き」を注文した。
・オオグソクムシ
フナムシやダンゴムシの仲間であるオオグソクムシは、ダンゴムシとフナムシを足して5倍くらいにした外見をしている。日本最大のダンゴムシの仲間とのこと。マジで食べる気の失せる情報である。
・食べてみる
さっそく、料理が運ばれてきた。素揚げにされた姿を見てみると、シャコっぽくもあるな……と思い込もうとしたが明らかにムシだ。一口食べてみると、まず殻がシャリッ。食感で言うとエビの殻に似ているが、弾力性はそこまでなく、魚の骨との間くらいの固さである。これこそムシ。
身は若干パサついており焼き魚のようだ。無理やり似た味を挙げるなら、鯖……か? サイズが大きいため、以前食べたサソリよりは身がしっかり詰まっていて食べごたえがある。
・どこかで失くした自分らしさ……
そんな感じで普通にムシャムシャ食べていてふと気づいた。これまた以前食べたゲンゴロウや蚕ほど抵抗がない。これは大きさのせいなのか、深海生物とムシは別なのか……自分の無意識がどういう判断を下しているのかわからないが、いずれにせよ何か大切なものを失くしてしまった気分だ。
・幻のカニ・ミルクガニの丸焼き
そうこうしているうちに「ミルクガ二の丸焼き」が到着。駿河湾の水深800mに生息するこのカニは東京初上陸だという。火を通すと乳製品のような香りが立ち込めるのだとか。見た目は普通のカニだが。殻を剥いてみると塊となった身がズルルッと、こぼれ出す。口に入れてみると……
プッリンプリンやッ!! そして、舌の上でトロけるような甘味である。ウンマーーーーーーー!!!! 食感と甘味が、エビと甘エビくらい違う! こんなカニを上陸させなかったなんて、やる気あんのか東京都ォォォオオオ!?
・たった1つの難点
難点を1つ挙げるなら、殻のトゲトゲが鋭く剥きにくいことだが、この味を知っていれば心が折れることはないだろう。綺麗な薔薇にはトゲがある。手を怪我しても食べたい味である。
撮影で同行した佐藤記者も「半端なくウマい」と大絶賛していた。私が殻に苦戦している間に、佐藤記者の皿にはカニの殻の山が築かれていたぞ。あの、僕の分は……?
──未知のものに触れる時に感じる得体の知れない怖さ。ともすれば負けそうになるその感情に打ち勝った者だけが、新たな道を切り開き人類を進歩させてきた。あなたも勇気を出して踏み出せば、常識では考えられないほど素晴らしい未知との遭遇が待っているかもしれないぞ!
・今回紹介した店舗の情報
店名 米とサーカス
住所 東京都新宿区高田馬場2−19−8
営業時間 17:00~翌5:00(LO4:30)
定休日 無休
Report:中澤星児
Photo:Rocketnews24.
▼箸休めに食べたレギュラーメニュー「ヤモリの姿焼き」
▼見開いた白目、半開きの口が禍々(まがまが)しいオーラを放つ
▼めっちゃ目合うやん……
▼うーん、骨っぽい
▼身が少ないな
▼ミルクガニはガチ
▼ウマー
▼ウンマァァァアアア!
▼食いすぎ!!
▼……あの、僕の分は?