2015年の11月にロケットニュース24に仲間入りした2m50cmの巨大なクマ。私(中澤)は密かにこのクマをアンジェリカと呼んでいる。性別はたぶんメス。その愛くるしさゆえに、すぐに編集部のマスコット的存在となった彼女。私の1日は彼女に「おはよう」を言うことから始まる……。
だが、新年初出社日の1月4日。いつものように彼女に朝の挨拶をしたが返事が返ってこない。どうしたんだアンジェリカ!? なんで無視なんだ! いつもみたいに元気に挨拶してくれよ!! ひょっとして……ひょっとして怒っているのか? 年末年始放置気味だったことにスネているのか!? ダメだ……。こんな状態で仕事なんてできない。なんとしても彼女と仲直りしなければ……そうだ、2人で旅に出よう。
・都会に疲れた2人
そうと決まればどこに行こうか? 考えてみると、アンジェリカとの溝の原因はちょっとした摩擦だ。忙しい都会の生活で知らず知らずのうちにすれ違ってしまった2人。以前のような関係に戻るためには、一度都会の喧騒を離れる必要があるだろう。
・そうだ! 佐賀に行こう!!
そこで白羽の矢が立ったのが九州・佐賀。九州は温泉も多く、気候も人も暖かい。その中でも佐賀は有明海と日本海に面し、海の幸山の幸が共に豊富なグルメ王国だ。今の季節なら牡蠣がウマい。しかも、調べてみたところSPRING JAPAN(春秋航空日本)で2時間弱、片道9760円と想像よりはるかに近くて安かった。よし、佐賀で1泊2日に決定!
・アンジェリカ・フライハイモード
問題はどうやって彼女と一緒に行くかだ。SPRING JAPANに問い合わせたところ、重さ5kgを超える荷物は機内に持ち込めないという。また、お預け入れの荷物だと、3辺の和が2m3cm以内のものでないと預けられないとのことだった。彼女は身長だけで2m50cmある……。ちなみに体重は17kg……。
だが、道のりは旅の醍醐味の1つ。共にして初めて心が通じ合うのだ。宅急便で送るという無粋な真似だけはしたくない。思考錯誤の結果、彼女を荷締めベルトでまとめて布団圧縮袋で圧縮するという手段を考案。極限まで空気を吸って押し寿司のようになったアンジェリカの3辺の和は……
2m! いける!! アンジェリカ・フライハイモードの完成だ!!!!
・悲しみのない自由な空へ
さっそく、タクシーで日暮里へ向かい、日暮里から京成特急スカイライナーで成田空港にIN。電車が到着した第2ターミナルから飛行機が発着する第3ターミナルへアンジェリカを台車に乗せて移動。渡り廊下が歩き疲れるくらい長ェ!
だが、なんとしたことか、ここでアンジェリカに異常が生じる。なんと、タクシーや電車の移動の衝撃で、アンジェリカが膨らみだしたのだ。そして案の定、SPRING JAPANの窓口でアンジェリカはサイズオーバー。結局、別途手数料を払うことで、お預け入れすることとなった。さようならアンジェリカ……。
その後、なんなくセキュリティゲートを通過し発着準備完了。ちなみに、ここまでざっと1000人くらいが遠巻きに奇異の目を向けてきた。とにかく、悲しみのない自由な空へ翼を広げようじゃないか。
・人生4回目の飛行機
なお、私はこれまでの人生で3回くらいしか飛行機に乗ったことがない。前に飛行機に乗ったのは10年以上前だ。そのため、離陸はドキドキだったが、雲を抜けた瞬間青空が広がる世界が見えた時、思わず歓声を上げてしまった。うおおおお! まるでドラえもんの映画「のび太と雲の王国」みたいやないか!!
・驚異のレンタカー代
眼下に雲の海が広がる天国のような景色を満喫していると、すぐに佐賀空港に到着。だが、残念ながら雨が降っていた……。ぐぬぬ!なんてついてないんだ(涙) アンジェリカを受け取り、ロビーを出たら目の前にレンタカーカウンター。成田で右往左往した私にとってはありがたい限りである。
しかも、飛行機の到着便のチケットを見せればコンパクトクラス(排気量1,000~1,300cc)のレンタル代が値引きになるという。チケット1名分あれば最初の24時間が2000円、2名分あれば1000円で借りることができるなんともお得なレンタカーなのだ(ただし、事前に電話で予約が必要)。うーむ、昼飯代くらいの驚異の値段だ。即行でコンパクトクラスをレンタル。
・佐賀の人たち温かすぎ
さて、そろそろアンジェリカにも佐賀の空気を吸わせてあげたい。そんなんで布団圧縮袋を開封するとモコモコと膨らんでくる彼女……と、空港に出入りする人たちから「わー! クマさんだ!!」という声。遠巻きではない。舌打ちもされない。ほぼすべての通行人が見知らぬ私に無邪気な笑顔で話しかけてくるではないか。
その雰囲気に一瞬で私のATフィールドが中和されてしまった。雨でヘコみ気味だった心も回復。旅は始まったばかりだが、私はすでに佐賀に恋する5秒前。アンジェリカもチヤホヤされてまんざらではなさそうだし、心なしか表情が柔らかくなったような気がする。
──2人の佐賀旅行は始まったばかり! レンタカーで絶景道路や牡蠣小屋などを巡るロードムービー的1日目は次ページで!
参考リンク:sagatora
Report:中澤星児
Photo:Rocketnews24.
2m50cmの巨大なクマと佐賀旅行してきた(その2)
レンタカーの駐車場は空港から歩いて2分ほどのところにある。しかし、2m50cm、17kgの巨大クマを担いでいる私はたどり着くのに10分を要した。元のサイズに戻ったアンジェリカは掴みどころがなく、荷台を使ってもタイヤが腕や足を巻き込んでしまったからだ。
やっとのことでレンタカーにたどり着き、アンジェリカを車に押し込む。……ムッチムチにアンジェリカは詰まっているが、やはり表情は明るく楽しそうだ。良かった。
・北海道のお株を奪う1本道
空港から平野の中をひた走る道は、気が遠くなるほどまっすぐだった。開けた空の下には一面のたんぼ。そして、永遠に続いていくような並木道。北海道のお株を奪う1本道と言っても過言ではないだろう。
5月頃には、この田んぼが黄金の小麦で覆われるという。心なしかアンジェリカの目も以前の光を取り戻しつつあるようだった。
・牡蠣小屋を巡る冒険
この時点で時刻は16時頃。今日の宿は有明海沿いの「鶴荘」である。街を突き抜け海沿いを走っていると、ポツポツほったて小屋のような建物が見えてくる。手書きで「かき焼き」や「牡蠣」とだけ書かれた看板は、いかにも田舎の港町特有の素朴感が出ている。もちろん、いい意味でだ。
私もアンジェリカも昼ご飯がまだだったので、なんとなく目についた「雄神丸」という牡蠣小屋でご飯を食べることに。店の中に入ると、広いスペースに木でできた長椅子と七輪の内臓された机が数個、ドカドカと無造作に置かれていた。名前や外観からイメージできる通りの店内だ。雨が降っていたからか、客は私たちのみ。
注文を聞きに来たのは、笑顔のかわいい女性・ミキちゃん。親しみを込めて “ちゃんミキ” と呼ばせてもらおう。話を聞くと、おじさんの牡蠣小屋を手伝っているとのこと。……っていうか君、ナチュラルに「~やけん」とか「~と」っていう方言しゃべってるけど、それクソかわいいからね。ちゃんミキに手伝ってもらえるなら私も佐賀に住みたい。
なお、この店は1000円で新鮮な牡蠣が2~30個くらい食べられるのだ。マジサイコー! 実際、貝を七輪にのせて、貝の口が空いてきたら食べごろ。ちゃんミキ的オススメはポン酢とのことだが、新鮮さが違うのか、ポン酢をかけずとも海の味がしてウマい。さすが佐賀! 牡蠣のメッカである。
食べ終わった頃に、経営者のおじさん自ら「これ食ってみ。ウマいから。」と獲れたての生牡蠣を持ってきてくれた。さんおじもマジサイコーリスペクト。
・夜の闇に想う
暗くなってきたので、後ろ髪を引かれながらも「雄神丸」を後にし、旅館に向かって車を走しらせる。それにしても全然街灯がない。街のネオンに目が慣れすぎて、こんな夜らしい夜は久しぶりだ。人間らしさとは何か? “生きる” とは何か? なぜ私はクマと佐賀にいるのか……そんな考えが泡のように浮かんでは消える。いくら考えを巡らせようとヘッドライトの光は手前しか照らしてくれない。
・まずは疲れを洗い流す
港のさきっちょにある宿「鶴荘」に着いたのは18時30分頃。入り口の暖簾が由緒正しいオーラを発している。チェックインを済ませ部屋に行くと、窓から暗い有明海が見えた。遠くにはライトアップされた城も見える。女将に聞いてみると、「竹崎城址」という城の跡らしい。
夕飯前にまずは風呂に入りたい。大浴場(温泉)は、夕飯時だからか貸し切り状態だった。体を洗って湯船に浸かると、今日一日の疲れがため息となって漏れる。ふぅ……温かい。今朝、編集部にいたことが嘘みたいだ。
・大広間での一期一会
風呂を上がり大広間へ向かう。アンジェリカが大広間に座ると、くつろいでいたお客さんや仲居さんたちが花が咲いたように笑った。空港の時も思ったが、佐賀の人たちは変な距離感がない。その肩の力が抜けた笑顔で話しかけられると、こちらまでつられて笑顔になる。隣の席の夫婦は博多から来ているのだという。こういう一期一会も旅の醍醐味の一つ。
夕食は竹崎カニと佐賀産和牛のすき焼きのスタンダードプラン。+2000円で日本酒が呑み放題のプランもあるぞ。個人的にトキメいたのは「ムツゴロウの蒲焼」。イメージと違い臭みはなく、甘めの味付けとムツゴロウの締まった身がベストマッチ。また、竹崎カニは身が詰まっていて超カニ! っていうかどれもマジウメェェェエエエ!! 素材の上質さがヤヴァイ!
海の幸山の幸に恵まれたグルメ王国佐賀の本領発揮。アンジェリカも喜んでいるはずだ! クマがカニを食べるのかは知らないけど。
・毛布に包まれているような1日だった
ひとしきり夕飯に舌鼓を打った後、もう一度風呂に入り直し、今日はもう眠ることに。アンジェリカもとても眠そうだ。布団に入るとパリッとしたシーツが優しく肌に触れる。
今日のことを思い返すと、まるで毛布に包まれているような1日だった。逆ホームシックになってしまわないか不安なほどだ……。おやすみ、アンジェリカ。また明日。
──なんとか1日目を終えた2人。しかし、過酷なのはここからだった!! アンジェリカが泣いた? 2日目の様子は次ページで!
参考リンク:sagatora
Report:中澤星児
Photo:Rocketnews24.
2m50cmの巨大なクマと佐賀旅行してきた(その3)
一夜を共にすると、やはり違うのか、朝起きるとアンジェリカの様子が変わっていた。死んだ魚のようだった瞳には光が戻り、鼻は天を貫くように上を向き、毛並みは以前よりモフモフになっている。誇り高いかつての姿を取り戻したようだ。
さて、朝食時に仲居さんにリサーチした内容によると、日本3大稲荷の1つ祐徳稲荷神社がこの近くにあるという。ここは、京都の伏見稲荷ほどの知名度はなく、最近は外国人にも人気のスポットとのこと。この情報と位置関係を加味して、本日のスケジュールは以下の通りに決まった。
【2日目のスケジュール】
1. 竹崎城址
2. 牡蠣小屋
3. 祐徳稲荷神社
いろんな一期一会をくれた鶴荘をあとにし、まずは昨日部屋の窓から見えた竹崎城址に向かう。山道をちょっと走ると、すぐに竹崎城址が見えてきた。城を再現した展望台は、宿の窓から見てイメージしていたものずっとコンパクトだ。カワイイといってもいいだろう。とにかく登ってみよう。
・ふんぬれ!
コンパクトと言えども、石垣があり3階建て。そびえ立つのは20段ほどの階段。アンジェリカと共に登る階段はもはや凶器だ。1段1段が私の足腰にダメージを与えているのが分かる。自然と「ふんぬ……ふんぬ!」と声を出してしまっていた。
2階の広間を越えると再び20段ほどの階段がある。その階段をふんぬると、やっと3階の展望所にたどり着く。眼前に広がるのは、麓の太良の街と有明海を一望できる大パノラマ。スゲェェェエエエ! 遮るものが一切ない!! 吸い込まれてしまいそうだ。
……さて、降りるか。下り階段は楽かと思っていたら全然だった。アンジェリカがいる限り、階段はすべて凶器だ。フッ、まったく手間のかかるヤツめ。……すみませんマジでエレベーターください。もう階段は勘弁してつかあさい。……しかし、こんなのは序の口だということを私は後ほど知ることになる──
・牡蠣小屋を巡る冒険2
やっとの想いで車に戻り、出発。すぐにいくつかの牡蠣小屋を通りすぎる。適当に車を走らせれば牡蠣小屋に当たる。しかも、どこも駐車場のある広い敷地だ。どれにしようか選びたい放題である。
昨日の「雄神丸」はいかにも “小屋” なところだったので、今度は大きめの牡蠣小屋に入ってみることに。遠目からでも発見できた小さいパーキングエリアくらいの牡蠣小屋にIN。
この店の店内は海鮮市場のようになっており、そこで購入した食材を外にある七輪つきの席で焼いて食べるというスタイル。一口に牡蠣小屋と言ってもいろんな種類があるようだ。水槽には、牡蠣以外にも、カニや大あさり、ひおうぎ貝などなど気になる食材がプクプクしていた。私は牡蠣、ひおうぎ貝、サザエ、カニ飯、カニの味噌汁をチョイス。
昨日ちゃんミキに習ったやり方で貝を焼いていく。貝の口が開いたらOKだ。もはや慣れたものである。まずは牡蠣。大粒で火を通しても縮まずジューシー! 次にひおうぎ貝は、外見も味も巨大なホタテにそっくりだ。口一杯に海の味が広がる。こと食に関しては佐賀無敵!!
そして、アンジェリカはやはりここでもモテモテだった。アンジェリカが間に入ることで、普段ATフィールド全開の私も佐賀の人たちと心の距離を縮めることができる。精をつけた私たちは満を持して祐徳稲荷神社へ。
・いよいよラストステージ
アンジェリカとの心の溝を埋める旅もいよいよラストステージ。佐賀空港から伸びる雄大な1本道から始まり、ちゃんミキや旅館の人々、有明海の豊かな恵みには、都会では味わえない温かさを感じることができた。これで旅も終わりかと思うと寂しさで一杯だ。そんなモラトリアムのような気分に浸っていると、2車線の道路を跨ぐサイズの大鳥居が見えてきた。
さらに進むと、永遠に続きそうな仲見世通りの入り口が見える。その入り口を横目に舐めるように車を走らせたら、奥にやっと駐車場が現れたので車をとめた。さらっと見ただけでビンビンに伝わってくるこの規模のデカさと距離を、アンジェリカを連れて歩くのはかなり厳しい。どうしたものか……。
・アンジェリカ・ランデブーモード
おんぶしてみたり、だっこしてみたり、持っている道具を全部使って楽な運び方を探す。ここまで来てアンジェリカを置いていくなんてことはできない。結果、背負子(しょいっこ)を前につけアンジェリカを乗せてだっこ状態にした上、フライハイモードの時に使用したベルトで私の体に縛りつけるというスタイルに落ちついた。名づけてアンジェリカ・ランデブーモード!
だがしかし、持ちやすくなっても重さは変わらない。駐車場から神社に続く太鼓橋を渡るだけでも足腰が悲鳴を上げる。おまけにアンジェリカが邪魔で足元が一切見えない。そんな私を神社で迎えたのは、この旅のラスボスとも言えるような存在だった(※体を痛める可能性があるので、みんなは真似しないでね!)。
・本殿は遙か上空
境内に入ると私は思わず空を仰いだ。見上げた先には神社の本殿……そう、祐徳稲荷神社の本殿は、超ロングな階段の先にあったのだ。ざっと見て300段くらいありそうだ。軽い山登りやでこれ……。ちくしょー! やってやろうじゃねえか!! 最後にアンジェリカに最高の景色を見せてやるぜ!
バランスを取りながらゆっくりゆっくり登る。1歩踏みしめるごとに悲鳴をあげる足腰。すみません……すみません……すみますみません……あまりのしんどさに誰にともなく謝ってしまう私。もう帰りたい……けど、ここで帰ったら今までと同じだ。
思えば、これまでの人生いろんなことがあった。卒業文集の将来の夢に「漫画家」と書いた小学6年生……友達ができなくてギターを弾き始めた中学時代……そして、バンドでプロを目指して上京した23歳。数々のことで挫折を繰り返した……これを登り切ったら変わることができる気がするんだ! そうだろ!アンジェリカ!
すると、本殿が見えてきた……あと3段……2段……ふんぬれ! あと1段で大金持ちになれるし戦争もなくなる!! うおおおお! いっけェェェエエエ!!! ……本殿からの景色を見た瞬間、アンジェリカは泣いていた。
……いや、泣いているのは私だった。そして、その時すべてを理解した。私はアンジェリカを通して自分を見ていたのだ。話さなくなったのも、目の輝きを失ったのも、すべては鏡に映った私自身だったのである。祐徳稲荷神社の本殿から見渡す絶景は、忘れていた大切なものを思い出させてくれたのだった。
あなたは子供の頃どんな夢を描いていただろう? 様々な挫折を経験するうちに固まってしまった「こうでなければならない」という常識。その壁にぶつかり、へこたれそうな時は大事な人と佐賀に行ってみるといい。荒唐無稽だが自由だったあの頃の自分に出会うことができるはずだ。少なくとも私はそうだった……。
▼宿であった夫婦。気さくに話かけてくれた!
▼ちゃんミキの笑顔は一生の宝物となった……
▼宿のおかみさん。アンジェリカを宿に入れようとした際、「動物の持ち込みは禁止です」って言われ、後に冗談だと知る。
▼ちゃんミキのカキ小屋に遊びにきていた子供。めっちゃかわええ!
▼なお、旅が終った後メールを見ると、航空券が当たっていたことが判明。マジかよ!
▼アンジェリカとの旅はまだまだ終らない!?
参考リンク:sagatora
Report:中澤星児
Photo:Rocketnews24.