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【ロングインタビュー】日本を代表するロックバンド『人間椅子』の和嶋慎治氏が語る表現のコツ 「20年を経てわかった」

2015年10月3日

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明治・大正期の日本文学の持つ怪しい和の世界観と、70年代ブリティッシュハードロックの融合により独自の音楽を鳴らす日本語ロックバンド『人間椅子』。知る人ぞ知る存在だったはずの人間椅子がバンド結成26年目にして、なんだか凄いことになっている。

大規模ロックフェス「オズフェスト2015」への出演が発表され、アニメ「ニンジャスレイヤー」のエンディングに抜擢。9~10月オンエアーの地上波ドラマ「JKは雪女」の劇伴(BGM)を担当するという怒涛の展開を見せているのだ。マジでこのまま国民的バンドになってしまうのではないかという快進撃である。

バイトをしながらバンドを続けた苦労時代も長かった彼らは、現在の状況をどう捉えているのだろうか? バンドのギターボーカルである和嶋慎治氏に初の劇伴やアニソンの作曲、インディーズ時代の苦労や作曲、ライブでの表現に至るまでを聞いてみた!

・アニメ「ニンジャスレイヤー」のエンディング「泥の雨」の意識は “普段と一緒”

まずは、アニメ「ニンジャスレイヤー」のエンディングについて聞いてみた。各話毎にエンディングを担当するアーティストが変わっていく本作品。クラブ畑のプロデューサー大沢伸一や、ギャルバン「赤い公園」、ギターロックシーンをけん引する「凛として時雨」等、そうそうたる面子の中で、人間椅子は20話のエンディングを担当している。

私(中澤):アニメ「ニンジャスレイヤー」のエンディング「泥の雨」を作るにあたって意識されたことはありますか?

和嶋氏:作品が現代にいる忍者っていう設定だから、現代風な感じでなおかつ日本的な雰囲気を出そうとは意識したね。……つまり、普段と一緒(笑) 普段の僕たちの音楽と方向性が同じだから、やりやすかった。

:なるほど、結構楽曲がヘヴィというか……地を這う感じで、しっかり人間椅子の色が出てますよね。これは意識されたことですか?

和嶋氏:それは意識したね。原作を読んでアニメも見てみたら、割とキャッチーで軽いノリだったから、あえて重くしてやろうと思って。(エンディングを担当している)他のバンド達と比べて異彩を放つように、より自分達らしさを出せたかな。

:アルバムの曲とアニメのテーマソングで作曲のやり方は何か違いますか?

和嶋氏:ん~そうだなあ……。アルバムを作る時は、1曲を通して聞いてもらえるので、複雑な構成で曲を作ることができる。たとえば、長いイントロがあって途中で展開が変わって、また元に戻るみたいな。だけど、アニメの曲だと1分程度の尺しかないからそれができない。あまり構成をつけずに自分達らしいのを作らなきゃいけない。ってことは考えてた。

「泥の雨」はそれが上手くいったと思う。次のアルバムに行く足掛かりにもなったしね。楽しかったよ。

この楽曲はすでにiTunesでショートバージョンがリリースされている。フルバージョンは11月25日発売のコンピレーションCD『ニンジャスレイヤー フロムコンピレイション「殺」』に収録予定だ。

・地上波ドラマ「JKは雪女」の劇伴(BGM)の過酷な録音スケジュール!?

「JKは雪女」は、9月27日から放送されているTBSのドラマだ。横浜流星と平祐奈というフレッシュな若手のアクターが演じる妖怪と人間の葛藤を描いた青春ラブコメである。バンドにとって初の試みとなった劇伴の制作。ちなみにリリースは考えていないとのことなので、このドラマでしか聞けない音である。

:初の劇伴ですが、どういった点に苦労しましたか?

和嶋氏:制作に取り掛かる前は、自分達のこれまでの曲を録音し直せばいいんだなあと楽観視してて。でも、フタを開けたら全部作り直さなきゃいけなかった。単純に1番やって2番やってハイ終わり……、じゃないんだよね。イントロを少し長くしなきゃいけなかったり、エンディング部分を変えなきゃいけなかったり……。

あとは監督さんにシーンのイメージを聞いて、それに合わせた曲を作って、いざ聞いてもらうと、「これはこれですごく良いので、別のシーンに使います」と言われてしまって、新たに曲を作り直したりしたね。そんなことを繰り返してたら、どんどん曲が増えてしまって(笑)。

それがまた大変だったね。もう完全にオリジナルみたいな曲も何曲かできちゃった。それで結局、2日で15曲を録音するというスケジュールになったんだよ(笑)

:え! 2日で15曲!? 無理じゃないですか? それ……。

和嶋氏:うん。そしたら全然無理で。最終的に丸4日かかった。完全に徹夜したのが2回あったから、どっちの日も完全に徹夜だったから、ぶっつづけで24時間とか録音してたんだよね。キツかったー(笑)

:その苦しみを越えて、今回の劇伴の手ごたえはいかがですか?

和嶋氏:今回みたいに「こういう風にしてもらいたい」っていう注文を聞いて作るのは初めてで、「人の注文に合わせてなんて作れるのかなー」って思ってたけど、意外と作れるなって分かった。それができることが楽しかったし、普段やらないような曲とかも作れたから刺激的な体験だったね。

以前の曲をアレンジするってところから始まった劇伴なんだけど、過去の人間椅子の曲に似ているものが大半なので、わかる人にはわかって面白いんじゃないかな。

・インディーズ時代のこと

さて、和嶋氏と言えば、私は忘れられないエピソードがある。それは、90年代のバンドブームが終わって売れなくなった際、バイトをしながらインディーズでバンド活動を続けてきた” ということ。このエピソードは、働きながらがんばって活動を続ける多くのインディーズバンドの支えとなっていることだろう。

そんなバンドマンの鑑である和嶋神に、私が聞きたいことと言えば、やはりそんな苦労時代の話である。

:長い歴史の中で、苦労されたこともあったと思いますが、バンドをやめようと思ったことはありませんか?

和嶋氏:うっすら、やめようかなと思ったことはあるよ。インディーズの最初の頃はあんまり思わなかったけどね。20代だったからね。30代にそういう気持ちがよぎったりした。30代はまだギリギリ社会に戻れるかもとか思っちゃう。

:迷った時に、振り切ったキッカケがあれば教えてください

和嶋氏貧乏だったことが幸いしたかなあとは思ってる。アルバイトしながらでギリギリの生活だったから、もうバンドやるしかないなっていう風に自分を持っていったね。

もちろん、高校からの付き合いの鈴木(研一)君(ベース)がメンバーだったっていうのは大きいよ。彼とは議論はあるけど、喧嘩したことはないんだよ……。やっぱり励まし合ったね。

:自分もバンドをやってるんですけど、鈴木さんのような親友がいないので羨ましいです……。

和嶋氏:もちろん、悩むことは大事だよ。悩んだ時期自体も俺には大事だったし、一回悩んだ後、もう俺にはこれしかないって腹を括ったら強くなる。もう迷いようないからね。

──いよいよ次ページでは、誰もが気になるであろう「作曲について」や「ライブについて」、そして「2回目の出場となるオズフェスト」についての質疑応答を公開するぞ! 迷うことなく続きのページ(その2)へGOだ!!

Report:中澤星児
Photo:Rocketnews24.

【ロングインタビュー】日本を代表するロックバンド『人間椅子』の和嶋慎治氏が語る表現のコツ 「20年を経てわかった」(その2)

・作曲について

苦労時代から不死鳥のようにシーンにカムバックした人間椅子。ここ最近の盛り上がりは、26年間独自の道を追及してきた音楽性があればこそである。そんな独特の曲達はいかにして生まれてくるのか? 誰もが気になるであろう質問を投げかけてみた。

:曲を作る時は歌詞から作りますか? 曲から作りますか?

和嶋氏:昔はイントロのギターリフみたいなところから曲を先に作ってたんだけど、ある時期からそれはちょっと違うなと思ったんだよね。というのは、あまりに曲先行でいくと、パーツ同士を貼り付けたみたいになって、結局その曲で何をやりたいのか分からなくなる時がある。煮詰まるってやつだね。

それで、その作り方に限界を感じて……、今はコンセプトから作るようにしてる。この曲でこういうのを表現がしたいっていうのをまず決めて、曲作って詞を書いてみたいな感じ。

:曲を作る時は1人で作りますか? 全員で作りますか?

和嶋氏:僕の場合は、大体1人だね。MTRっていう多重録音できる機材で、部屋で1人で曲のアイデアを作る。ただ、アイデアを得るために、山にキャンプに行ったりすることはあるかな。

:1人でですか?

和嶋氏:1人で(笑) 小っちゃいMTRとか持って山に行って湧いてきたアイデアを録音する。自然と対話してる感じで、凄いフレッシュなアイデアが出るんだよね(笑)。それをバンドに持っていって、曲として無理がないようにテンポとかアレンジを変えたりする感じ。

:1人で曲のアイデアを作る時は、ベース、ドラム等の楽器も一通り打ち込みますか?

和嶋氏:MTRで作る時は全部入れてる。曲構成とかも一通り全部。

:なるほど……人間椅子の組曲調になってる曲展開はバンドで作ってるんですか? 自分で作ってるんですか?

和嶋氏:割と自分で作ってるかな。ああいうのって緻密だから、ちゃんと組み立てないとメタメタメタっていっちゃう(笑) だから、思いついた時はちゃんと何小節目でこう変わるっていうのを自分でMTRで作って、スタジオに持っていく。変拍子の展開とか1人で部屋でやんないと逆に上手くいかないんだよね。

・ライブについて

ロックバンドは、ライブで評価が決まるといっても過言ではない。圧倒的キャリアに裏打ちされた人間椅子は、ライブでの評価ももちろん高い。ライブの際 “どういった部分に気を使うか” をバンドマン目線で聞いてみた!

:ライブをやった時の “良いライブだったかどうか” はどこで判断していますか?

和嶋氏:ライブについては、曲を通じてその世界を “お互い共有してる” っていうことをより意識してやるようになった。その中で、自分達の表現を淀みなく発揮できた時は良いライブだね。川が流れるようにライブが進んだ時。そういう時はお客さんも凄く一体感がある。そういうライブはあっという間に終わっちゃったりするんだけどね(笑)

あんまり良くないなっていう時は、プレイしながら悩んでたりする。失敗するんじゃないかとか、これはお客さんに受けてないんじゃないかとか、何か別の考えが浮かんでくる。ここ数年のライブはそんなに悪いライブはないと思う。コツがわかったんだよね。流れるようにやっていけばいいんだってことがさ。

:そのコツが分かるまでどれくらい時間がかかりましたか?

和嶋氏:ん~……、20年くらい(笑)……実際の話。悩みなくできるようになるまでは、10年以上は絶対かかる。曲が訴えるものだとかコンセプトが必要だって気がついたのが、10年くらい前だから。それまで分からなかった。

・2回目の出場となるオズフェスト

2回目の出演が決まった「オズフェスト」。これは、人間椅子が多大なる影響を受けたことを公言している、「BLACK SABBATH」のヴォーカル、オジー・オズボーンが主催するフェスだ。紆余曲折を経てついにたどり着いた2度目の夢舞台。意気込みを語る和嶋氏はアラフィフにして、キラキラ輝く少年のような表情を見せていた

:最後に、11月22日に迫った「オズフェスト」への意気込みをお願いします。

和嶋氏:また呼んでもらえたっていう喜びが凄いんだよね。2013年のオズフェストでひとつの夢を果たしたと思ったんだけど、今回また誘われて……夢は続くんだと思った。海外ツアーは憧れなので、今回のオズフェストで海外に行けるキッカケがつかめればなあと思うよ。

だから、もちろんここでベストを尽くすよ! ここでベストを尽くさなかったら何のためにこれまで音楽をやってきたんだっていう話だしね。日本人でもハードロックができるっていうところを見せたいよね。

Report:中澤星児
Photo:Rocketnews24.

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