ロケットニュース24

【コラム】「本当に強い男ってのはこういうもんなんだよ」ってことを背中とケツで教えてくれたキックのコーチ

2015年2月8日

kickCOACH

男だったら誰だって、「強い男」に憧れるはずだ。その強い男がプロレスラーなのか、武術家なのか、スポーツ選手なのか料理人なのか棋士なのか、それとも違う意味の “強さ” なのかは人それぞれだが、ここぞという時に背中で見せる男の強さは、同性である男から見ても「カ、カッケェ〜!」とシビれまくるほどに美しい。

私(筆者)が至近距離で見た “強い男” は、中学生時代に通っていたキックボクシングジムのコーチだった。単に腕っ節が強いだけではない。「本当に強い男ってのは、こうなんだ」ということを、コーチは背中とケツで教えてくれたのだ。

・一番ヤバイ時代に生きたキックボクサー

モロに “九州男児” といった顔をしているコーチの年齢は、その当時で45歳くらいだったと思う。詳しくは分からないが、若い頃は毎週のように試合をしていたらしい。第一次キックブーム「キックの鬼・沢村忠」の時代に生きたキックボクサーだ。

顔にはヒジでカットされた傷もある。戦いを続けてきた男の顔だ。しかし、コーチはいつもニコニコ、ナチュラルなボケをかましてジム生を唖然とさせる達人でもあった。

・マウンテンバイク事件

ジムの前に停めていたコーチ自慢のマウンテンバイクが、今まさに目の前で、若い女性2人によって盗まれようとしている時があった。しかしコーチは、「おーい、なんか女の子たちが俺のチャリンコ乗ってっちゃったよォ〜」と、盗まれていることに気づかないレベルなのだ。優しいというか、かなりのレベルで抜けているのだ。

ちなみにその直後、ジム生から「コーチ、乗ってっちゃってるんじゃなくて盗まれてます!」と言われた瞬間、「そっか!」と叫んだと思うと、下は紫色のジャージ&上半身裸で「オーイ! まってくれー!!」と、爆速ダッシュで犯人たちを確保。だが、コーチは笑いながら彼女たちに「だめだぞぉ〜☆」と優しく注意するだけだった。

・牛丼屋のコーチ

こんなこともあった。あるとき、牛丼の『吉野家』でコーチと鉢合わせしたことがある。「じゃな」と先に帰ったコーチ。その後、いざ私が会計をしようと思ったら、「もういただいております」との返事。なんと、コーチが私の牛丼を払っておいてくれたのだ! その時の思いが忘れられず、私は『吉野家さん』というキャラクターで、コーチのイラストをロケットニュース24で描いたことも過去にはあった。

・コーチのケツ

とても優しいコーチだが、いざキックの練習になると真剣な眼差しで技のひとつひとつを教えてくれた。そしてコーチのパンチ、蹴りを見ていると、当たり前といえば当たり前だが、「どう考えても強い」ということが一目で分かった。

特にコーチの蹴りは変幻自在。腰の回し方がハンパなく、ハイキックを放つ時などは「ケツが横に割れてるんじゃないか?」と思えるほどの回転っぷり。コーチのケツがプリッと動くと、そのコンマ数秒後にはとんでもないキックが炸裂しているのだ。

パンチの時の腰の回転も、腰が「パーンッ!!」と鳴ってるんじゃないかってくらいのスピードであり、とても中年の男性とは思えないシャープな動きを維持していた。あえて勝手にニックネームを付けるとしたら、“薩摩の黒豹” といったところか。

・静かにコーチがブチギレた伝説のスパーリング

そんなコーチのことを、ジム生はとても尊敬していた。ちょっとバカなところもあるけれど、いつも優しいし、厳しいところは厳しい。ジム生のことを思いながら教えてくれる、心の広い薩摩の男。なにより “誰がどう見たって絶対に強い” のだから。

だが、ある時、事件が起きた。入門から1年も経ってないのに調子に乗ってしまったジム生が、恐れ多くも「コーチって本当に強いんすかァ〜?」とコーチを挑発。結果として、伝説の「究極ハンディキャップのガチンコマススパーリング」が始まってしまったのだ。そこで何が起きたのか!? ゴングは次ページ(その2)で鳴らされる。

執筆:GO羽鳥
イラスト: マミヤ狂四郎


【コラム】「本当に強い男ってのはこういうもんなんだよ」ってことを背中とケツで教えてくれたキックのコーチ(その2)

コーチを挑発したジム生は、入門当初から調子に乗っていた。私はジムで一番年下の中学生だったのだが、なぜか私を勝手に「弟子」のように扱い、腹筋中に重いボールをドスドスと腹に落としていく練習なども、なぜか私にやらせたりするのだ。

そのたびにコーチは「羽鳥はまだ中学生で発育中なんだから、やめとけ」と、彼を制してくれていた。だが、コーチが不在の時は、彼は調子に乗り続けた。しかし、いざ彼とスパーリングをしてみると、そんなに彼は強くないことに気が付いた。派手なハイキックばかりを出してしまうような、そんな戦い方のジム生だった。

・凍りつくジム内

そんな彼がコーチと談笑中、いきなり「コーチって本当に強いんすかァ〜?(笑)」と、半笑いで言い放った。明らかにバカにしたような口調だったので、まわりにいたジム生たちは、全員が「こいつ、なに言ってんだ……」と思っていたはずである。

しかしコーチは、ニコニコしながら「お、じゃあマススパーリングやるか。お前は本気で来てもいい。俺は、左脚一本しか使わないし、蹴りを放つのは1発だけというルールはどうだ」と、究極ハンディキャップのマススパーリング提案。

調子男は、「まじすか? いいんすか? マジでやっちゃいますよ?(笑)」と、半笑いで “やっちゃう宣言”。コーチは彼の安全面を考慮して、グローブとヘッドギアをつけることを指示。そして、両者リングイン。コーチは何もつけていない丸腰だ。

・映画のような戦い

緊張感の漂うジム内に、ゴング代わりの「ビーッ」というブザーが鳴った。すると、いきなりラッシュをしかける調子男。本来マススパーリングは “当てるだけ” くらいの強さで行うのだが、今回の彼はすべて本気。力を込めて精一杯打ち込んでいる。

──しかし、一発も当たらない。まるでドラゴンボールの亀仙人が「ホイッ、ホイッ」と、敵の攻撃をすべてかわしていくように、すべての攻撃を寸前のタイミングで避けている。2分くらい経過すると、全力で打ち込んでいた調子男の息があがり始めた。

・まさかの「プリケツ横割れフラミンゴ・ガード」

しかも、このあたりからコーチのプリケツが異常なまでのターボ回転をし始めた。相手のハイキックをガードするときも、またも「ケツ横割れ」のデッサンが狂った体勢で、なぜか左のスネでハイ・ガード。まるでフラミンゴのような奇跡のガードだ。

さらに、パンチも左脚でガードして、「ガードしているのだけれど、同時に攻撃にもなる」ような戦いになっていった。どんどん大振りになる調子男。コーチのガードでズッコけて、ロープに顔面を強打して鼻血まで出てきてしまっている。

・錯乱し始めた調子男

あまりにもレベルが違うことに絶望したのか、「ウオオオオオオオアアアッ!」と調子男は錯乱しながら攻撃をしかける。しかし、すべて当たらないばかりか、ガードでパンチが弾き返され、自分のパンチで自分の顔面を殴るという魔法的な状態にまで発展。

そして……「ビーッ!」というブザーが鳴った。調子男は全力で4分間を闘いぬいたが、コーナーにもたれかかったまま動かない。ゼエゼエと息を切らし、肩で呼吸をし、鼻血をボタボタ垂らしながら、茫然自失の表情で、無言で一点を見つめていた。

インターバルは1分間。その間、コーチが「どうだ、俺は強いだろ? もう1ラウンドやるか?」と声をかけると同時に、彼はうつむいたままリングを降りてシャワー室に消えていった。よくよく考えてみると、結局コーチは1発も「蹴り」を放たなかった。

・本当に強い男ってのは、こういうもんなんだ

ちなみにその後、調子男がジムに来ることは二度となかった。「本当に強い男ってのは、こういうもんなんだ」ということを、コーチは背中とケツで我々ジム生に教えてくれたのだ。今、コーチはどこで何をしているのだろう。マウンテンバイクは無事だろうか。いつの日か、コーチに吉野家の牛丼をオゴれる日が来たらイイなと思っている。

執筆:GO羽鳥
イラスト: マミヤ狂四郎

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