近年カバー曲が広く浸透している。カバー専門のアーティストが続々とデビューし、元々シンガーソングライターだった人まで、カバーしか歌わないというケースもあるようだ。たしかにウマいとは思うが、正直聞き飽きたという感が否めない。
それは、過去に売れた楽曲を使いまわしているからだ。名曲として歌い継がれるのは良いのだが、何度も同じ曲ばかりを聞かされる方のことも考えて欲しい。それこそ、売れれば何でも良いということなのだろうか? 本当にカバーでやって行けるのは、本当に歌を愛しているアーティストだけなのではないだろうか?
・機械的なカバー
カバーのシーンは、現在、二分(にぶん)されているといって良いだろう。ひとつが先に挙げた、売れた楽曲を使い回す売り方。おそらく当初は、歳を重ねた人には懐かしく、若い世代には新鮮に聞こえるような曲を選んで、カバーしていたはずだ。それがそこそこ売れると、また同じ曲を使う。機械的にカバー曲がリリースされているため、聞き飽きてしまうのではないだろうか。いわば借り物競争である。
・カラオケのようなコンサート
少し話がそれるが、知り合いの音楽関係者に聞いた話をお伝えしよう。カバーで有名になったあるアーティストが、コンサートで「僕も楽しみますので、皆さんも楽しんでください」とステージ上で話したそうだ。まるで客を、客と見ていないような言いよう。それで歌う唄が借り物であっては、カラオケに連れ込まれたようなものではないか。これでは機械的なカバー曲を、機械的に歌っているにすぎない。
・曲に息吹を注ぎ、記憶を呼び起こす
シーンを二分しているもうひとつが、こだわりを持ったカバーである。シンガーとして、曲に敬意を表しているカバーは、聞いていても心地よい。曲とはいわば、ひとつの記憶である。多くの人がその曲に触れるとき、その当時に思い出や感情が湧き起ってくるはずである。曲に新たな息吹をおくり、その眠った記憶を呼び起こすのも、シンガーの役割ではないだろうか。カバーアーティストであれば、思いを込めてその歌を歌い継ぐ使命がある。当然、「思い」は使い回すことなどできないのである。
・どの歌手もリリースしていない曲
わかり易い例を挙げると、女性シンガーMay J.はその高い歌唱力で一躍脚光を浴びるようになった。2013年6月にリリースした『Summer Ballad Covers』は、カバーアルバムとしては異例の30万枚をセールスする大ヒットとなっている。
その彼女が、どの歌手も自らの作品としてリリースしていない曲にチャレンジする。誰もリリースしていない楽曲のカバーとして知られているのは、平井堅の『大きな古時計』だ。誰もが知っている曲だからこそ、歌唱力が求められる。そしてMay J.が挑戦するのは、『Believe』である。自身が卒業式でも歌ったというこの曲、彼女にも思い入れがあるに違いない。それを渾身の力を込めて、見事に歌い上げているのだ。
実力があるシンガーだからこそできる、究極のカバーといっても過言ではないだろう。May J.はその難しい挑戦に打ち勝ち、見事に自分の歌として、思いをのせている。
・卒業のあの日
この曲を卒業式の日に歌ったという方は、ぜひ一度聞いてみて頂きたい。胸の奥にしまっていたあの日の記憶と感情が、よみがえるはず。またこれから卒業を迎える皆さんは、この曲と共に新たな人生を歩んでいって欲しい。
参考リンク: May J.オフィシャルサイト、iTunes『Heartful Song Covers』
Photo: Rocketnews24