通常のオークションサイトより、格安で商品が手に入ると話題のペニーオークション(以下ペニオク)。入札ごとに手数料がかかるものの、落札価格は安く、販売価格の9割引きで手に入る場合もある。

しかし落札できなくても、高額な入札手数料が発生するために、国民生活センターへの相談が増加している現実もある。いかさまで値を吊り上げて、ユーザーから手数料だけを巻き上げているサイトもあるというのだが、実際のところはどうなのだろうか? ロケットニュース取材班は、日本のペニオクの草分け的存在である、「エンオク」の事務所を尋ね、その実態について調査を行った。

事務所を訪ねると、取材班は最初に大変驚くべき光景に遭遇した。それは商品の山だ。ペニオクサイトは商品の落札代行を行い、ECサイトなどから直接ユーザーに、商品を発送しているからだ。事務所に入ると大型テレビの山。ついでその奥には、ゲーム機が所狭しと並べられていた。詳しい状況については後述する。

取材班を迎えてくれたのは、広報担当であり取締役の青山氏であった。とても明るい表情を携えた物腰の柔らかい人物で、非常に好感触。てっきり怪しいスーツ姿の中年男性を思い浮かべていたのだが、ここでもまた驚かされたのである。

■乱立するペニオクサイト。なかには怪しいサイトも

記者: まず最初に運営体制についてお教え頂けますか。

青山氏: うちは4人でやってます。うち代表以下運営が1人と制作が1人です。

記者: 意外と少人数ですね。

青山氏: それ以上抱えることができないので。

記者: 噂ですが、エンオクさんは他にもペニオクをやってらっしゃるとのことですが。

青山氏: トンでもないです。これ以上、サイトは(運営)しないし、したくないです。

記者: それはなぜですか?

青山氏: 今、いくつペニオクサイトがあると思いますか? ライバルが多すぎて、運営してもプロモーション的な体力がありません。我々が立ち上げた当初は、限られたサイトしか存在していませんでした。今年の4月のことです。それが週を追うごとに何十件と増えて行き、1カ月を過ぎるころには、どんどんサイト開設されて何百件レベルで毎月増えて 行ったんですよ。サイトを開設しても他のサイトに埋もれて行くだけですね。

■「ペニオクユーザーだった」立ち上げの経緯

記者: どうしてペニオクサイトを立ち上げようと思ったのですか?

青山氏: まず1つが私自身、「ヤスオク」(ペニーオークションサイト)のユーザーだったんですよ。そこではまりましてね。ヤスオクさんだけでなく、海外のサイトに も入れ込んでまして。今、日本にあるほとんどのサイトが手本にしているドイツの「Swoopo」をモデルに、自分たちでサイトを立ち上げることになりました。

記者: なるほど。

青山氏: それともう1つ理由がありまして、私が経営に関わっているブランド品の販売会社があるんです。そこの商品を提供できるという背景もあったもので、サイト開設の話は比較的スムーズに進みました。

記者: それでエンオクさんは、ブランド品にも強いんですね。

青山氏: そういうことです。

■月額2000万円の広告費を削減

記者: 運営していらっしゃっていろいろあるかと思うんですが、どのようなことで1番苦労しますか?

青山氏: おそらく、めちゃめちゃ稼いでいるイメージがお有りかと思いますが、実際はそうでもないです。ほとんど残らないですね。

記者: というと。

青山氏: 以前は、アドワーズやオーバーチュア(いずれもクリック課金広告サービス)でうちの名前を良く見たと思うんですが、今はほとんど出していません。

記者: そういえば、そうですね。広告に御社名を見ないような。

青山氏:
削減しているんです。サイトを立ち上げてから最近まで随分(お金を)突っ込んでいたので。

記者: どのくらいですか? 差し支えなければ教えて頂ければ。

青山氏: サイト開設当初は1日多い日で80万円前後です。それを3ヶ月続けていました。

記者: 1日80万円!1カ月に2400万円前後ですよね!

青山氏: 商品ごとにキーワード広告を購入してたりして。4月の段階ではキーワードも安かったんですけど1週間経つにつれて、どんどん高騰して行ったんですよね。それで結局最初の3ヶ月で相当使ったんじゃないかな。

記者: そんなに! まさか今も続けてるんですか?

青山氏: いえ、もう止めてます。大手も参入してきて、いくら突っ込んでもキリがないんですよね。

記者: ちなみに今は、いくらくらい掛けてるんですか?

青山氏: 今は1日10万円くらいですかね。モバイルのプロモーションはしていません。

■即日配送へのこだわり。商品在庫を持つ

記者: そのほかにもいろいろ苦労される点があるかと思いますが。

青山氏: うちは翌日発送を必須にしているので、商品によってはちゃんと事前に仕入れを行います。

記者: そうですよね。アマゾン直送で、商品の購入代行をされるサイトもあるようですが。

青山氏: 大型テレビやゲーム機などは、手元に置いておかないと、翌日発送できないんです。オークションの延長時間が長時間に渡ると出品日と落札日に大きく誤差が生じるため、ユーザーの方が落札されたのに、例えばECサイトさんの在庫が切れていたら、商品発送ができないですよね。その危険を避けるために、ここ(事務所)から発送するようにしています。今はしないですが、立ち上げた頃は私が直に届けていたこともありました。

記者: 青山さんがですか? それはなぜ?

青山氏: ユーザーの方の率直な感想を頂きたかったからです。あのとき頂いた意見は今のシステムにも反映されていますよ。

記者: そうなんですね。伺った皆さんは、どういった方でしたか?

青山氏: 利用される方は、ギャンブル感覚でオークションに参加されているようです。利用者の方の落札商品一覧を見ると、何かが欲しいという感じではなくて、あるときはヴィトンのバックを購入されたり、またあるときはアニメのDVDを購入されたりと、統一感はないですね。

記者: 競り合うのを楽しんでらっしゃる感じですかね。

青山氏: 多分、そうだと思います。

■人気はPSP、37型テレビは入札されない(人気がない)

記者: 商品についてお尋ねしますけど、一番人気のある商品って何ですか?

青山氏: 携帯ゲーム機が人気ありますね。

記者: ニンテンドーDSとか、プレイステーション・ポータブルとかですかね。

青山氏: ええ、DSよりPSPが人気があります。

記者: そうなんですね。逆に不人気の商品は?

青山氏: 37型テレビです。

記者: 大型テレビ、不人気なんですね。

青山氏: いえ、37型が人気ないんです。

記者: 37型に限った話なんですね。それはなぜ?

青山氏:
「どうせ大きいのを買うなら、42型にしよう」と思われるようで、37って中途半端なんですよ。だから、うちは以前より在庫を減らしています。

記者: なるほど、「買うなら一番大きいのにしよう」といった感じですね。

青山氏: 多分、そうじゃないかと思うんです。とにかく37は人気ないです。

■エンオク必勝の秘訣

記者:
狙い目の商品とか、狙い目の時間とかあったら教えて頂きたいんですけど。運営者しか知らない「ノウハウ」みたいなものを、教えて頂ければ。

青山氏: そうですね、ノウハウというかテクニックはあります。

記者:
おお! それを教えて頂きたいのですが。

青山氏: ただし、勝つ方法というよりも、負けないテクニックですね。

▼▼▼エンオクが教える、オークションに負けないためのテクニック▼▼▼

1)、ユーザーが少ない時間帯を狙う。

エンオクは常時4,000人以上のアクティブユーザーがいる。比較的手薄な時間は午前4~8時までの約4時間。その時間を狙って入札すると良い。

2)、欲しいものの価格は、落札済み一覧で価格をチェックしておく。

エンオクは落札済みの商品、約2万3000点の落札価格を公開している。欲しいものがあった場合は、それを見て落札相場を事前にチェックすると良い。
なお、人気商品は商品単位で落札一覧を設けている。

■例:REGZAPS3、PSPiPad

3)、コインパックの落札履歴をチェックする。

大量のコインパックの最終落札者が同じニックネームの場合、そのニックネームのユーザーは、大量にコインを持っている可能性があるので強敵と言える。
ただし、落札だけして購入しないユーザーがいるため、一概に大量にコインを持っているとも言えない。

4)、ヘビーユーザーに気をつける。

落札者のなかでも、常連に当たる人がいる。それらの人とぶつかった場合は、引くのが得策。競り合うだけお金を無駄にすることになる。

ちなみに、落札データ一覧がベクターで配布されており、それを使えば、相場を容易に確認できる。(ベクターソフト:「エンオク!相場検索用 落札データ一覧」)

■コインパックが格安で落札されるサイトは要注意

記者: いろいろお教え頂き、ありがとうございます。購入履歴は重要な情報なんですね。

青山氏: 重要ですね。

記者: もう1つお教え頂きたいのですが、悪質業者の見分け方などあれば。

青山氏: ええ。これは同じ運営の立場からして、「おかしい」と思うサイトは怪しいですね。

記者:
運営者が怪しいと思うサイトとは?

青山氏: コインパックが格安で落札されていた場合、そのサイトは怪しいと思います。

記者: というと、どういうことでしょうか。

青山氏: 一概にはいえないのですが、コインパックというのは、我々にしてみれば現金そのものです。その現金が半額以下で落札されている場合は、商品を競り合ってない可能 性があるんです。つまり、運営者がパックを大量に放出して競争しないように仕向けているんですね。そうすると、値は釣り上がらず、ユーザーは格安でパック を手に入れられる訳です。

記者:
ユーザーにとってはメリットが大きいように思うんですが。

青山氏: 運営者は身銭を切っているという体裁なのですが、それでそもそも商品が落札できなかったら、どうですか? 安くコインパックを手に入れても、意味ないですよね。

記者: たしかに。意味ないですね。

青山氏: その手口で、コインパックだけを売りつける業者もあるんですよ。ですから、安い値ばかりで落札されていたら、そのサイトは注意が必要ですね。

■ペニーオークション協会の設立について

記者: 業者が乱立していますが、モラルを向上するために、協会を立ち上げるといった動きはないんですか?

青山氏: 広告代理店や、決済会社とも話題に上りますが、一部でそういう動きもあると聞いています。ですが、具体的には進んでいないようですね。オークションを荒らすブラックユーザーの情報や、クレジットカードを使った詐欺の情報について、 共有することができれば良いと思っています。

■売り上げ目標1億円。ヤスオクのようなサイトを目指したい

記者: いろいろ苦労も絶えないようですが、今後の展望をお聞かせください。

青山氏: そうですね。今は苦しい時期ですが、売り上げで1億円は目指したいと思います。

記者: 目標とされてるペニオクサイトはありますか?

青山氏: ヤスオクさんでペニオクの楽しさを学んだと思っていますので、ヤスオクさんみたいになりたいとは思います。

■オークションは自己責任で。気軽に参加するべきではない

記者: ペニオクについては、世間から厳しい意見もあるようですが、その点について一言。

青山氏: そうですね。正直申し上げまして、参加は自己責任だと思うんです。後払いで高いお金を請求するわけではなく、事前に入札手数料がかかることはユーザーの皆さんにもご理解頂いていると思います。ご自身の意志で参加されているのですから、自己責任でお考え頂きたいと思っています。

記者: なるほど。

青山氏: それから運営者がこういうのも変ですが、気軽に参加するべきではないとも思っています。ギャンブル性が高いことを、改めて承知して頂きたいですね。

都合2時間にも及んだインタビューを青山取締役は最後まで笑顔で応えてくれた。かなり立ち入った内情について率直に回答頂き、ペニオクサイトの裏側を垣間見ることができた。最後に目標について尋ねると、「たくさんのペニオクサイトが立ち上がっては消えて行く状態が続いています。丁寧な運営をされているにも関わらず、閉鎖された他社さんもあります。良質サイトがより多く生き残ってくれることを願います。我々もユーザーの皆さんに愛されるサイト運営を 心がけて行きたいですね」と語り、やはり笑顔で取材班を見送ってくれた。

今回事務所にお伺いして、インターネット上でささやかれる噂と、その実態には違いがあることを確認した。青山さん直々で商品を配送し、ユーザーから直接 意見を聞きだしているとは、かなり意外であった。その知恵があればこそ、いずれはペニオクサイトの悪しきイメージを払拭してしまうのではないだろうか。さらなる発展に期待したい。

▼左にPS3が2個、右のダンボールは配送用

▼人気のあるゲーム機はストック

▼SONYのPSP。DSよりも人気なんだとか

▼こちらはWii

▼玄関には、パンフレットが。

▼空気清浄器

▼コンクリート打ちっぱなしには、緑が似合うなぁ