ロケットニュース24

【ひと駅の旅】西武新宿線『新井薬師前』から『沼袋駅』へ / 変わりつつある駅の「昭和の面影」を探して

2日前

最近各地で駅の改修工事が進んでいる。

私(佐藤)の住む東京・中野のJR中野駅は2020年から始まった大規模な改修工事が大詰めを迎えており、2026年末には橋上駅舎が完成し、開業する予定なのだとか。

以前とは比べ物にならないほど、駅周辺の景色が様変わりした。

中野駅に限らず、各地で老朽化などの理由から改修が進められている。利便性が向上するのは有難いことなのだが、昔の街の風情がなくなるようで寂しくも思う

そこで、工事中や工事予定の駅を訪ねて、その周辺に残された「昭和」を探すのがこの企画。慣れ親しんだ面影がなくなる前に、この目に焼き付けておきたい。初回は西武線の新井薬師前駅から沼袋駅を訪ねた。

・ささやかな日常に

先に述べたように、改修されつつある駅の風情を記録するのがこの企画の主旨である。それと同時に、遠くに行かずとも、日常の景色の中にも発見がある。そのことを読者の皆さんにお伝えしたい。

こんな時代、「豊かさ」とは何かわからなくなることもあるだろう。ささやかな日常、身近な景色に潜む驚きや感動に気づくことこそ、豊かさではないだろうか。皆さんにも日常の発見を楽しんで頂きたいのだ。


・新井薬師前駅

さて、なぜ今回新井薬師前駅を訪ねることから始めたのか? その詳しい経緯は後述させて頂こう。

まずは眼病平癒・子育薬師として知られる「梅照院」へと向かった。この日は晴れた日曜日であったため散策している人の姿が多く見られる。桜の開花が宣言される前だったため、まだ花見とはいかなかったけど、それでも十分に春の空気を感じさせる。


「新井薬師公園」ではすでに桜祭りの準備が整っていた。提灯が張り巡らされていて、あとは花開くのを待つだけ。次の週末、もし晴れたなら花見を始める人もいるだろう。


白状すると、私は新井薬師がどこだか知らなかった。梅照院のことを指すと知ったのは今回訪ねてからであって、それまでは通り向かいの「北野神社」がそうだと思っていた。こちらは「新井天神 北野神社」が正式名称。つまり、学問の神様菅原道真が祀られているのである。


こちらは「プリンセス雅」という桜が満開! 見上げると鳥たちが桜の花をついばんでいる。


なんて名前の鳥だろう。こういうときに、パッと名前が出てくるくらいの知識は備えたいものだ。その方が散策は楽しいはず。


梅照院・北野神社とお参りして、本来の目的地である「新井薬師前駅」へ。たしか以前は周辺に昭和を感じさせる古い建物が立ち並んでいたはずなのだが、すでに駅南口は更地になっていた。ここから建物の陰で見えなかった駅舎が丸見えになっている。寂しい景色だなあ……。


工事エリアが駅舎のすぐそばまで迫っていて、駅看板が半分隠れてしまっている。地下化するということだから、いずれ改札も地下に移動することになるのだろう。


地上改札はそう遠くない未来に、この地面の下に行くのかもな。


中井から野方駅までの7カ所の踏み切りがなくなる工事計画。これを地下に移設するなんてことが本当にできるのか? そう思われる人もいるだろう。これができるんだなあ。

私は若い時分に、地元島根県の出雲市駅の高架化工事に携わったことがあって、踏み切りを撤去する工事を経験している。「こんなことできるのか!?」と思うような工事を実際に経験しているので、地下化もできることを体験を通して知っているのだ、そりゃあもうすごい工事だったよ、うん。


・古い地図、航空写真から見えたもの

それで今回、どうして新井薬師前駅から始めようと思ったのか? それにはいくつか理由がある。まずひとつが今の駅の姿はいずれ見られなくなるからだ。西武新宿線では現在(2026年3月)、中井~野方駅間の地下化(連続立体交差事業)の工事が進んでいる。2033年度末の完成をめどに約2.4kmの区間、7カ所の踏切を除却する予定だ。

https://rocketnews24.com/wp-content/uploads/sites/2/2026/03/新井薬師前駅(電車通過).mp3?_=1

合わせて駅舎の建て替え工事も行われている。記録に残すには少々出遅れたかもしれないが、今のうちに見られる景色を見ておきたいと思い、新井薬師前駅へ行くことにした。

訪ねるに当たって私は事前に周辺地域の古い航空写真を確認した。参照したのは「沼津工業高等専門学校」が公開している「ウェブで過去の地形図や空中写真を見る」である。

https://rocketnews24.com/wp-content/uploads/sites/2/2026/03/新井薬師前駅から沼袋駅.mp3?_=2

新井薬師前駅は1927年に開業しており、1950年頃の旧版地図を見ると西武線は「西部農業鐡道」と記されている。当時東京都の委託で糞尿輸送を行っていたことから、「肥やし列車」とも呼ばれていたそうだ。

もうひとつ歴史をひも解いて気づいたことがある。それは1947年の航空写真を見ると、梅照院(新井薬師)の位置を確認すると、その場所に建物が見当たらないのだ。調べたところ、「山の手大空襲」(1945年5月2)で焼失し、現在の建物は戦後に建てられたものだとわかった。

それから「中野平和の森公園」が刑務所の跡地に作られたことも、地図を見て初めて気づいた。この街にそんな歴史があったとは、10年以上暮らしているのに、まったく知らなかったのだ。

https://rocketnews24.com/wp-content/uploads/sites/2/2026/03/沼袋駅前.mp3?_=3

・沼袋駅

新井薬師前駅から乗車して沼袋駅に到着、時間にして約1分30秒。この区間、約1.3kmもすべて地下に潜るとなると、車窓から見える景色ももう見られなくなるな。


駅を出るとすぐ踏み切り、たしかにこの沿線は踏み切りが多い。朝夕のラッシュ時には間違いなく渋滞しているはず。それらが解消されることを思えば、地下化の工事には大きな意義がある。


駅周辺が大幅に生まれ変わるとなると、この昭和な地図看板もなくなっちゃうな。


味のある手書きの地図。理容室と思われる「ヤング」という店名も、昭和だなあ。


北側を少し歩くと、こんなところに銭湯!? 駅近にもほどがある! 時間が許せば「一の湯」に入って行きたかったんだけど、今、猛烈にお腹が空いてしまって、風呂に入るゆとりはないなあ。


その先を少し行くと小さな飲み屋街、この辺は意外と飲み屋さんが多いんだね。どこも味のあるお店だ。


さらに北に向かって歩いていると、突然大きな鳥居出現。「大岡稲荷大明神」? これは、さぞ大きな神社があるに違いない。


……と思ったら、すごく小さな社があった。ご祭神は「宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)」なのだとか。鳥居ににつかわしくない社のサイズにびっくりしてしまった。もちろんちゃんとお参りさせて頂きましたよ。


それにしても~……、腹が減った~……。どこかにフラリと入りたいのだけど、手頃なお店が見つからずに右往左往……。

GoogleMapsで見つけた「まんぞくキッチン」というところに行こうとしたらお休み。ついでにお隣の「リジャウル」ってところも休みでした。まんぞくキッチンで満足したかったのに。


比較的昭和の色の濃い北側周辺にも工事は迫っている。この衝立がなかった頃は、もっと風情のある景色だったのだろう。


腹ぺこで歩いていたら「中華料理」の暖簾が目に入った。もうここに入るしかない! 何でもいいから食事をしたい!


すがるように「大陸」に入店。するとお店にはご主人と常連と思われる年配の男性が1人。2人はテレビで「春の選抜(第98回選抜高等学校野球大会)」を見ていた。ちょうど対戦は佳境を迎えていた。

1回戦「大垣日大」(岐阜)対「近江」(滋賀)。9回を終えて0対0のまま延長10回タイブレークに突入していた。私もその空気に習って、試合を見つつタンメン(税込700円)と餃子(税込400円)を注文。オーダーが出てくるまでの間に大垣が2点を先制し、勝利に王手をかけた。


両校の投手はともに投球数100球を越えており、疲れがピークを迎えている様子。どっちが勝てというわけでもないけど、どっちにもがんばって欲しい。そんな気持ちで1球投げる度に、私も常連さんもご主人も「おお~!」と声を上げていた。

そしてタンメンをすすりつつ試合の行方を見守り、近江が1点を返したものの、そのままゲームセット。大垣日大が勝利した。

餃子を頬張ってはテレビを見て、また1個食べてテレビ。その繰り返しをしながら、まるで自分も常連であるかのように、その空気を楽しんだ。料理もさることながら、居心地の良さが何よりのご馳走。愉快な昼食をとれて大満足である。


再び駅の方に戻って、先ほどチェックしていた喫茶店「炭火珈琲 猫丸」へ。きっと良い店に違いないと踏んでいたので、迷わず階段を上がった。


お店はいわゆるレトロな喫茶店で店内にはジャズが流れており、上品なマスターが温かく迎えてくれた。もうそれだけで私は癒されている。事前の見立ては間違いではなかった。カウンターに座って、苦味ブレンド(税込480円)を注文。

あとは静かにコーヒーをすすりつつ、ジャズに耳を傾ける。普段ならすぐにスマホをいじって、見るともなくSNSなんか見てしまうけど、そもそも何かを知りたくて見ているわけじゃない。無意識でどうでもいいことに時間を割いてしまう。それがバカバカしく思えたので、今はただコーヒーと音楽に集中する。

時間にして15分もなかったかもしれない。それでも手癖を遮断したら、なんだか心が静かになった。きっとこのお店の居心地が良いから、そんな風に時間を使いたいと思ったのだろう。心を鎮めたいときに来たいお店だ。


・好奇心次第

沼袋から南へと歩を進めると、すぐに「妙正寺川」に当たる。この川は、山の手大空襲の時に北側と南側の明暗を分けたと思われる。というのは、1947年の航空写真を見ると、焼野原になった南に対して、北側は建物が残っているように見えるからだ。


ちなみに橋に掲出されている看板を見ると、江戸時代にこの川で取れた蛙を上納していたのだとか。ここにも知られざる歴史の痕跡が。


そしてそのすぐそばには「平和の森公園」。刑務所だった時代の景色はどんなものだったのだろうか? 今では区民の憩いの場として親しまれている。



さらに南に向かって、ホームの中野駅に帰ってきた。年末完成予定だけあって、駅ビルの外観はほとんどできているように見える。利用しやすくなるのは良いんだけど、どこかで見たような建物だよなあ。新宿みたいに見えるのは気のせい?


一方の中野サンプラザはどうなってしまうのかな~。空き家になってもう2年半以上。そろそろなんとかして頂きたいものなのだが……。

新井薬師前から沼袋、たったひと駅の旅でも、今まで知らなかったこと、気づかなかったことをたくさん発見できた。皆さんも身近な駅・身近な景色を探索してみてほしい。思わぬ発見に出会えるかもしれない。見知った場所でも、好奇心次第で存分に楽しめる。ささやかな日常を楽しもう!


参考リンク:ウェブで過去の地形図や空中写真を見る、西武鉄道新井薬師梅照院毎日新聞
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24

▼中野で有名なアメリカンホームベーカリー「カイルズグッドファインズ」


▼アップルパイやチェリーパンでよく知られている。買いたかったけど、覗いたらチーズケーキしか残ってなかった。次こそアップルパイ!

モバイルバージョンを終了