たとえば月曜日の通勤時に「このまま会社に行かずこの電車に乗り続けたらどうなるのか……」と思ったことはないだろうか。
私は長年通勤に使っている都営新宿線・橋本行きの電車に乗りながら、そんなことを思い続けてきた。新宿線の終点「橋本」は私にとって行けそうで行けない、遠く見果てぬ地である。
なんとなく会社に行く気がしない連休明けのある日、私は会社の最寄り駅を素通りし、橋本まで行ってみることにした。橋本には一体何があるのか……。あえて全く調べずに行ってみたい。
・会社がある新宿三丁目を通り過ぎ…
我らがロケットニュース24編集部の最寄り駅は新宿三丁目駅である。
私はいつも都営新宿線に乗って新宿三丁目駅で降りるのだが、今日は降りない。そのまま終点の橋本駅まで行くと決めたのだ。
さらば会社よ、新宿三丁目よ。私はついに憧れの地・橋本へ行くのだ。
気持ちのいい秋晴れで、会社をサボるにはうってつけの日である。
都営新宿線は新宿から先は京王線に乗り入れとなる。新宿の次の初台からは地上に出て、のどかな風景が広がる。この開放感よ! 新宿のビル街から一転して、車窓には住宅街が広がり、車内にはあたたかな日差しが入り込む……。ああ、のどかだ。なんてのどかなのだ。
桜上水、八幡山、つつじヶ丘……と、都心を離れるにつれてどんどん緑が多くなっていく。
一度、調布で地下に入ってしまうが、京王多摩川から稲田堤にかけては、窓から多摩川の河川敷が見える。
最高の眺めである。仕事をサボって遠くまで来た感がある。私はこんな景色を眺めることを夢見ていた気がする。
電車のガタゴトというリズム、温かな日差し、静かな車内……
だんだん眠くなっていく。眠ったっていいのだ。だって終点まで行くんだから。
私が想像する橋本駅は、のどかな住宅街の中にある何の変哲もない小さな駅である。素朴な駅名そのままに、駅の周辺にはコンビニとスーパー、近くに大きな建物はなく、何もないような場所……。
会社をサボって行く終点駅には、何もない場所くらいがちょうどいい。駅のロータリーで缶コーヒーでも飲んで、ひとしきりボーッとしたら帰るのだ。
きっとこのままどんどん景色はのどかになり、やがて車内には誰もいなくなるのだろう、そんなふうに思っていたのだが……。
・どんどん人が乗ってくるのだが…?
終点の橋本まであと4駅の京王多摩センター駅から人がどんどん乗ってくるではないか。え、みんなサンリオピューロランド帰りか何か?
普通、終点に近づくにつれて駅は小さくなっていくはずなのに、駅も相変わらず大きい。車窓から見える景色も、大きなマンションとか団地、大型ショッピングセンターだらけである。
その後も終点に近づくにつれてむしろ乗客は増えていき、平日の昼だというのに橋本に着くころには立っているお客さんもいるほどになった。えっ、どういうこと……!?
・ついに橋本駅到着
「次は、終点 橋本。橋本です〜」
新宿から約1時間、長年、夢想し続けた最果ての地、橋本にいよいよ降り立つときが来た。
駅に着くやいっせいに人が降りていき、そして折返しの電車に大勢の人が乗っていく。
さて、私が小さな駅だと予想していた橋本は……
私の想像の20倍くらい大きかった
駅の周りには大きな商業施設が並んでおり、一部は再開発のために大規模な工事中だ。(10月11日 追記:なんとリニアモーターカーの神奈川県駅を建設中だそうです)
そもそも、駅の構内からして店が多いのだ。
セブンイレブンもあるし、ガチャガチャショップもあるし……。
京王デパートの出張所みたいな売店があるし、かわいい花屋さんもある。
書店もあるし、宝くじ売り場もある、スリーコインズまである。
いったいどういうことだ? と思ったら……
そもそも橋本駅はJR横浜線・相模線とつながった大きなターミナル駅だったのだ。
し、し、知らんかった〜〜〜〜〜!!!!!!
たぶん、神奈川県民からしたら常識なのだろうが、地方から上京してきた田舎もんの私は知らなかった。勝手に小さい駅だと思っててすみませんでした……。
・駅前、めっちゃ栄えてるやん
さらに駅前に出てみたら、かなり便利な感じの栄え方をしているのにビックリした。
まず、駅前に商業施設が3つくらいある。その中に無印とかダイソーとかカルディとかの生活雑貨系チェーン店や、スタバや王将や回転寿司などの飲食店が入っている。
ユニクロもリニューアルしてオープンするとか。
少し離れたところにはセブン&アイグループのアリオというショッピングモールもあるらしい。
近所にあったら便利なんだよな〜って店がだいたいそろっているので、ちょっとした買い物ならほとんど駅前で完結しそうだ。
私がイメージしていた静かで何もない街どころか、ちょっとした地方の県庁所在地よりだいぶ栄えている印象すらある。
始発で都心まで乗って行けて、横浜にも電車一本。さらに駅前でだいたいの買い物がそろう……橋本は暮らしやすい街なんだろうな……。
せっかく来たのだから「橋本ならでは」っぽい店にでも行こうと思ったが、近場には個人店はあまりなく、ドトールでお茶したあと1時間かけて新宿三丁目まで戻って仕事をした。
橋本は私が想像するよりずっと大きな駅であり、駅前に何でもそろった住みやすそうないい街だった。
見知らぬ終点駅への憧れを抱いていたものの、家から片道2時間かけて「隣の県のちょっと栄えた街」に行ったという、あまり夢のない結果になってしまった。まあ、自分の勝手な思い込みと知識不足のせいなのだが。
橋本のことを知れてよかったような、よく知らないまま通勤電車で最果ての地を夢想する日々がよかったような、なんとも言えない気持ちになってしまった。
さて、あなたがいつも使う通勤電車やバスの終点には、どんな景色が広がっているのか……1度出かけてみてもいいのかもしれない。
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.
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