異なる土地に “よく似たおとぎ話” が伝わっているという事例は数えればキリがない。例えば私の出身地である鳥取県は『はごろも天女伝説』の里として大々的に町おこしをしているが、ほぼ同じ話が静岡や大阪、沖縄などにも存在しているようだ。
私が今回訪れた奄美大島は、かの有名な『浦島太郎』に深く関連する場所らしい。あの物語に「奄美が舞台」という印象はない……しかし “亀を助けた男が竜宮へ招かれる” という同様の事例が複数の土地で発生した可能性も、絶対にないとは言い切れないかもしれない?
とか考えながら奄美大島をドライブしていたところ、「マジで竜宮は奄美周辺なのかも」と感じる出来事があったのでご報告させていただく。
・島と亀と竜宮城
ちなみに浦島太郎と奄美大島との関連については、島最北端にある映えスポット『夢をかなえる「カメ」さん』の石碑に記されていた。
なんでもこの地では、古くより「竜宮から人々に幸福がもたらされる」という言い伝えが信じられていた。それが日本全土に伝わる過程で『浦島伝説』が誕生したのだとか……たしかに実際に竜宮城があるとすれば、可能性が高いのは奄美や沖縄といった南の海だろうな。
また奄美大島で亀は、ハッピーな生き物として特別扱いを受けている様子だ。街を歩けば『亀』と名のつくお店がたくさん。余談だが私は苗字を「亀沢」といい、亀に対して親近感を抱いている。
そんな亀大好きっ子の私が、奄美大島をドライブ中に発見したのが……
亀っぽいものを乗せた珍妙な建物だ!
・奄美うらしま別荘伝説
場所は奄美空港から市街地へ車を10分ほど走らせた海岸沿い。この島を訪れたらほぼ確実に通る道なので、注意深く海の方向を見ておけば見逃すことはないだろう。
壁面に描かれた青い海、空、ハイビスカスに海の生き物たち。そして鮮やかな虹の上には……
なぜか亀に乗った浦島太郎(立体)が鎮座しているのだった。その独特すぎる雰囲気は少しの恐怖を感じるほどだが、さらに驚くべきは建物の横にある石碑だ。
石碑には『奄美うらしま別荘伝説』と題された文章が記されている。一字一句そのまま書き起こしてみよう。
奄美うらしま 別荘伝説
美しい大海原と白浜の浜辺を
見下ろす別荘の屋上に、うらしま
太郎と亀を置いた。そのときから、
ここは竜宮城と化しました。ここを
訪れるみなさまの夢と熱い想いに
よって、竜宮城の扉は開かれる
ことでしょう。幸せと安らぎを
運ぶ館、奄美竜宮城へようこそ。
書き手 出水沢 藍子(作家 奄美生まれ)
うらしま別荘 前田 三千代(語り手)
・真相に迫ってみる
……なんど石碑を読み返してみても、実際にそういう伝説があるのか、はたまたジョーク的なものなのかが、私にはどうしても判別できなかった。
別荘伝説について後日リサーチしたところ、どうやらド派手な建物は “貸し切りの宿泊施設” であることが判明。ここは正式名称を『奄美カメハウス』といって、今から約30年ほど前、石碑に記された「前田 三千代さん」によって建てられたようだ。
残念ながら前田さんは数年前に亡くなっており、『奄美浦島別荘伝説』の元ネタに関する詳細は不明。逆説的には「すでに伝説化している」ため、竜宮伝説に深みが増したといえよう。
・海亀とガチ遭遇
さて……せっかく来たので私はカメハウスぞいの海へ潜ってみることにした。( ※ 周辺の海岸線は私有地のため勝手な立ち入りは禁止。宿泊者は利用可)
この青い空、白い砂浜、透き通る海。
見る者全てを「移住したい」という気持ちにさせる圧倒的な美が、そこにはある。
この日の気温は20度を下回っていたが、思い切って海へ入れば意外と温かく、最後は「外のほうが寒い」と感じるほどだった。そして15分ほどチャパチャパと泳いだ浅瀬に……
なんと、普通に海亀が泳いでいたのである!
野生の海亀と泳いだ数分間は、時間の感覚がバグるほど不思議な体験だった。ひょっとして玉手箱の原理って、こういうことだったんだろうか……? マジで竜宮城へ連れて行かれるのではないかと怖くなり、慌てて岸へ戻ったほどである。
残念ながら私の滞在期間中、カメハウスはすでに予約で一杯。建物内を見ることはできなかったが、この美しいビーチだけで宿泊費以上の価値はあると強く確信している次第だ。興味のある人は島を訪れてみてほしい。
執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.