ロケットニュース24

【バズ飯の闇】ある飲食店を取材しようとしたら闇落ちしていた話

2023年2月8日

基本的に本音でレビューすることを心がけているロケットニュース。

ライターによってやり方は色々だが、店から接待などを受けないために、飲食店の取材は事前に許可を得ないこともある。私も食べたあとに「記事にしたいな」と思ったら名刺を出して許可を得るパターンが多い(個人店の場合)。

お蔵入りになった取材に関する裏話というのは色々ある。心あたたまるものもあれば、粋なものもある。

いっぽうで、期待して行ったのに空振りになることもある。今回は、SNSでちょっとバズっていた店がすっかり変わっていた話をお届けしたい。(※店の特定を避けるためにフェイクを入れています)

・人気店のはずが…


所用でとある街を訪れたときのこと。普段、あまり行かない街に出かけるときは、なにか面白いネタが拾えないか、街をぶらぶらすることが多い。

調べたところ、インスタで見かけて気になっていた珍しい料理を出す店が近くにあることが判明。しかも営業時間が1日に2〜3時間ほどと、めちゃくちゃ短い! 

記事にできそうだと思ってさっそくお店に向かった。数年前に某くんグルメに紹介されたうえ、席数も少なく提供に時間がかかるため、行列になることも多いと聞いていたのだが、待つことなく入れた……というか、私以外に客がいない。

平日の昼だからかな? とも思ったが、なんとなく違和感があった。店に活気がないのだ。


・先会計での衝撃

入口をのぞくと、店主が店から出てきた……というか、店内に入るのを阻まれたというのに近かった。

「うちのお店は初めてですか? うちは先に注文して会計してもらってから席につく形になってます」と説明を受ける。提供に時間がかかるらしいので、最初はトラブル防止のシステムかなあと思った。

今は単品はなくて、セットだけになっているとのこと。でも、おやつのような類の料理だったので、セットとはいえ1000円ちょっとくらいだろうと思っていたのだが……。

なんと会計は3000円近かった。ちなみに、限定メニューを選ぶとさらに追加料金が発生するという。フレンチ料理のランチコース並の値段である。あまりの高さに一瞬、時が止まった。

料理名を書くと店が特定されてしまうので控えるが、例えるならばトーストとハムエッグとコーヒーで3000円とられたような感じといえば、その高さが伝わるだろうか。


・貼り紙だらけ

とはいえ、飲食店には雰囲気を味わわせる店というものもある。たとえば、歴史的な建造物の中のカフェとか、キャラクターとのコラボカフェならコーヒー1杯でも1000円くらいとられるというのはザラだ。

また、吉沢亮や石原さとみが作ってくれるトーストとハムエッグとコーヒーのセットなら、たとえ1万円でも安いと思うだろう。料理の値段は付加価値でも決まるので、3000円だから高いとは一概にはいえない。

だけど、その店は内装は極めて庶民的。オシャレさとかこだわりがあるような雰囲気でもない……というか店内は貼り紙だらけだった。注意書きや、食べ方、店主がその料理にかけたこだわりなどが書かれた紙があちこちに貼ってある。

セット料金についての説明も書かれていたので、会計で揉めたことがあるのかもしれない。しかし、何度読んでも3000円の理由はよくわからなかった……。

ライター的な直感だと、こういう店に取材申請すると、ちょっとややこしいことになる場合が多いんだよなあ。

などと逡巡しているうちに、メインの料理が運ばれてきた。ちなみに、メインの料理にも食べ方の説明の紙がいくつかついてきた。なんと注文の多い料理店なのか。


・果たして味は?

とはいえ、どんなに高かろうと、料理がめちゃくちゃ美味しければ問題ないし、ちゃんと記事にできる。

ところが、実際に出されたものは私がSNSで見たものとはずいぶん違っていた。

まず、熱々のはずの料理が微妙に冷めている。例えるなら、ネットだと「熱々でふわっふわの分厚〜い食パンからバターがジュワ〜と染み出す」と書かれていたのに、実際は「たしかに分厚いけど、冷めたトーストが出てきた」ぐらいの感じだった。

副菜も特筆して美味しい!という感じではなかったし、出てきたドリンクの量も少ない。

しかし、ふと見上げると、芸能人のサインがたくさん飾られている。私はなんとかして「特別な美味しさ」や「3000円の理由」を探そうとした。人は理由が知りたい生き物だからだ。

何度噛み締めても、3000円の価値は感じられなかったというのが正直なところだ。しかし、記事にしなかったら足を運んだのに空振りになってしまうし、懐も痛む結果にはなる。

どうしようか迷っていたら、食べたお皿をすぐに下げられてしまった。

結果的にこれが決定打となった。たしかに珍しい料理を出す店ではある、営業時間も短いから話題性もある。だけど、だけど……これは読者におすすめできない! もし足を運んで、3000円払ってこの体験をしたら読者はきっとがっかりする。私自身もうまく記事を書けないだろう。私は名刺を渡さずに店を後にしたのだった。


・帰宅後にグーグルのレビューを見たら

私が食べたのは何だったんだろう? 美味しさを感じ取れなかった私が味オンチなのかな? とモヤモヤしながら家路につき、ふとグーグルマップのクチコミを見てみたら……。


・短期間でめちゃくちゃ値上げした
・何時間も並んだのに目の前で帰らされた
・昔に比べて味が落ちた
・SNSやテレビで紹介されてから変わってしまった
・もう行かない


など、ある時期を境にして酷評の嵐になっていた……。うっかり記事にしなくてよかった。昔のメニュー表の写真も載っていたのだが、当時は良心的な価格だったようだ。

一体何があったのか……というのが憚られるくらい、ここ数年は大変な世の中だった。バズってなにか歯車が狂ったのかもしれないし、ひょっとしたらコロナや値上げラッシュといった逆風の中、苦渋の決断の末にこうなったのかもしれない。だけど、値上げしてもせめて味は美味しいままであってほしかったなあと思うのだった。

執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.

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