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【インタビュー】サブカルイベントに携わって24年 『高円寺パンディット』店主 奥野さんに聞いた「良いイベントの作り方」

2020年1月24日

業種を問わず、商売は何事も長く続けることが肝要だ。しかし不景気と叫ばれて久しい昨今、1年ともたずに潰れるお店も少なくない。それが特殊な業態のお店となると、やはり存続が難しい。……のだが、サブカルのイベント会場として、6年も存続しているお店がある。

東京・高円寺の多目的イベントスペース「パンディット」は、2013年12月にオープンし7年目を迎えた。店長の奥野テツオさんは、都内の老舗ライブハウスで19歳から修業を始め、イベント業界で24年ものキャリアを積む、生粋の『イベント人間』である。彼に良いイベントの作り方を尋ねた。

・19歳からイベントに携わって24年

実は当編集部では、以前からパンディットでイベントを開催している。過去には、iPhone行列報告会などで、集客の悪いイベントを何度か繰り返し開催。以来、私(佐藤)は奥野さんとたびたび意見交換をさせて頂く仲だ。



佐藤 「これまで何回もイベントをやらせて頂きましたね」

奥野 「最近やってないですよね、iPhone行列報告会とか。一回中止したイベントがありましたよね。覚えてます?」

佐藤 「忘れる訳ないでしょ。ロックな婦人服を集めてやろうとしたヤツでしょ? 「婦人服品評会」」

奥野 「あれは微妙でしたね(笑)」

佐藤 「以前は今ほどイベントのことをよくわかってなかったんですよ(笑)。今日はそこらへんも踏まえて、良いイベントの作り方みたいなものをお伺いしたいと思ってます。そもそも奥野さんは、ロフトから独立して現在に至るまで、ずっとイベントに携わってるんですよね?」

奥野 「19歳の時に、新宿の『ロフトプラスワン』にアルバイトで入って、『ネイキッドロフト』・『阿佐ヶ谷ロフトA』で初代店長を務めさせて頂きました。それからロフトプロジェクト本社の企画制作、ロフトプラスワンの企画に携わって、2013年12月にここパンディットをオープンしてますね」

佐藤 「43歳の現在までイベント一筋ですか」

奥野 「そういうことになりますかね」

佐藤 「ロフトで長きにわたって勤められた訳ですけど、どうして独立しようと?」

奥野 「シンプルに自分の店を持ちたかったんですよね。そういう気持ちって、飲食やってる人と同じだと思うんですけど、いつかは自分の店って思ってましたねえ」


・見えてくるものが変わった


佐藤 「普段の業務はほぼ1人ですよね」

奥野 「経理関係を除けば現場(お店)はほぼ1人。6年間ほぼ1人ですね。まあ、普段はイベントの打ち合わせ、店の営業準備からイベント中は受付やってドリンクを作って、終わったら片づけて、お店でそのまま打ち上げする場合は、またドリンク作ってって感じでやってますね」

佐藤 「一時平日昼間もイベントやってましたよね? その夜もイベントしたりして」

奥野 「はい、『メンズダンスバー』という定期イベントを2年半やってました」

佐藤 「その間も1人?」

奥野 「ほぼ1人です」


佐藤 「ロフトにいた方が良かったんじゃないですか? だって分業できてた訳でしょ」

奥野 「それはそうですけど、見えてくるものが変わりましたね。自分で店を始めたら」

佐藤 「というと?」

奥野 「ロフトの頃は、イベントの主催って企画者の裁量に任せられているんですよね。自分が面白いと思うものを自分で段取りする。そうすると、自分の好みのものしか見えて来ないじゃないですか。店をやるようになると、ジャンルの垣根を超えて、さまざまなイベントに接するこことができるんです。

そうすると、見えてなかったものが見えてくるんですよ。たとえば、セクシャルマイノリティのイベントは、以前よりもお客さんの関心が高まってて、若い人がたくさん来るってことがわかったり、女性が対象のイベントでも、ある一定数の男性客は必ず来るってことがわかったり」

佐藤 「なるほど、ロフトの看板の下では、そういう潜在的な需要が見えて来なかったと」

奥野 「そんな感じですね」

佐藤 「ちなみに女性対象のイベントに男性が来るのは何でですか?」

奥野 「わかりません(笑) わからないけど、女性限定イベントでない限り、ある一定数の男性は確実に来ますね」


・難しかったイベントとは?


佐藤 「セクシャルマイノリティのイベントは需要があるということですが、逆に(集客的に)きつかったイベントは?」

奥野 「ネコは難しかったです。ネコ好きのイベント」

佐藤 「ネコ? え、何でですか? ネコって企画としては鉄板な気がしますけど。テレビや書籍で外さないコンテンツの1つのように思ってました」

奥野 「僕もそう思ってたんですよね。でも、集客が伸びなくて。で、あとから考えたら、“ネコの愛らしさ” ってイベントに参加して見知らぬ他人と共有するものではないみたいだったんですよね」

佐藤 「つまり、飼い猫の愛らしさは、家族や友人・知人など、見知った人と共有するものだと」

奥野 「そういう可能性がありますね。仮にSNS上では知らない人と共有したとしても、実際に見知らぬ人と会って共有するとなると話は別みたいで」

佐藤 「そうかもしれないですね。ネット上では成り立つコンテンツでも、リアルになると途端に怪しくなる感じがします。俺のようなオッサンがリアルで「ネコ好きなんです~」って女性に話しかけるとしたら、価値観を共有する前に怪しさがあふれ出してしまいますもんね」

奥野 「『愛でる』って感情をリアルイベントで分かち合うのは、微妙なところがありますね」


・イベントを開催する基準


佐藤 「そうすると、パンディットでイベントをする基準って難しくないですか? 「ネコ好き」みたいなある意味、やってみないと分からないものもあると思うんですけど」

奥野 「必ずしも、客入りがいいから良いイベントになったとも思っていないんですよね。たとえば、内輪のオフ会みたいなものもあったりしますけど、そういうものに企画の強さはそこまで求めてない訳で」

佐藤 「そうですね、内輪とわかっている以上は、お店としても断る理由がないですよね」

奥野 「そうなんですよね。僕が基準にしてるのは、「自分が客として行ってみたいか?」ってところなんですよ。うちみたいな小さな箱だと、初めてイベントをやってみるって人もいるんですよね。考えはあるけどやり方がわからないって人もいるんですけど、それはそれでやりようはあって、企画が面白ければ、自分のコネでゲストを紹介したり、MCとれる人を紹介したりできるんですよね。

ひとつの例としては『キモくて金のないおっさんはどうやって生きたらいいのか?』ってイベントの持ち込みがあったんですよね。だいたいイベントの主軸って演者なんですよね。演者ありきで全体を考えるんですけど、そうではなくテーマそのものに社会的意義があることが、自分にとって新しいと感じたので、即答で「やりましょう」って答えました。イベントを開くことで、僕も来場者も、考える要素があることが大事だと思ってます」


佐藤 「でも、それは必ずしもイベントが成功する基準ではないですよね」

奥野 「そうですけど、イベントをやる意味はあります。社会的意義があると思っていますから」

佐藤 「では、良いイベントとは、奥野さんが客として行ってみたいイベントの企画かどうかってことになりますね」

奥野 「いや、そうではなくて、その主催する人が自分で「金を払ってでも行ってみたい」と思うものになっているか? が大事ですよね。自分が見てみたいと思うものを、作れるかどうかだと思います。

ついでに言うと、イベント内容が良ければ、曜日関係なく満員になります。うちの客層は30歳オーバーでお金の自由がきいて、自分の興味に素直に行動する人が多いですね。で、そのくらいの年齢層になると土日は家族サービスで身動きがとれないので、やるなら断然平日。それも月曜日がベストですね。木金は仕事が溜まっている場合があるので、週前半が良いでしょうね」


・新しいことを今から学んでもムリ


佐藤 「実際お店では、ほぼ毎日みたいにイベントを行っているじゃないですか。それも社会派のものから、写真家やライターのトークショー。地下アイドルやYouTuber、ゲーム実況などなど。イベント内容の全部を把握することって難しいですよね? そういうものを吸収する時間って作ってるんですか?」

奥野 「ムリですよ! 1人で業務全般をこなしてるのに、新しいものを頭に入れる時間なんてある訳ないじゃないですか。それでなくても、僕ら40代が新しいことを今から学んでもムリだと思いませんか?」

佐藤 「わかりますよ、全然頭に入ってこない。この身をもって知ってます。まあ、不可能ではないですけど、お店のスケジュールを見る限り、ジャンルが多岐にわたりすぎてて、すべてを網羅して学ぶのはかなり難しいでしょうねえ」

奥野 「だから僕の場合は、自分が学ばずに済む方法をとってます」

佐藤 「自分じゃなかったら? 誰かに任せていると」

奥野 「そうです。YouTuberならYouTuberのトレンドを追いかけるのが得意な人に。ゲーム実況ならゲーム実況が好きな人に、その情報を聞くようにしてるんです。自分1人しかいないから、それをゼロから学んでいる時間なんかないんですよね。だから得意な人の協力を仰ぐようにしてます。それも、独立したから出てきた知恵で、人とやってたら、多分そんな工夫は生まれなかったでしょうね」

佐藤 「何か独立したことで、奥野さん自身が強くなったんじゃないですか?」

奥野 「そうかもしれないですね。とにかくこれからもパンディットで面白いと思えることをやって行きたいんです。自分ひとりでできる工夫はおそらくそろそろ限界が来ていると思うので、これからは一緒に面白いイベントを考えられる人材が欲しいです。まだまだ世には知られていないけど、すごい活動してる人、変人、マニア、ぶっ飛んだ企画などを紹介していきたいですよね」


佐藤 「最後にもう1つ質問です。良いイベントを企画する人ってどういう人ですか?」

奥野 「良い主催者って、「やりたくてやる」って気持ちが強いんですよ。やる人はやるんです、金がなくてもやるんです」

佐藤 「そういう熱量みたいなものって大事ですよね」

奥野 「その熱量が人を動かすので、熱量の高さが大事じゃないかなと思います。もしも自分のなかに煮え切らないものがあるのなら、その熱くなる要素が必要なんじゃないですかね」

佐藤 「そうですよね。今日はありがとうございました」


取材協力:高円寺パンディット(東京都杉並区高円寺北3丁目8-12 フデノビル2階)
Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24

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