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【製作秘話】話題の『リアルサイズ古生物図鑑 古生代編』はどのようにして作られたのか / 製作陣に裏話を聞いてみた

2018年7月11日

アノマロカリス at 魚市場。しかも時価……ッ! この衝撃がネット界隈をざわつかせたのはつい先週のこと。あまりにぶっ飛んだイメージ画像の数々に、古生物マニアはもちろん、子供のころに図鑑で見て以来という方まで巻き込んだのが『リアルサイズ古生物図鑑 古生代編』である。2018年7月21日の発売を待たずに重版が決定した。

この度、当サイト(ロケットニュース)では著者の土屋健氏や担当編集者の大倉誠二氏をはじめとする製作陣のご好意でインタビューすることに成功。古生物好きを自称する記者(江川)からの「きっと気になってる人も多いだろう」という質問にいくつか答えていただいた。本記事が初出と思われる古生物の画像やとっておきの新情報もあるぞ!!

・重要種をピックアップした理由

まず図鑑を作るにあたって気になるのは、やはり「その生物をピックアップした理由」ではないだろうか。判明している全ての種を掲載できれば理想だが、それだととんでもない量になってしまう。

しかし古生物好きなら、誰もが胸の中に秘めているであろうそれぞれの「推し生物」には掲載されていてほしいものである。「こいつが載ってるのにあいつが載ってない……だとォ!?」となり、場合によっては戦争もありえる。一体どういう基準で選んでいるのか、土屋氏に聞いてみた。


土屋「まず、いわゆる『図鑑』に載っているような “重要種” をピックアップしています。ただし、ある程度、根拠のある『サイズ情報』があるものです。次に、グループが同じ種。たとえば『アノマロカリス類』は、カンブリア紀の種、オルドビス紀の種、デボン紀の種をピックアップしています。

これによって、グループ内における大きさの変化を追うことができます。サカナもそうです。古生代というおよそ3億年間で、どのようにサカナが大きくなっていったのかが分かるように、できるだけピックアップしました」


なるほど、サイズが判明している種という理由はまさに本書ならではで興味深い。こういう「その図鑑独特」な事情というのは興味が尽きない。


土屋「そのうえで、『最終的には著者の好み』です(笑)。ボツになった種はたくさんあります。『どれを挙げよ』というのを絞りにくいですね。『あれが載っていないぞ!』という方は、ぜひご要望を出版社まで。『古生代編2も欲しいぞ』とつついてください(笑)」


やっぱりボツになった種はたくさんあるのかぁ。個人的には、子供のころに眺めていたからこそ知る機会があった生物というのも多いので、この手の図鑑に載ることは少ないものとかも見てみたい。もっと色々見たいという方は、ぜひ出版元の技術評論者まで要望を出しまくろう。

・色はぶっちゃけセンス

次に気になるのは「色」だ。『リアルサイズ古生物図鑑』で注目すべきは、やはりこのカラフルなイラスト。通常、図鑑であるからにはまったくのデタラメというわけにはいかないので、似た生態を持つ現代の生物を参考にして学術的におかしくない色をあてがうことが多い。

例えば、他の図鑑やフィギュアなどでは茶色っぽく描かれることが多いアノマロカリス。今回は鮮やかな青の中に黄色い模様が入っており、どことなくキハダマグロやシイラっぽさを感じる。本図鑑においてそれぞれの生物の色はどうやって決まったのだろうか?


土屋「古生物の色は、基本的には謎です。したがって、これはイラストレーターのセンスに任せています。たしかに、現生の近縁種を参考にする例は多いのですが、古生代の生物はその近縁種が存在しないものが多いのです。それに、近縁種がいても、それはあくまでも参考程度で、はたしてどれだけ科学的に正しいのかは議論のあるところです。

そのため、『これは学術的に見て、どう考えてもおかしい』という場合以外は、イラストレーターに任せています。なお、例外もいます。例えば『マレッラ(Marrella)』というカンブリア紀の生物は、ツノの部分が構造色だったことが指摘されています。構造色とはCDの裏面のような色です。それを意識して色をつけてもらっています」


ちなみにマレッラとは、主にカナダのバージェス頁岩(けつがん)と呼ばれる約5億年ほど前の地層から発見された、もっとも一般的な動物のうちの一つ。その化石から、おそらくは海底を這い回りながら他の動物の死骸や堆積物などを食べていたと考えられているカワイイやつだ。

土屋氏も解説してくれているが、構造色とはCDの裏面、生物で言うとモルフォ蝶やタマムシのように、見る角度で色が変わるタイプだ。マレッラのイラストを見たら、ツノの部分がそれっぽくなっているのが分かる。これは他の動物についても、イラストを細かいところまでチェックする楽しみが増えてしまった。

しかし、イラストといえば最も気になるのはどうしてこうなった感満載なシチュエーションだろう。実際、表紙のスフェナコドン科? と思われる生物が駐車場にいる時点で突っ込みどころは満載だ。そのあたりはどうなのか、気になる回答は次のページへ!

参考リンク:土屋健公式ブログINSANECLOPEDIA
画像提供:技術評論社
Report:江川資具

【製作秘話】話題の『リアルサイズ古生物図鑑 古生代編』はどのようにして作られたのか / 製作陣に裏話を聞いてみた(その2)

・ぶっ飛んだシチュエーションの理由

ネット上でも魚市場のアノマロカリスや横断歩道のアースロプレウラに対するコメントが一番多い。ここまで話題となったのはぶっ飛んだイラストによるところが大きいと思うが、決定までのプロセスはどうだったのだろうか。


土屋「それほど『ぶっ飛ばせた』つもりはないのですが(^^;

シチュエーション(背景画像)は、チームで考えています。チームのメンバーは、3DCGの上村氏、イラストレーターの服部氏、デザイナーの横山氏、編集の大倉氏、そして著者の私です。

制作過程は、まず、上村氏から単体のイラストがあがってきます。そのイラストをもとに、著者である私が3~5案をチームに提案します。このとき重視したのは、『サイズ感』はもとより『物語を感じる絵となるか』『科学的な意味合いをもたせることができるか』などです。

私の提案をもとに、チームのメンバーがそれぞれの立場から、コメントを出し、ときに追加を提案します。その中から、再び上記の条件をもとに議論をして、2~3案にしぼりこみ、古生物を仮配置してもらって『一番しっくりくるもの』を選んでいます」


魚市場やロンドンバスの上が一番しっくり来たとは……ボツになった案がどんなものだったのか気になるところ。ややお高めなスペシャルエディション版とかで、ボツになった生物と背景をあわせたボツネタ集とかセットにしても面白いんじゃないですかね?

ということで、ここまでは「この図鑑に興味を持った方ならきっと気になるのでは?」という質問なのだが、いい機会なので個人的にメチャクチャ気になることも聞いてみることに。

・古生物って食ってみたいよね

それは、サンプル内でもちょくちょく入っている食材ネタについてだ。なぜ食材的な扱いなのか……やはり食べたいからなのか? ちなみに私は食べたい。これはもう土屋氏も古生物食フレンズということだろうか。


土屋「さて、どうでしょうね(笑)サイズ感を出しやすいという意味で、食材ネタを放り込んでいますが……。

現代で実感できるという意味では、ネクトカリス(Nectocaris)でしょう。なにしろ、あの姿で頭足類、つまり、イカの仲間です。味もそのまま、イカに近かったのではないでしょうか」


おっと、うまくかわされた感があるぞ。ちなみにネクトカリスは、サイズにして約3~10cm程度と小型ではあるものの、足が2本のイカのような感じだ。

私は以前、九州で手のひら大の小さいイカの踊り食いをしたことがあるが、あれはとても美味しかった。ネクトカリスももしかしたら似たような感じなのかもしれない。醤油やポン酢をつけてチュルッといくとウマそうだ。この勢いで土屋氏だけでなく、他の編集スタッフにもそれぞれ一番食べてみたい古生物を聞いてみたぞ!


土屋「私は、サイエンスライターという立場でコメントをすると、ツリモンストラム(Tullimonstrum)ですかね。私自身が食べてみたいというよりも、味覚の冴えた方々に食していただきたい。

そのうえで、『現在の生物のどれに味が一番近いか』のコメントが欲しいですね。何しろ、『謎の生物』です。『味の面』から、何かヒントが出れば、今後の研究に役立つのではないかなーと思います。『その味からみた、ツリモンストラムの分類について』みたいな論文、読んでみたいですね(笑)」


土屋氏、やっぱりちょっと無難にかわす感があるのでは? ただしそのセレクトはさすがである。ツリモンストラムは、他にもターリーモンスターやトゥリモンストゥルムと表記されることもある謎の生物。

上と横、どちらから見てもまったく意味が分からない。脊椎動物として扱っているところも多いが、それを誤認とする論文もある。意見がまとまらない理由は、意味不明な外見をしているから。コイツは既知のどの動物とも特徴が一致しないというマジで謎の生物なのだ。土屋氏はさすがのチョイスである。続いては大倉氏の回答だ。


大倉「ブロントスコルピオ(Brontoscorpio)、これです。あのツメは身がぎっちり詰まっていて、間違いなく美味しいはず。

ボディも相当食べ甲斐ありそう。1匹丸ごと確保して、かにすきならぬ “ブロントスコルピオすき” を死ぬほど堪能したい。養殖もしやすそうだし、早く出回らないかな」


というわけで、担当編集者の大倉氏のチョイスは、名前のとおりサソリである。


ロケニュー記者が好んでサクサク食べてるやつやん」


とか思ったあなたは古生物を過小評価、あるいはロケニュー記者を過大評価している。このサソリは最近のサソリと違い、全長はおよそ90cm。油断しているとこっちがサクサクされてしまうだろう。また、水中で生活していたとされているところも要注意だ。

こいつを捕って食うということは、人間にとってアウェーな水中に潜って90cmのサソリと戦って勝つ前提。しかし、大倉氏の見立てには私も同意である。このツメのところはきっと肉がミッチリ詰まっていて、高圧鍋とかで茹でたらほろほろに崩れ落ちる系のめっちゃウマいやつな気がする。

さらにシーン合成を担当した服部雅人氏、3DCG担当の上村一樹氏、デザイナーの横山明彦氏にも答えてもらった。


服部「ミグアシャイア(Miguashaia)ですかね。身のつまったプリップリの魚肉っていう感じ。どんな味か、レモンも添えて一度堪能してみたく思います。味付けは和風か洋風か迷います。でも刺身で食べたらそれもまた美味そうです!」


上村「特にこれといったものはありませんが、魚類は塩焼きや煮付けなどにしたらおいしいかもしれませんね」


服部氏のチョイスはシーラカンスの仲間。今その辺を泳いでいるのはシーラカンス目ラティメリア科で、こちらはシーラカンス目ミグアシャイア科だ。現代に生きるシーラカンスのほうは、ネット上の食べた方の感想によると不味いという意見が目立つ。

しかし、3億年ちょっと前の彼らはもっと広く分布していたとされるし、きっと味も普通の魚のような感じだったのではないだろうか。むしろ筋肉とかついてそうだし、肉厚で美味しそうだ。上村氏も服部氏同様で、魚類なら美味しそうとの意見だった。


横山「強いて言えば、アノマロカリスの背中の表情が『鰆(サワラ)』に似ているかと。アノマロの西京焼き。でも “カリス” はエビという意味なので、エビ味ですかね」


デザイナーの横山氏の意見には私も思わず「そう来たか」とオノノいた。まさかのアノマロカリスの西京焼きである。これが時価で売られたアイツの行く末か。しかしアノマロカリスは硬い殻に覆われているため、やはり殻を剥いでから味噌に漬けるべきであろうか。

私はカレーすらまともに作れないレベルなので料理はさっぱりだが、味噌をつければ大体ウマくなるという知恵は持っている。何はともあれ、アノマロカリスの西京焼きというパワーワードが半端ない。

・シリーズ続編の予定も

というわけで、半分くらいは古生物を食べる話になってしまったが、最後の最後でとっておきの質問を。それはズバリ、『古生代編』の部分についてである。古生代編……ということはつまり、中生代編や、新生代編もあるのでは……?


土屋「最終的な決定権は、版元である技術評論社さんにあると思いますが、ぜひ続けたいですね。実際、中生代編の制作は始まっています。“古生物界のヒーロー”である恐竜たちが出てきますので、ご期待ください」


大倉「続けます」


キタァァアアアアアアアアアア! みんな大好きな恐竜が出てくる中生代編は既にスタート済み。そして担当編集者・大倉氏のこの力強い返答! これは新生代も期待できそうだ。

中生代はもちろんだが、個人的には新生代編こそなんとしても出してほしいところ。なぜなら、新生代の生物に関するこの手の遊び心あふれる図鑑というのは、中生代や古生代と比べて圧倒的に少ないからだ。

新生代にもロマンのカタマリのような生物はたくさんいて、例えば翼を広げると6m以上にもなるアルゲンタヴィスという鳥や、エラスモテリウムというユニコーンや麒麟の正体といわれる2mの角を持ったサイなど、実際にリアルな再現図を見れば胸が高まること間違いなしな動物たちがたくさんなのである。いやぁ、待ち遠しいなぁ。

・古生物って面白い!

ここで古生物好きなロケニュー読者へ向けて、土屋氏からどんな方に読んでもらいたいかメッセージを頂いた。


土屋「ロケットニュースさんの記事を読まれた、すべての人に(笑)。古生物にご興味をもっているみなさま、ご興味をもちはじめたみなさまに、お楽しみいただけると嬉しいです。古生物の魅力の一つに『うわっ! こんな生物がいたの!』というシンプルな驚きがあります。

その魅力の一端を『スケール感』と一緒に味わっていただいて、その先にある『さらなるサイエンスの世界』にご興味をもっていただけると嬉しいですね。かねてより古生物にご興味をおもちの“同志のみなさま”は、ぜひ、本書を “布教書” の一冊としてお使いください。

幸い多くの方にご興味をもっていただいているので、『古生物って面白いんだぞー』と、ぜひ周囲の方を巻き込むツールとして使っていただけるととても嬉しいです」


ということで、皆もう予約はしたかな? まだという方はすぐにポチって古生物沼に浸ろう。既に転売屋たちがボッタクリ価格で出していたりするのでそこだけ気をつけてほしい。発売前に重版が決定しているので、安定して供給されるはずだ!

もしくは、7月21日、22日に科学技術館で開催予定の『博物ふぇすてぃばる』でも購入可能。会場では本図鑑だけでなく、なんと『魚市場のアノマロカリス』クリアファイルや、『風呂場のディプロカウルス』缶バッヂも発売されるのでおススメだ。詳しくは下の参考リンクを参照してほしい。

ああ、そして最後にもう一つ……実は古生物マニア垂涎のヤバすぎる極秘プロジェクトが技術評論社にて現在進行中だ。こちらについて、残念ながら今はまだ何もお伝えできない。ただ一つ言えるのは……こいつは魚市場のアノマロカリス以上にクレイジー! 絶対バズる……ッ!! ということでお楽しみに。

参考リンク:土屋健公式ブログINSANECLOPEDIA
画像提供:技術評論社
Report:江川資具

▼発売前に重版決定!

▼麒麟やユニコーンのモデルとされるエラスモテリウム

▼特別にいただいたマレッラの画像

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