今年も夏のコミケが終わった。2016年8月12~14日の日程、会場の東京ビッグサイトには3日間累計で53万人もの人々が足を運んだそうだ。日本最大、いや世界でも屈指の規模を誇る同人誌展示販売イベントである。
毎回コスプレばかりが話題になるのだが、ここで販売している同人誌も見逃すことができない。というか、そもそも書籍を販売しているイベントである。今回もいろいろなサークルをチェックするなかで、興味深い書籍を発見したので紹介したい。
・コミケ90で出会った書籍
私(佐藤)は、2015年の冬コミケで販売書籍の魅力にハマった。とてもマニアックな作品が多く出展していることに改めて気づき、それ以来、コスプレだけでなく書籍もくまなくチェックするようにしている。さて、今回紹介するのは、次の8作品である。
・秋葉原ナポリタン完全攻略本2016(アキバエンヂニアリング)
東京・秋葉原には美味しくて量の多い店が数多く存在する。そのなかでもあえて、スパゲティの「ナポリタン」に注目した作品。ナポリタンの食べられる23店舗を徹底調査して、その魅力に迫る詳細なレポートに驚かされる。そして読んでいるその瞬間から、ナポリタンを食いたい衝動に駆られてしまうのだ。アキバのナポリタンを再発見させてくれる良書。
・海軍カレー大全(軍事学習社 & 黒崎文庫)
旧帝国海軍のカレーレシピを厳選して9種掲載した作品。スタンダードなビーフカレー・チキンカレーはもちろん、松茸入りビーフカレーや伊勢海老カレーライスなど、見ているだけで作ってみたくなる。そして猛烈にお腹が減る! それらの中でも、海軍のカレーピラフ「黄めし」が非常に興味深い。これは作らずにはいられない。
・マイナーファミレスの本 01(Bプログラム)
ファミレスといえば、現代人の生活に欠くことのできない存在。大手チェーン店はもちろんのこと、マイナーなファミレスチェーンも、多くの人の生活を支えているに違いない。そんなマイナーファミレスを紹介している作品。料理はもちろん、店内の雰囲気まで細かくレポートされている。1つひとつのお店を通して、チェーン店の販売戦略や店舗のある地域の様子が、かすかに垣間見えてくるところが面白い。
・東京銭湯 第一湯 杉並区(ENGELERS)
これはまったく個人的な趣味で購入してしまった。しかし買って正解だった。杉並区在住の私は銭湯に行くのが楽しみのひとつだ。新しい銭湯を開拓するために、ネットで調べることが多い。ところが、それだけではわからないことがある。それは利用者目線の情報だ。設備については、さまざまなサイトで紹介されいるけど、細かな情報はやはり利用者でなければわからない。この作品はまさにかゆいところに手が届く、銭湯の指南書だ。
・別冊 東京エスカレーター 特集香港(東京エスカレーター編集部)
東京エスカレーターなのに、香港の特集を買ってしまった……。それはさておき、世界でも有数の大都市、香港の街並みをエスカレーターを軸に紹介するフルカラー誌。エスカレーターは、ただ人を運ぶためだけの「移動階段」ではない。そのフォルムをさまざまな側面で見ることにより、エスカレーターが携えた “美” について気づかされる。エスカレーターを備える空間があってこそ、はじめてその “美” が息づくのである。
・りっちゅう!
自走式立体駐車場の写真集。駐車場とは、車があってこそその機能を果たす。しかし、車が止めてあることが常ではなく、車がほとんど止まっていない時もある。空っぽの立体駐車場に漂う虚しさは、住む人を失くした古民家に等しく、ぼんやりとした空気だけが流れている。時の流れさえも、目で見てとれるほど空虚だ。そんな佇まいをフルカラー写真に収めた作品。操業時間外の工場にも似ている。
・実録! 断食道場一週間体験記(暗黒通信団)
成田山新勝寺での1週間に及ぶ断食体験をつづったルポ。時系列を追って記された1行ずつの文章から、断食行の過酷さがひしひしと伝わってくる。その文章は決して饒舌ではない。雄弁に状況を語ってはいない。しかしそのとつとつとした記録が、かえって行の過酷さを鮮明に伝えている。ちょっとだけ断食に興味あったけど、コレを読んで絶対にやめておこうと思った。
・月刊円周率 2016年8月号(暗黒通信団)
タイトルの通り、円周率を掲載した月刊誌。この号では、186万4001~187万6000桁までを掲載している。延々と記される数字の羅列に、何か意義深いものを感じずにはいられないのだが、何も意義などないのではないかと勘ぐってしまう。どう考えたら、円周率を月刊誌として発行しよう! という発想が生まれるのだろうか? そこのところが非常に気になるので、インタビューを実施することにした。
以上である。今回のコミケで購入しそびれたという人は、次こそ手に入れて欲しい。それにしても、奥深い同人誌の世界。あらゆることに意味があるのではないかと、思わざるを得ない。
Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24