ロケットニュース24

ホームレスの過酷な生活状況が語られる『ホームレスバー』に行ってみた

2012年4月25日

厚生労働省が平成23年1月に調査したところによると、全国のホームレスの数は男女合わせて10,890人と言われている。この数は、市区町村が巡回し、目視調査を行った数なのだが、実際はこれよりもはるかに多くの人が住居を持たずに暮らしいるだろう。

彼らは一体どのような経緯で家を離れ(失い)、そして日々どのように生活しているのだろうか? 最近下北沢で、ホームレスの方と接する機会を提供する『ホームレスバー』という試みが行われた。

この日ウェイターとして参加したタナカさん(仮名:49歳)は、8年前からホームレス生活を送っている。彼の口から語られた、驚くべきホームレス生活の実情をお伝えしたい。

■ホームレスバーとは?
ホームレスバーとは、働くことの意味を語り合う『無職FES』の主催による、ホームレスの方の実体験を聞けるイベントである。下北沢のとあるバーを貸し切って、一夜限りの開店となった。

■死のうかと思った
タナカさんは実家を出たきっかけについて、「死のうかと思った」と語っている。20年以上務めていた工場は赤字経営が続いており、工場長がコロコロと代わって、そのたびに人間関係はギクシャクとしていった。最後にやってきた工場長とまったく折り合いがつかなかず仕事を辞めることに。

そのまま1~2カ月、貯えを割いて生活を続けたが、生活に張り合いを見出せずに極度のうつ状態に陥ったそうだ。そして死ぬことを思い立ち、酒とタバコを持って新宿にやってきた。

■思わぬ転機からホームレス生活へ
「酒とタバコが尽きたら死のう」、その彼を救ったのがホームレスの支援団体だった。団体の活動に参加することによって、小額ではあるがお金を得ることができる。それ以来、なんとか現在まで暮らしつないでいる状況だ。

とはいえ、住居はない。普段は新宿駅で寝泊りし、多少のお金が手元にあるときは、漫画喫茶に泊まりに入っている。入浴もこのときにシャワーで済ませているのだとか。食事にありつけないことはザラで、余力があれば牛丼チェーン店で牛丼を食べているという。

■ホームレスになって気付いたこと ~新宿駅で見かけた少女~
タナカさんがホームレスになって気付いたこと。それはイベント来場者の想像もつかないものだった。彼は、「自分よりもずっと不自由なホームレスがいる」と話す。

「知的障がいを持ったホームレスは本当にかわいそう。自分ではどうにもできないんだから」
「ここ半年、新宿西口で小学生くらいの女の子を見た。最近は見ない」

この現状について彼は、「もっと行政になんとかして欲しい、警察も見て見ぬフリをする」と憤りを感じているようだ。ホームレスにもいろいろな事情があることを、彼自身身経験を通して知ったという。

■増え続ける若年ホームレス
そしてもうひとつ、彼が最近気付いたことは若年ホームレスが増えたこと。20~30代の働き盛りの男性が、駅や公園で寝泊りしている姿を頻繁に見るそうだ。一説によれば若年ホームレスの一部は、普段上野公園で寝泊りし日中は秋葉原を徘徊しているのだとか。これらも不況や派遣切りの影響なのだろうか?

■望みはない
かなり厳しい生活状況にあるタナカさんなのだが、取り立てて望みはないそうだ。「なるようになれ」、それが彼の将来を語るうえで、もっとも相応しい言葉。大のタバコ好きで、タバコを吸うために稼ぎを上げているといっても過言ではない。来場者から「欲しいものは?」、「して欲しいことは?」、「行きたいところは?」などの質問が投げかけられたのだが、「いや、特にない」ときっぱりと応えていた。

なお、この日同行した志村梨緒さんと木下あいさんも、タナカさんに積極的に質問。彼の生活状況に驚きをあらわにしていた。ちなみに今回のイベントは、予想を上回る来場者が足を運び会場は満杯状態となった。主催の無職FESいわいゆうきさんも大変驚いた様子で、次回は場所を移して、2カ月に一度のペースで開催したいと語っている。

Photo:Rocketnews24
取材協力:アリスプロジェクト志村梨緒木下あい
参照元:無職FES

▼ 自らの生活について語るタナカさん(仮名)

▼ タナカさんの話を熱心に聞く志村さんと木下さん

▼ 2人の質問に丁寧に答えるタナカさん

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