自然に恵まれたオーストラリアの森林地帯でも、つねに野生動物に遭遇できるわけではない。夜の暗闇の中ではなおさらだ。光がなければ何も見えないが、夜の森を明るく照らせば、野生動物たちの平和な生活を脅かしてしまう。この問題を解決するべく、オーストラリアの旅行会社ビジョン・ウォークス(Vision Walks)は、軍用暗視ゴーグルを使った夜間ツアーを始めた。
ナイト・ビジョン・ブッシュウォークと呼ばれるツアーでは、オーストラリア最東端の町バイロンベイを起点として、ニューサウスウェールズ州にあるナイトキャップ国立公園を巡る。ツアー中、参加者は、近赤外線を利用した軍用の暗視ゴーグルを装着することで、目の前の光景が緑色で映し出され、夜行性の野生生物との遭遇を楽しむことができる。
近赤外線は見えない光とも言われ、赤外線通信や家電用のリモコンなどにも利用されている。暗闇で懐中電灯などの光を使えば、夜行性生物たちの視界を遮ることになり、自然の生態系を破壊しかねないが、近赤外線を利用したゴーグルを使えば、そういったリスク無しに、見えないものを見えるようにしてくれるというわけだ。
このツアー中よく見られる生物は、樹の上で生活するクスクス、小型で赤茶色のヤブワラビー、細長い口を持つバンディクートなどの有袋類。他にもカエル、ツチボタルなどがいるという。ツアーは、3時間半で大人1人、99オーストラリアドル(約8100円)。
暗視技術を利用したツアーを行っている例は、ビジョン・ウォークス以外にもアメリカのフロリダ州にあるネープルズ動物園などいくつかあるというが、決して多くはない。一方で、国際エコツーリズム協会の2006年の発表によると、動物園のように人工的ではない、ありのままの自然を観光するツアーは10から12パーセントの割合で世界的に広がっているという。夜間観光ツアーが広まるのも、そう時間はかからないだろう。
まさに軍事用に作りだされた暗視ゴーグルの平和的利用といえる。
screenshot:springwise.com
■参考リンク
springwise.com(英文)