『無名の偉人』とは、人ぞれぞれの経験や体験を聴くインタビューです。世の中、名のある人間ばかりが功績を残しているのではなく、誰もがそれぞれの誇りを持って生きている。その人知れず紡がれたささやかな物語を紐解く。それが、インタビュー『無名の偉人』です。
今回は風俗店を経営する有限会社Good-Jobの社長、前田氏へのインタビューを敢行しました。有限会社Good-Jobは、関東に6店舗、関西に15店舗を展開する無店舗型風俗店の経営をしています。この会社の取り組みは非常にユニークで、風俗店ながら懇親会を開いたり、男性従業員の接客サービスを投票式で評価したりと、他店とは違う今までにないサービスを提供しています。
女性はもちろん、世の男性の半分はその世界を知らないと言われる『風俗店』。その実態に迫りました。
1、現在のご職業と、そのお仕事に就かれた経緯を教えて下さい
現在、関西・関東で無店舗型風俗店を経営しています。
元々大阪で風俗店舗をグループで展開していました。東京出店が決まった時に、自分がこちらに来ることになって、ゼロからお店の運営を始めました。当初、大阪で経営を始めた時に、まずは大阪で10店舗出そうということになったんですけど、その目標をアッという間に果たしてしまって、それで東京にも出そうということになったんです。それで現在に至るという感じですかね。
2、なぜ、このお仕事を続けているんですか?
何をやるのもそうですが、どうせやるなら1番がいいじゃないですか。だから、無店舗型店舗で、日本で1番になろうと思ってやっています。
1番になろうと思ったら、普通のことやっててはなれないですよね。だから、他の5倍知恵を使って、喜んでもらえる企画やイベントを考えています。懇親会もそうですし、その他のイベントも他との差別化ですよね。こういう店舗だから、普通の商売と違うと思われるかも知れないですけど、マーケティングや企画提案は他の業種とそんなに変わらないですよ。お客さんとどう付き合って行くかを、真剣に考えています。年に30回利用するお客さんが居るとして、月に3回くらいいらっしゃるとしたら、その機会を月に4回にしたいんです。そういう地道な積み重ねを経て、日本で1番の無店舗店を目指しています。
3、今までの人生で、特別な経験は何かありますか?
そうですね。今から10年くらい前ですけど、大阪の西成に住んでいたことがあるんです。『あいりん地区』のあるエリアで、日雇い労働者が集まる場所です。日本なのに海外みたいに治安が悪く、未だに赤線のある界隈ですね。そこに寝泊りしていたことがありました。お金が全くない時期がありまして。
あそこに居た時に、夜になると自然に涙が流れて来るんです。当時自分はまだ若かったからだと思うんですけど、『ここに居てはいけない』という気持ちになって、でも、お金がないから身動き出来ない自分が情けなくて、泣けて来るんです。何とかして早くここを抜け出そうって。
あの経験があって、がんばって来れたって気持ちもありますね。
4、社長として、従業員の方々に日頃から注意していることはありますか?
注意していることはいろいろあります。普通の組織や会社なら、『1番が人、2番が店(会社)』だと思いますけど、店がなければ誰も仕事出来ないので、『1番が店、2番が人』と考えています。1人の間違った行動がグループ店の500人の仲間に影響しますから、決め事やルールを守れない人間は遠慮なくクビにします。
我々の仕事は言わば底辺の仕事です。その底辺で恥ずかしいとか、照れ臭いとか言って、自分の殻に閉じこもっているようでは、他のどんな仕事も出来ないと思います。だから、
「我々は底辺の仕事だぞ。その底辺で意地やプライドを持たんでどうするんや!」
ということを良く言います。
だからと言って、喜ばれるなら何でもやれと言ってる訳ではないんです。我々の仕事は、アミューズメント業でもありますから、性的サービスは2割で良いと思っています。サービスそのものよりも、ちょっとした気遣いや心掛けが大切だと思いますんで、挨拶とか掃除とかをキチンとやるように伝えています。
何も特別なことをしろとは思わないんですよ。時間を守るとか、掃除をするとか、誰でも出来ることをキチンとやるようにと、注意しています。
男性従業員の中には自分より年上の人もたくさんいますけど、注意して出来ないようであれば、遠慮なく怒りますしクビにもします。『クビ』を言えない経営者の会社は、潰れますね。お店を守れないから。
とにかくお店を守ることが1番です。明日、お店はなくなっているかも知れないと、半分本気で従業員みんなに言っています。
5、これからの目標や夢について教えて下さい
これからの目標は、新しいお店を出すことですけど、この業界は法改正や大手の参入がザラにあります。だから、目標はありますけど、常に恐怖ですね。恐怖しかないです。
現状は、うちのグループ店は池袋で1番の集客とリピート率を誇ると思いますけど、某IT系の元社長なんかが、この業界に参入して来たら、一瞬で吹き飛びますよね。
いつかこうなりたいとか、将来こんな暮らしがしたいということよりも、『今日』という日、一日が目標の一つであり、今、生きていること自体が『夢』のようなものですよね。
自分は特に西成に居た経験もあるので、今晩帰る家があって、望む食事を摂れて、買いたい物は大体買える。この状況自体が『夢』のようなものですよね。恐怖はありますけど、「生活出来てる」「生きて行けてる」そのことが楽しいと思っています。
業界の表向きのイメージとは異なり、前田氏の言葉は時に重く、切実な響きがありました。特に『恐怖』と『底辺』という言葉が印象に残りました。お店のユニークな企画の裏に、生き残りを懸けた必死の取り組みが垣間見えます。