ロケットニュース24

【無名の偉人】 好奇心の連続 『オフィス浅草一夜』黒須剛氏にインタビュー

2009年8月23日

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『無名の偉人』とは、人ぞれぞれの経験や体験を聴くインタビューです。世の中、名のある人間ばかりが功績を残しているのではなく、誰もがそれぞれの誇りを持って生きている。その人知れず紡がれたささやかな物語を紐解く。それが、インタビュー『無名の偉人』です。

黒須剛氏は、記者がインターネットを通じてお知り合いになった方です。当時、黒須氏が変わったハンドルームでブログを公開されていて、非常に興味を惹かれ当時取材させて頂きました。そのお名前は『浅草頑爺(がんじい)』。2004年からブログを公開されていたのですが、70歳になるお歳からのブログ挑戦です。何事にも興味を持ち、積極的に取り組まれるバイタリティは一体どこから生まれるのか。再度インタビューをさせて頂きました。

1、現在の活動と、その活動を始められた経緯を教えて下さい。

浅草の町興しと、短歌教室に通ってますよ。浅草のローカルFMには、DJの見習いみたいな子たちがいて、あまり浅草のことを知らないもんだから、情報を提供したりしてるね。

短歌の方は、元々、短歌詠んだりする方じゃなかったんだけど、良い先生と出逢ったんで、ぼちぼち続けてますね。

俺は浅草生まれ向島育ちで、集団疎開で栃木に行ったんだよ。それでまた浅草に戻って来たんだけどね、3月10日の東京大空襲でみんな死んじまったんだ。未だに空襲の時の心の傷跡は消えないんだよね。何もかもめちゃめちゃのまま終戦を迎えたんだ。そしたら、今度は復興だってんで、浅草はヤクザ者だらけになったんだな。常識もへったくれもあったもんじゃない。あの時の混乱もまたすごくて。そんな自分の育った環境や、見て来た景色や想いを俳句とか短歌とか詠んで、心の傷を明かした訳なんだよ。そしたら、今の先生が面白いって褒めてくれて。それで今でも教室に通ってるだよ。

2、なぜ、この活動を続けているんですか?

なぜ、というほどの理由もないけど、面白いから。今の教室のみんなのまとまりが良くて、小冊子を出そうって話をしてるんで、小冊子を出すことを目標にしてるね。後は、若い人にも俳句や短歌を詠んで欲しい。人生には、その時その時の、気持ちとか感情がある。その時じゃなきゃ詠めないものがあると思うんだよね。若い人に詠んで欲しいなあ。年寄りの詠む句は、死んで行くような『嘆き節』が多くて(笑)

3、今までの人生で経験した特別な出来事ってありますか?

そうだね。記憶の片隅の思い出なんだけど、あれは確か2歳の時だったと思う。『2.26事件』があったんだよ。1936年の2月26日。軍の起こしたクーデター未遂で戒厳令が敷かれたんだよな。家中の電気を真っ暗にして、俺は親父にしがみついて、ガタガタと震えていたんだよ。外では何が起きてるか分からないんだけど、まだガキだから怖くて仕方がなかった。特別と言えばその経験かな。戦争は全国で起きたけど、『2.26』は東京だけだったもんなあ。

4、今の世の中に、何か感じられることはありますか?

どうも腰の引けたヤツが多いねえ。腰の引けたヤツはダメだね。哲学がない。哲学のないヤツが多過ぎるんよ。哲学がないってことは主体性がないってことなんだよな。だからいつも『人の所為』、『世の中の所為』。何やってもちょっとダメならすぐに止めてしまう。要するに貧乏強くねえってことだ。粘れねえから、自分の意見が言えねえんだよ。貧乏強くなきゃ。

自分の意見・考えを持たなくても食えるから、みんな弱くなっちまったんだよな。

俺たちはさ、戦争も体験してるから、また何にも無くなっても、元に戻るだけだよ。「やって来たことをまたやればいい」くらいの気持ちはある。でも、今の世の中を見てると「無くなったらどうしよう」しか考えが浮かばないように見えるんだよな。

『清貧』だなんていう気持ちはサラサラないけど、苦労を知ってると、また貧乏に還れるんだよ。それを知ってるのと知っていないのとでは全然違うんだよな。

5、これからの目標について教えて下さい。

人間の目の前では、『嬉しい』とか『悲しい』とか『悔しい』とか『腹が立つ』とか、いろいろな現象が起きてる。その現象を探し続けてるようなもんなんだと思う。生きるってことは。

生きてる限り、俺はそのいろいろな現象を探し続けて行きたいなあ。探し続けて探し続けて、探し続けて死にてえなあ。生きてる限り、好奇心の連続なんだよ。その好奇心を貪欲に追い求めて、生きていたいんだよな。

貪欲さ、ハングリーさは大事だよ。若い人はその貪欲さがなくなってる。ハングリーじゃないからどっか腰が引けたみたいになっちまてるんだと思うよ。何事においても、止めないこと、探し続けることだよ。探し続けていれば、きっと何か見つかるんだよ。

黒須氏のお言葉は、腰の入った力強さが溢れていました。冗談まじりにお話頂いたのですが、叱咤するような熱意が伝わって来ました。現在、860兆にも及ぶ『国の借金』を抱える日本ではありますが、戦中戦後から振り返ると間違いなく豊かになっているはずです。戦争を超えて来た人たちから、今の日本は学ぶことが沢山あると、痛感させられました。

■参考リンク<インタビューの全文を読む『無名の偉人』黒須剛氏>

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226事件の経緯が分かる。

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