かつ丼が好きだ。立ち食いそば屋の連載をしている私(中澤)。セットを注文する時は大体かつ丼セットである。つゆの味が染み染みになったとんかつが良い。だが、先輩記者のP.K.サンジュンはかつ丼が好きじゃないという。

「サクッとしてるのがとんかつの良いところなのにふにゃっとさせる意味ある? 良さ潰してるじゃん」とP.K.サンジュン。そんな意見を身近で聞いていただけに、初めて「焼きカツ丼」を食べた時は衝撃であった。かつ丼なのにサクッとしている……!

・かつ丼のジレンマ

とんかつが卵とじになっているかつ丼のアタマ。卵とかつ丼とつゆが混然一体となるハーモニーが素晴らしい。しかしながら、P.K.サンジュンが言うことも一理ある気がする。

この味のままとんかつがサクッとしていたらもっと美味しいかもしれない。あちらを立てればこちらが立たず。かつ丼が抱える大いなる矛盾。ある意味「焼きカツ丼」はその難問に対する1つの答えと言えるのではないだろうか。至極シンプルな話だったのである。要するに……

卵とじなければいい


そう、卵とじにしなければとんかつはサクッとしたまま。卵の絨毯の上でくつろぐとんかつ。優雅──それが私が初めて「焼きカツ丼」を目撃した時の印象であった。

しかしながら、食べてみるとタレが浸透しており、甘辛い米、卵、とんかつが口の中で一体となる味はまさにかつ丼。こんなやり方があったとは……。ひと口ごとに目からウロコが落ちすぎて視力が上がりそうなレベル。感動しすぎて、焼きカツ丼の店を何軒も回ってみたところ、色んなことが見えてきた

・肉の味が分かりやすい

焼きカツ丼を毎日食べて思ったのが、普通のかつ丼より肉の味が分かりやすいということ。良い店は豚の旨みが半端じゃない反面、肉がいまいちな焼きカツ丼は普通のかつ丼よりもパサパサに感じる。

逆に言うと “卵でとじる” ことでそうした素材の底上げも担っているのかもしれない。料理として優れていることは間違いないだろう。また目からウロコ。

・価格帯

多くの店は1杯1500円から2500円くらいする。ブランド豚の丼が別に用意されている店も多く、肉へのこだわりが強いのも焼きカツ丼店の特徴の1つと言えるだろう。

ひょっとしたら、前述の「素材の味が凄く分かる問題」についての対策なのかもしれない。とはいえ、そういう店は肉も分厚く、今のところコスパの悪さを感じたことは一度もないが。

・行列

焼きカツ丼の店は6人~10人席くらいの隠れ家的な店が多いため、行列や1時間待ちは当たり前。したがって、フラッと入れる感じではない。行列に関しては苦手なので普段は避けているのだが、並んでみたらこれはこれでアリだと思った。

私は独り身だし、ぼーっとしていたら何もせずに1日が終わっちゃいそうな休日とかに目的を作るのに良い。というわけで、逆に、時間がある時にしかできない趣味みたいな感じで焼きカツ丼の店を巡っている。



・現在のお気に入り店

ちなみに、現在のところ、私の一番のお気に入りは水天宮前や神田に出店している『カツ丼は人を幸せにする』だ。ここはすでに有名な焼きカツ丼屋に比べると、気楽に入れるところが良い

店構えに重々しさがなくて価格も安めなのだが、それでいてしっかりウマイのである。言わば、卵でとじないかつ丼界の吉野家みたいな店と言えるかもしれない。ちなみに、本店がオープンしたのは2022年だ。

近年、アンダーグラウンドでふつふつと数を増やしてきている焼きカツ丼店。かつ丼のジレンマを解決したカツ丼は2023年、本格的なムーブメントとなるか? カツ丼の今後を見守りたい。

執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.