人気漫画『ゴールデンカムイ』が大団円の連載終了を迎えた。コミックス最終巻は2022年7月19日発売予定、実写映画化も発表されるなど興奮さめやらない。
アイヌ文化の認知度を高めたと評価される同作、作者の野田サトル先生は徹底的な取材を行うことでも知られる。
北海道にはモデルとなったと思わしき建築物が多数存在し、細密なスケッチのように「そのまんま」の姿が現地で見られる。杉元たちの軌跡をたどるべく、ファンのあいだで聖地と呼ばれる「北海道開拓の村」に行ってきた!
・「北海道開拓の村」(札幌市)
ご存じの方には蛇足だが、「北海道開拓の村」はめちゃくちゃ広い。広大な敷地に50を超える建築物が移築・復元されており、しかもそのほとんどが内部見学可能。一部屋ずつ見ていったら日が暮れる。
「一日では見きれない」とも言われており、時間が尽きるのが先か、体力が尽きるのが先か、という魔境である。
そこで「あと一時間で空港に向かわなきゃ!」という人に役立つよう、今回は「絶対に見るべきベスト5」を独断でご紹介したい。いずれも「市街地群」「漁村群」と呼ばれる中心部だ。
なお、作中シーンと展示物件との相関関係は、公式に発表されたことはない。あくまで通説ということになるが、コミックスと見比べれば一目瞭然。また、作品の取材協力リストに同村も名を連ねている。ぜひ現地で実際に確認してみて欲しい。
・第5位「旧近藤医院」
昭和時代まで実際に使われていた個人病院。外観は妊娠中のインカㇻマッのいた網走の病院とそっくり。内部には待合室、診察室、手術室などがある。
これはっ……札幌世界ホテルの爆発後に家永カノが静養していた病室そのまんまじゃないか! 手前のイスに牛山辰馬が座っていた。薬品棚の下に置かれたツボなど、細部まで正確に描かれている。
院内は時間が止まったような不思議な空間だ。漫画ファンでなくとも楽しめると思う。
古い時代の病院には独特の雰囲気が存在する。「怖い」「不気味」といったオカルティックなものではなくて、人間ドラマが感じられるというか……。おそらく生と死が隣り合わせの場所だから?
薬品棚が並ぶ部屋は剥製師・江渡貝くぅぅんの作業室だとされる。たしかにそっくり!
・第4位「旧山本理髪店」
見た瞬間「あ!」と声が出る。ほとんどの建物は「作品に登場したらしい」という予備知識があるからこそ判別できるのだが、この山本理髪店だけはすぐに既視感が。
作中にも「山本理髪店」という床屋が登場。抗争にわく茨戸の宿場町で、土方歳三、永倉新八、尾形百之助が訪れていた。尾形が猫のように屋根に上がっている扉絵もいい。
隅から隅までそっくりでは!? 手前のイスには永倉が座って待っていた。
店舗前も日泥・馬吉抗争のクライマックスとして大乱闘の舞台となる。繰り返し登場し、茨戸を象徴する建物と呼べるだろう。
余談だが、土方の「この時代に老いぼれを見たら “生き残り” と思え」のセリフがかっこよすぎる。
筆者は当初、土方歳三が実は生きていた……という作品設定に非常に抵抗があったのだが、読んでいくうちに「全然あり!」と思えるようになった。
個人的には、北海道各地を転戦しながら網走を目指す「誰が味方で、誰が敵かわからない」という混迷の道中がとてもおもしろい。
・第3位「旧浦河支庁庁舎」
ピンク色の可愛らしい洋館。家永カノが「札幌世界ホテル」として旅人を招いては殺害していたところに激似。
囚人たちの例にもれず、変態的な振る舞いが目につく強烈なキャラクターだが、物語が進むにつれてなぜか好きになってしまう淑女(?)。牛山辰馬と結局「いい感じ」なのにもニヤリとしてしまう。
家永や宿泊客が昇降したと思われる階段は必見だ。村内では建物保護のため階上に上がれない物件が多いのだが、ここは二階も見学OK。
館内はどこもベージュとピンクでファンシー。扉が並ぶ様子は本当にホテルのよう。実際には庁舎として使われた建物だそうで、事務室、次長室、宿直室などが並ぶ。残念ながら隠し通路や拷問部屋は見つけられなかった。
・第2位「旧広瀬写真館」
これは北見の写真館!? 当初は「裏切り者をあぶり出す」という思惑あっての写真撮影だったが、いつしか全員参加の楽しいイベントに。
一階はごく普通の和風建築のように見える。自宅の片隅で細々と営業していたのかな? と思ったが大間違い。
二階に上がると一転、明るい陽光が射し込む大空間が広がっていた!
天窓から自然光を採り入れる「シングルスラント」という構造なのだそう。ゴールデンカムイとは関係なく、建築物として素晴らしい! ここはファンでなくともぜひ訪問して欲しい。
作中では谷垣源次郎の あられもない姿態が印象深い。後になってみると、遺影となったキャラクターもいるからちょっと切ないな……。
・第1位「旧福士家住宅」
百聞は一見にしかず、この長椅子に見覚えのある人も多いのでは。土方たちが小樽のアジトとして使っていた民家にそっくりだ。永倉新八が親戚の家を提供したという設定。
日当たりがよく、実に居心地のよさそうな縁側。作中の土方は長椅子でよく新聞や本を読んでいた。史実として知られる文学的な素養や、泰然とした性格がよく表現されていたと思う。
座敷ではいまにも作戦会議が始まりそう! 作中では立派なつくりの座卓で永倉がお茶を飲んだり、尾形が火鉢を「ケーンケーン」と蹴ったりしていた。
それぞれの思惑をもった登場人物たちが、共闘したり袂(たもと)を分かったりと、心理戦も本作の見どころのひとつ。大勢がワチャワチャしているところが微笑ましくもあり、またスリリングでもある。
外観は「旧有島家住宅」が使われている模様。このように野田サトル先生は、いろいろな建物の「外観」「内観」「一部の部屋」などを自由に組み合わせてシーンを完成させているらしいことがわかる。ひとつの建造物が何度も場面を変えて登場する。
・まだまだまだまだある
以上5選だが、実際にはさらに数十棟のそっくり建築物が見られる。一癖も二癖もあるキャラクターが登場し、荒唐無稽にも思えるストーリーだが、どこかリアリティがあるのは綿密な取材に裏打ちされているからだろう。
背景画だけでなく、人物や出来事も同様だ。北海道の歴史やアイヌ文化を知ってから読むと「あ、これも史実にもとづいていたのか!」と元ネタを発見することも多い。
ときに「負の歴史を正しく描いていない」などと評されることもあるが、漫画とはそもそもエンターテインメント。人を楽しませることが最大の目的だと思う。筆者にとっては、何度でも読み返したい超大作だ。
北海道にはほかにも小樽の街並みや、網走監獄など作品舞台がたくさん! アイヌにゆかりのスポットとともに、ぜひ巡ってみて欲しい。
・今回ご紹介した施設の詳細データ
名称 北海道開拓の村
住所 札幌市厚別区厚別町小野幌50-1
料金 一般800円、大学生・高校生600円
時間 5月~9月 9:00~17:00(入場16:30まで)/10月~4月 9:00~16:30(入場16:00まで)
休日 月曜日(祝日・振替休日の場合は翌日)・年末年始(12/29~1/3)
備考 5月~9月は無休、また「さっぽろ雪まつり」期間の月曜日は開村
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
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▼村内の食堂「開拓の村食堂」ではにしん蕎麦もメニューにある
▼遊廓や宿として、シーンを変えて何度も登場するとされる「旧来正旅館」
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