「海洋堂」といえば、いわずと知れたフィギュア界のパイオニア。

「秘境」といってもよさそうな高知県の四万十や、琵琶湖沿いの滋賀県長浜市にミュージアムがあるが、大都市圏からは少々遠い。ところが2021年6月、海洋堂ゆかりの地・大阪府門真市に「海洋堂ホビーランド」がオープン。

これまでの社史や商品を紹介する資料館……かと思いきや、「中の人」の趣味趣向が爆発する奇妙奇天烈なフィギュアのテーマパークだったのでご紹介したい。ちなみに一般の来館者でも全館写真撮影OKだ。


・「海洋堂ホビーランド」

大阪モノレール・京阪電車「門真市駅」を下車してすぐ、「イズミヤ門真店」というショッピングビルの3階に位置している。近所の人が自転車で買い物に来るような、どこかのんびりしたモールだ。

入ってすぐに登場するのが、海洋堂の出発点を再現した「一坪半の店」。始まりは小さな模型店だったのだとか。

その頃を彷彿とさせるようなプラモデルの山! かなり古いものもあるようで、ひとつひとつ見ていったら1日かかるんじゃないだろうか。

初期の主力商品だった帆船模型のコーナー。海外のキットだが、「アートプラ(プラモデルのアート化)」を提唱していた宮脇修館長(海洋堂の創業者)が自作の帆船模型を市の美術展に出展。プラモデルだということがわかり、一度は入選が取り消しとなったが、後に撤回されたのだとか。

そしてついにガレージキットの時代に突入する。家庭用ビデオデッキの普及でアニメを録画できるようになり、アニメ専門誌なども発刊。キャラクターの設定がわかりやすくなって、フルスクラッチビルド作品が次々と生まれたのだという。

その頃、店に集まっていた常連客の若者たちが、BOME氏などいまも活躍する造形師軍団。

現代の目線で見ると実に素朴な作品だが、アニメや漫画が「大人の趣味」になった歴史的転換点だ。

と、展示は雰囲気を一変して「友情の森」というコーナーへ。


ジャングルのような装飾をくぐっていくと、実物大ティラノサウルスのレプリカヘッド! 子ども泣くよ!!


「グレムリン」や「ザ・フライ」などの特殊メイクを担当し、アカデミー賞を受賞したクリス・ウェイラス氏と宮脇館長は長年友情を温めてきたのだとか。協力して「実物大の動く恐竜展」を開いたときのものだそう。

個人的には恐竜フィギュアと背景を合わせて作り込んだジオラマがおもしろかった。


フィギュアは静止したほんの一瞬を切り取った造形物だけれど、背後にはちゃんと考証や設定や物語があることを実感。


・ここはどこだ?

後半になるにつれ展示は奇妙なものになっていく。こちらは「館長の部屋」。

世界中から集めた「お宝」の部屋で、剥製、工芸品、アンティーク、映画で使われた小道具、あらゆるものがごっちゃになって飾られている。

ひぃぃぃぃぃぃ!


実は筆者、古物店など「古いものが雑多にある空間」が苦手。動物の剥製、過去の時代の着物、木や鉱物のオブジェなど「生命の残滓(ざんし)」があるようなものがとくにダメなのだが、この部屋も物量に圧倒されてしまう! 逆にその独特の気配がコレクターを惹きつけるのだろう。

室内に唐突に出現する吊り橋は「四万十かずら橋」。宮脇館長の故郷・高知県四万十の大自然をイメージしたオブジェクトだそう。カッパがいっぱいいるぞ。

さらには和道具のミニチュアばかり集めた「美似(ミニ)コレクション」の部屋や


「センムのミリタリーコレクション」など「ここ、なんのテーマパークだっけ?」と思うような、個人的な趣味が炸裂している展示ばかり。

これぞオタク道。好きなものに理由なんてない。そして好きなものを堂々と「好きだー!」と叫ぶことにこそ、オタクの魂があるのだ。そんなエネルギーに満ちている。

「THE KAIYODO」のコーナーに来ると、ようやくフィギュアメーカーの展示らしくなる。


造形師ごとに作品を展示。よく知ったアニメや特撮のキャラクターたちが登場するぞ。


土日を中心に、実際に造形師・塗装師が作業している様子を見られるコーナー。館内では塗装教室なども開かれている。


そういえば入館すると記念メダルを1枚もらえる。館内に点在しているガチャマシンで、1つだけお土産をもらえるのだ。どのマシンになにが入っているかは秘密。最後に直営ショップ「海洋堂ホビーロビー門真」にたどり着いて終了。


・トイレに行こうとしたら……

実に濃い展示であった。ただ、館長や専務の趣味がわかる展示はおもしろかったのだが、もうちょっと海洋堂作品を見たかったな……なんて思いながら、ずっと我慢していたトイレに向かう筆者。


その目に飛び込んできたのは……


まさしく海洋堂作品がずらーっと並んだ廊下! 壁一面がガラス張りのショーケースなのだ。しかもここ、施設の外側なので無料のスペース。トイレに行くまで1時間かかるじゃないか! 膀胱が破れる!!

ファン垂涎の「北斗の拳」コーナーや、海洋堂の名を知らしめた動物フィギュア、ムーミンなどの童話キャラクター、エヴァンゲリオンやドラえもんやコナンくん……

そしてロビーにはカプセルトイが並んでいる。こうやって海洋堂製品だけ集めると、やはり造形のよさが際立っている。

海洋堂デザインの自販機では、500円で大阪土産のカプセルトイが買える! ほかのマシンもサンプルが展示されているので、クオリティを確認しながら買えるのもいい。ご丁寧に両替機まで……

買ってしまうじゃないかーーーー!


せめてもの自制心として、その場では開けないことにした。もし開封したら「こっちが出るまでやろう」と際限がなくなるからだ。


・ホビーの聖地

今回は全容をつかむためにザッと流して歩いた筆者だったが、展示のひとつひとつをじっくり見ていたら時間がいくらあっても足りない。「これ持ってた!」という商品もたくさんあった。

ちなみに記念メダルで回したガチャは「アルパカ」だった。大阪観光からちょっと足を伸ばすだけで簡単に行けるようになった海洋堂の新しいフィギュアのテーマパーク、まさに大人が楽しめるホビーの聖地だ。


・今回ご紹介した施設の詳細データ

名称 海洋堂ホビーランド
住所 大阪府門真市新橋町3-1-101 イズミヤ門真店3階
時間 10:00~18:00(最終入館17:30)
休日 不定休(イズミヤ門真店の休館日に準ずる)
料金 大人1000円 / 中高生700円 / 小学生500円 / 未就学児無料


執筆:冨樫さや
Photo:株式会社海洋堂、RocketNews24.