霊感はない……と思う。39年間生きてきて、幽霊を見たことはおろか、それっぽい現象に遭ったこともないから。この歳までなかったらもう一生ないだろう。そう思っていたのだが、ひょっとしたらあれって心霊体験だったのだろうか

それはあるビジネスホテルに泊まった時の出来事である。私(中澤)が眠れずにベッドに横になっていると、深夜に差し掛かる頃、部屋のドアの前辺りである音が聞こえ出した……

・人の足音

パタパタ……パタパタ。それは人の足音だった。館内用のスリッパでバタバタと歩いたらこういう音になるだろうという音だ。最初は、私の部屋の前を人が通りすぎただけだと思った。

しかし、1つの足音が行ったと思ったら、すぐにまた新しい足音が聞こえる。歩き方が同じなので、どうやら同一人物が行ったり来たりしているようだ。オートロックのため、鍵を部屋に置き忘れたのかもしれない。パタパタ……パタパタ……鳴り続ける足音。迷ってないでフロントだろ。そう思っていると……ガチャガチャ! ガチャガチャ

と、ドアが突然音を立てる。どうやら、何者かが私の部屋のドアを開けようとしているようだ。隣の人が部屋を間違えてるのだろうか? ガチャガチャが終わると、また始まるパタパタ。いや、フロントーッ!

・妙な点

しかし妙なのは、スリッパで廊下を歩く音がハッキリ聞こえること。私の部屋はエレベーターホールから入ってすぐのところだったため、部屋にいる間何人かが部屋の前を通っているが、気配程度でこんなにハッキリと足音は聞こえなかった

そんなちょっとした不思議さから、よく耳を澄ましてみると、距離的に部屋の中で鳴っているような気もする。ドアの前であることは間違いないが、外か中か分からないくらいの微妙な近さだ。と、思わずその音に意識が集中した時……


ガチャガチャ! ガチャガチャ


と再びドアを開けようとする音。からのパタパタ……パタパタ。いや、おかしいだろ! なんでフロントを介さず定期的に開けようとすんねん。っていうか、常に足音が聞こえる意味が分からない。1回立ち止まれや。

と、ここで気づいた。さっきから、この足音の主は一切声を発していないことに。「う~ん」とか「あ」とかそういうのさえないのである。なんなら息遣いの気配すらゼロ。人間的気配がしないというか。

・部屋の気配

それに気づいた時、同時に部屋がなんか凄く嫌な空気になっていることにも気づいた。部屋は、ベッドルームからドアまで短い通路がある普通のビジホの構造なのだが、闇の中、ベッドから見えないその通路部分に何かが隠れてるような気配がするのである。

これひょっとして “出て” るの? だが、この時点で私はもうドアまで行って確認しようという気はゼロになっていた。幽霊の仕業だったらもちろんのこと、リアルな人間がいたらもっと怖い。深夜に意味不明な行動を取る人がまともである可能性は低いと思うからだ。

・ヤバイ

音が止んだのは2時間くらい経った頃。深夜3時くらいだった。たまにスマホで時間を確認していたため間違いない。また、金縛りとかにはなっておらず、ハッキリと覚醒していたため夢ではなく現実であることも間違いない。やっと終わったか……何事もなくて良かった。と、一息ついた瞬間……


「キャハハハ」


遠くから聞こえる子供の笑い声! 声の感じから察するにおそらく10歳以下だ。外ではなく館内に響いている感じである。

これはヤバイだろ。ビジネスホテルの深夜3時だぞ。10歳以下の子供の笑い声がこれほど不釣り合いなシチュエーションも少ないのではないだろうか。泣き声の方がまだありえる。

しかしながら、遠くだし部屋の嫌な感じもなくなったため、なんとなくその笑い声に一連の出来事のエンディングを感じた私はそのまま寝た。映画一本見終わったくらいの感じでスッキリ寝ることができたのであった。

・後日談

あれ結局何だったのかな? 不思議な体験ではあったが、今になって思い返すと心霊体験かどうかの確証はない。そこで後日、そのビジホを事故物件の情報サイト「大島てる」で検索してみたところバッチリ燃えてました……。

想像だにしなかったオチがついてしまったわけだが、信じるか信じないかはあなた次第。ただ、この体験について私はこう思う。「正体が人間だったらもっと怖い」と──。

事実、イベント発生中に「むしろ心霊現象であってくれ」と思っていたくらいだ。つまり、本記事の教訓は心霊現象っぽいものは霊の仕業と思っておいた方が幸せということ。というわけで、私は信じることにする。

執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.