先日、コンビニの菓子の棚を物色していた時のことだ。そこで筆者は驚くべき光景を目にしてしまった。多種多様な商品が並ぶ中、まるでレトルト食品の箱の中身のような、ほぼ文字だけで構成された銀色のパッケージが平然と紛れ込んでいたのである。

「一体誰だ、こんなところにレトルト食品の箱の中身を置いた無法者は」と思っていたら、さらなる驚きが待ち受けていた。そのパッケージにはなんと「ベビースターラーメン」の文字が、こちらの頑迷な見識をあざ笑うように刻まれていたのである。

どういうことなのか理解が追いつかず、しかし一方でふつふつと興味は湧き上がり、気付けば筆者は目の前の菓子を購入していた。

帰宅後によくよく確認したところ、その商品の正式名は「BABY STAR RAMEN(ベビースターラーメン)こだわりチキン味」というらしかった。2021年5月31日に全国のコンビニで(スーパーなどは6月21日)発売された「ベビースターシリーズ」の新顔である。

既存のベビースターと何が違うかと言えば、ひとえに質へのこだわり具合だ。名古屋コーチン、金華ハム、国産丸大豆しょうゆなどの厳選素材がスープに使用されており、試作に試作を重ねた末に開発された商品とのこと。

パッケージの表(おもて)面は前述の通りシンプルで、社名・商品名のほかにはこだわり具合を示すように1本のベビースターが描かれているのみ。極めてキャッチーだ。写真を撮ろうとすればこちらの撮影する姿が映り込むほどの銀光り仕様で、色々な意味でライター殺しと言わざるを得ない。

ここまで聞くと高級品のように思えてくるが、店頭想定価格は税込114円前後と落ち着いたものである。あくまで亜種という位置付けなのかもしれない。

ともあれ、味が気になることに変わりはない。期待とともに中身を取り出し、実食してみる。そうして新種のベビースターに舌が触れた瞬間、奇妙な感覚が芽生えた。

美味しい。美味しいが……これは既存のベビースターと何が違うのか。いや、開発工程が違うのはわかっているし、実際に食べてみても確実に味が違うと感じるのだが、「どんな味の違いか」を自信を持って断言できない。

筆者のベビースターリテラシーが低いだけかもしれない。とはいえ、それを理由にこんな「なんか美味しい」程度の浅いレビューで文章を終えるのは非常に良くない。このベビースター記事における過ちは間違いなく今後の人生に暗い影を落とす。

というわけで、こんなこともあろうかと用意しておいた通常のチキン味のベビースターも一緒に食べてみることにした。それぞれのテイストを比較しようという寸法だ。

その結果、瞬時に悟った。見た目はまるで一緒でも、両ベビースターのあいだに横たわる微妙な差異。断言しよう。「こだわりチキン味」の方が上品である。

醤油の芳醇な香ばしさや、使用されている素材の緻密な旨味、そういった繊細なニュアンスが伝わってくる。通常の味は荒々しい駄菓子っぽさというか、べったりと舌に残るような濃厚さがあるのに対し、「こだわりチキン味」の方はつるりと磨かれた風味豊かさが味覚に沁みる。

深みがあり、奥行きがあり、のめり込まされるような立体的な味わいだ。それぞれのベビースターを噛み締めるほどに、食べ進めるほどに、この違いはじわじわと響いてくる。

通常のベビースターを食べる時、たまにこういうことがないだろうか。袋を開ける前は「余裕で一気に食べ切れる」などと思っていても、いざ食べてみると途中で少し飽きが来るようなことが。ところが「こだわりチキン味」の場合、そんな事態が起こる気がしない。

さらりとした、しかし物足りなさとは無縁の重層的な美味しさが、いつまでもこちらの手を休ませない。上品で、食べやすく、美味しい。なるほど、これは確かに「こだわり」の名にふさわしい一品だ。

「わざわざ比較しないとわからない程度の違いに価値はあるのか」という声もあるかもしれない。だが元々完成されていたものに、さらに苦心して苦心してアレンジを施した成果と捉えれば、微妙な差異でもとても価値あるものだと、少なくとも筆者にはそう思える。 

皆さんも例の奇抜なパッケージを見かけたら、ぜひとも手に取ってみてほしい。一見派手な銀色でも、その中には地味ながらクオリティの高い、いぶし銀な菓子が詰まっている。

執筆:西本大紀
Photo:Rocketnews24.