カプコンの『Ghost Trick(ゴースト トリック)』というゲームをご存じだろうか。恥ずかしながら筆者は知らなかった。

いまから10年以上も前にニンテンドーDSでリリースされ、『逆転裁判』シリーズの巧舟(たくみ しゅう)氏の作品ということで高い評価を受けたのだが、後継機への移植はなし。現在唯一プレイできるiOS版も、長らく更新されていなかったのだという。

「神ゲー」との呼び声も高く、「ぜひ復活を」と署名活動が起こるほどだったが、ついに最新のiOS14に対応……ということで初プレイしてみた。


・最初は正直……

作品ファンならよくご存じかと思うが、ジャンルは「パズル&アドベンチャー」といえるだろう。

主人公の特殊能力を駆使しながら、画面上にあるものをタップして仕掛けを動かしていく。板を傾けたらボールが転がるといった、「ピタゴラスイッチ」の仕掛けを作るようなイメージだ。

とはいえゲームだから、想像もつかないような動きが正解になる。失敗を繰り返しながら、「トライ&エラー」であちこちタップしていくことになる。

序盤をプレイして感じたのは、正直にいうと「ちょっとめんどくさいな……」だった。近ごろ主流のスマホゲームは、とにかく手間をかけずにスキマ時間にちょこっとやれるものが大多数。

筆者はPCゲームもやるのだが、そちらでは逆に自由度の高いオープンワールド大作をプレイすることが多いので、一本道のストーリーをたどっていくアドベンチャーゲームとは縁遠くなっている。

本作の、タップできるところを片っ端から試してみる「総当たり方式」や、失敗を繰り返して学習していくゲームスタイルは、「楽しいよりも面倒」というのが率直な感想だった。正解にたどり着くまで、同じシーンを何度も見なければならないのも少々わずらわしい。


ところが、である。


・ストーリーから目が離せない!

主人公には時間を操る能力があり、物語としては「タイムリープもの」に属する。たくさんの登場人物の運命が交差する「群像劇」の要素もあって、中盤以降は「え、ちょっと、だれか図解して!」と叫びたくなるくらい、時間軸が複雑に絡みあっていく。

謎や伏線がラストの1点に向けて収束していく怒濤(どとう)の終盤戦。クライマックスに近づくにつれ「先が知りたくてしょうがない」という心理になり、失敗しても何度もリトライのボタンを押してしまう。

仕掛けがカチリとはまって、ストーリーが進展したときの喜びは、もう言葉にならない。

登場するのは、みな強烈なビジュアルで、1度見たら忘れられないヘンテコな人ばかり。それなのに1人1人に愛着がわいて、いつしか「だれも不幸にならないで」と祈るような気持ちになっている自分に気づく。

最初は古くさく思えたレトロな画面構成も、いつのまにか魅力的に感じる。つねに真横から見た固定アングルで、おもちゃ箱のようにいろいろなものが詰めこまれたドット絵。それが「動きすぎ!」というくらい、踊ったり歌ったりよく動く。

視点を移動できるのが当たり前の3Dゲームに慣れていると古風に感じるが、もちろん「わざと」である。最初に3Dモデルを作って動きをつけてから、わざわざドット絵として出力するという手間をかけているのだという。

ゲームのおもしろさは、画面の情報量とは比例しないことを改めて実感。ストーリーが進めば進むほど、じわじわと味が出てくるスルメのようなグラフィックだ。

ときにシニカルに、ときに微笑ましく、くすりと笑えるセリフ回しも絶妙。「生と死」をめぐる重いテーマであるにもかかわらず、つねにカラッとした明るさがある。いつしか登場人物たちが大好きになっている。

見事なストーリーテリングだ。SNS上で「記憶を消して最初からプレイしたい」なんていう声を聞くのも納得。良質なミステリー小説を1冊読み終わったようなプレイ感。これは……神ゲーだ!


・未プレイの方はぜひ

「うん知ってた」という方も多いだろうが、未プレイの方はぜひ! 最新OS対応を知った経験者からは「とにかく1度プレイして!」という声があふれていたが、筆者もついつい布教したくなってしまう。

2021年5月現在、第2章まで無料配信しており、第3章以降は有料。最終章までまとめて購入する場合は2080円となる。

筆者のクリア時間は11時間ちょっと。初日は1時間も経たないうちにやめたのだが、後半になるにつれ加速度的にプレイ時間が延びていった。2周目には初見で見落としていた新たな気づきがあるというから、また最初からやってみる。


参考リンク:株式会社カプコン
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.

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