突然だが、あなたは「ソフトクリームの上の部分に4本足が生えて自立し、砂丘を歩行している光景」を見たことがあるだろうか。筆者はある。こんなことを書くと甚だ特異な幻覚の持ち主だと思われそうだが、これは幻覚でも何でもない。赤城乳業が2021年3月1日より放映開始した「ある商品のCM」で流れる映像である。

赤城乳業。近頃この社名をよく聞くという人も多いだろう。元々「ガリガリ君」で不動の地位を確立していたが、最近は「かじるバターアイス」で話題を呼んでいる。その赤城乳業が、なんと前述した珍妙なCMの商品に社運を賭けているらしい。一体どういうことなのか。

「一体どういうことなのか」と書きはしたものの、本記事を最後まで読んでも謎は明かされない。筆者自身もよくわかっていないのが現状で、おそらく未来永劫、赤城乳業内部の人間以外にはよくわからないままだろう。

それでも説明を放棄するわけにもいかないので補足しておくと、件(くだん)の商品の名前は「Sof’(ソフ)」という。2017年春より発売されたこのアイスは、「ソフトクリームの美味しい “上” の部分だけを商品としたカップアイス」と謳われている。

そしてこのたび2021年3月にリニューアルが実施され、さらに美味しさが増したとのこと。リニューアルに合わせ、商品コンセプトを押し出す新CMも放映が開始された。ここまではいい。問題はこれ以降だ。

そのCMの内容というのが前述した通り、ソフトクリームの上の部分に4本足が生えたような生き物が、どこかの砂丘をモソモソと歩いたのち、

その姿に重なるように商品名と商品画像が映し出されるというもの。これが良くない

いや、良くないと断じてしまうのも良くないかもしれないが、とはいえ100人に聞いたら99人が「良くない」と答える気がする。残りの1人も気を遣って「独特で良いと思う」と言葉を濁す気がする。一体このおぞましいCMは何なのか。

どうしてこんな薄気味悪い手口でコンセプトを押し出そうとしたのか。CM企画者の精神は果たして健やかなのか。放送倫理上の問題はないのか。

疑問は尽きないが、極めつけなのが赤城乳業が公式HPにおいて「社運を賭けたリニューアル」と大々的に公言している点である。それなら何故こんな狂気漂うCMを作るのか。胸がざわついて仕方がない。バターアイスでキャッチした集客分をそのままリリースする気なのか。 

ともあれ、何だかんだで同商品の存在が気になり始め、やがて筆者の意識にこびりついて取れなくなったため、その状態から解放されるために実物を入手することにした。そういう意味では宣伝に成功しているのかもしれない。

ちなみにミルクバニラ味とチョコレート味の2種類があったが、今回は前者を選択。希望小売価格は税別140円となっていた。

実物のフタを開けると、まさしくソフトクリームの上の部分のように渦巻くアイスの姿があった。次いでスプーンですくって食べてみると、とろける甘さが待っていた

美味しい。少し舌で押しただけで柔らかに崩れるクリームから、牛乳の深く重厚なコクがどっと溢れ出してくる。身構えていなかったところにボディブローを食らったかのようで、甘美な衝撃が滑らかな口溶けとともに身体全体に伝わっていった。

あっという間に虜になって、何度もすくっては口に運ぶ。本当に、ソフトクリームの1口目を食べた時のような、脳が潤う幸福感が2口目も3口目も続いていく。肉の脂の部分のような濃縮された旨味が、途切れることなく弱まることなく味覚に送り込まれてくる。

これはすごい。記憶に鮮明に刻まれる美味しさだ。「まるで牧場で食べるソフトクリームのよう」と公式HPに書かれているが、牧場でもこれほどのものはそうそう食べられないのではないか。

時間が経つにつれアイスが溶けてくると、トロッとした食感の悩ましさが余計に増して、いよいよ霜降り肉の様相を呈してくる。極上のクオリティにひたすら溺れるだけだ。一体どうやってこんな夢のようなアイスを作ったのかと不思議でならない。

ただ、食べている最中もずっと脳裏であの4本足のおぞましい生き物がモソモソと歩いていたので、もうこの呪いは永遠に解けないのだと思う。筆者の魂は永遠にこのアイスに囚われたのだと思う。生きている限り、買い求め続けるしかない。

バターアイスが赤城乳業の光の側面なら、こちらは完全に闇である。しかし、闇に気付かなければ、この美味しさも知りえなかっただろう。

企業の上澄みにだけ目を向けていては見えないものもあると、「ソフトクリームの上の部分だけ」が教えてくれた。なんとも奇妙な体験であった。

参考リンク:赤城乳業 公式HPYouTube
執筆:西本大紀
Photo:Rocketnews24.

▼赤城乳業「Sof’」のおぞましいCM