社会現象的な大ヒットとなったマンガ『鬼滅の刃』。一説にはアニメの放送が火付け役だったと言われている。事実、私(中澤)の周りにもアニメ放送時「気になっていたから見よう!」という人がいた。

っていうか、私も当時気になっていたから見た人である。しかし、結果は1話で見るのをやめた。そう、世に言う1話切りである。大体アニメを見始めると3話くらいは見るのだが、『鬼滅の刃』は1話で「もういいかな」となった。なぜならば……

めっちゃ普通な感じがしたから。絵も綺麗で、王道な流れは悪くない。悪くないのだが、特に惹かれるものもなかった。主人公・竈門炭治郎(かまどたんじろう)にもヒロイン・禰豆子(ねずこ)にもそこまでの魅力を感じなかったのである。

さらに言うと、カッコいいキャラとして登場する冨岡義勇(とみおかぎゆう)もピンとこなかった。言わんとすることは分かるけどなんかハマらない。その感覚のズレは致命的なものに感じた。私ももう年か……。

・新型コロナの影響で

ご存知の通り、その後『鬼滅の刃』は時代を作るレベルとなった。ますます、ジェネレーションギャップを感じた私は、ずっとスルーしていたわけだが、新型コロナの影響で休止するアニメが増えた。そこでゴールデンウィーク、私はついにパンドラの箱を開けたのである

・炭治郎の物分かりの良さがエグイ

改めて1話を見ても、やはりピンと来ない。2話も同じだ。むしろ、当時の感覚のズレは勘違いではないことを悟った。っていうか、見ず知らずのオッサン(鱗滝左近次)に初対面でいきなりビンタされて、普通に受け入れる炭治郎どういうこと? やはり私には無理なのか……。

そう思っていても物語は振り落とされんばかりにガンガン進んでいく。3話なんて30分のうちに2年が経過するという飛ばしっぷりだ。よくわからんまま2年も修行していて炭治郎は将来が不安にならないのだろうか?

驚いたのが、その間の禰豆子である。この間、禰豆子はずっと寝ている描写しかないのだが、私は炭治郎の修行の裏側で普通に生活しているけど映らないだけかと思っていた。そしたら、突然、炭治郎と鱗滝さんが「起きない」とか言い出すのである。

その言葉の衝撃に思わず寝入るシーンまで戻って確認してしまった。だが、驚くほど自然に「スヤァ」と寝入っており、起きない伏線とかは一切ない。こんな大きい謎を抱えたままよく2年間普通に修行ができたな。ストーリーをグイグイ回す炭治郎の歯車力には驚かされてばかりだ。

・他のマンガとの違い

とは言え、ストーリーはこの後もガンガン進んでいく。『NARUTO』でいう中忍試験みたいなのが始まり、それも30分くらいで終わった。これが若い人のスピード感……話が早いなんてレベルじゃない

ただ、それだけにストレスは全くなく、気づけば10話目くらいに差し掛かっていた。そして、この段階で気づいたのだが、ひょっとしたら『鬼滅の刃』は、ここくらいまでがチュートリアルだったのかもしれない。

通常のアニメだと、キャラ紹介的チュートリアルの話を最初に済ませて次の段階に移るものが多い。『NARUTO』だと中忍試験までには、ナルト、サスケ、サクラのキャラと立ち位置が分かっている。

しかし、『鬼滅の刃』の場合、ことここに至っても、炭治郎の人間性について新たな発見があるのだ。つまり、話が進む速度が速いというよりチュートリアルが長いのかもしれない。キャラ紹介を端折って大筋の中に盛り込んでいるから。

その証拠に話が進めば進むほどに炭治郎と禰豆子は人間的に見えてくる。人と話す度、コロコロ表情を変える炭治郎はもはやストーリーを動かす歯車ではなく1人の人間。全く相手のことを否定しないその優しさに惚れそうだ。

・神回

と、いまだ分析しながら見てしまっていたのだが、そんな考えすら全て吹き飛んだのが19話の『ヒノカミ』。累との戦いで鬼のように盛り上がるラスト数分は、頭が空っぽになり鳥肌が止まらなかった。これぞジャンプ! 炭治郎カッケェェェエエエ!!

子供の頃、夢中になったジャンプマンガ。思えば、そこには説明や理屈ではなく、夢と希望が詰まっていた。久しぶりにそんな気持ちを思い出させてくれた『鬼滅の刃』は間違いなく名作と言える。

もし、私のようにアニメ途中で挫折してしまった人も19話まで見れば意見は変わるかもしれない。とりあえず私は今、2020年10月16日公開の劇場版に全集中だ。

参考リンク:鬼滅の刃公式ポータルサイト
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.