空想科学小説、鉱石ラジオ、月面旅行、ライト兄弟、ジュール・ヴェルヌ……これらのキーワードにビビッときたあなたは、きっと宇宙の成り立ちや未知なる知識にロマンを感じる科学少年だった過去があるだろう。そんなあなたに、キラキラした少年時代を思い出すような素敵なホビーをご紹介したい。「結晶づくり」だ。自宅で、そして手作業で、結晶を作れてしまうのだ!

育成キットを販売しているのは「アーティスト小林健二氏設計・監修」という銀河通信社。手作りの科学工作キットを小規模に開発しているようだが、この度ヴィレッジヴァンガードのオンラインストアで入手できたので挑戦してみたい。


・硝子結晶育成キット(税抜2500円)

何種類かある中で今回チョイスしたのは、薄いグリーンの結晶ができるという「硝子結晶育成キット」。タッパーのような容器と、結晶のもと、攪拌(かくはん)用のスプーンや手袋が入っていた。あとは保温用のタオルを自分で用意するくらいで、基本的にはキットの内容物だけで育成できるようになっている。

手書き感のある素朴なマニュアルも同封されているので、よく読んで進めていこう。

まずは熱湯を用意し、「硝子結晶の素 その一」をよ〜く溶かす。成分はNH4H2PO4だというが、ガチ文系の筆者にとっては謎の暗号である。ほどなく全量溶けて、無色透明な液体になった。

続いて「硝子結晶の素 その2」を入れる。小瓶から液体がさぁっとインクのように広がって、魔法薬でも作っているようだ。自分のなかの中二病的な何かが刺激される。

この液体の量によって結晶の太さが変わるという。太い結晶を作りたいときは少なめ、細く尖った結晶を作りたいときは全量入れるといいらしい。何事も平凡より多少尖っている方がかっこいいと思うので全量入れてみた。

あとは母岩となる天然石を沈めて、手早く包んで保温する。冬に温度が下がりすぎるとよくないようで、親切にアルミシートが同封されていた。なんというか、結晶に対する愛が感じられる。

大きくなぁれ。


・24時間経過

結晶は1週間ほどかけて少しずつ成長するらしい。2日目からは蓋を開けて育てるので、封印を解いてみたい。

おおおっ、生えてる!!

まだ結晶らしくない丸々とした姿だが、確かに生えている。余分な結晶をこまめに取り除くのがコツのようなので、一度母岩を出し、容器や溶液をきれいにしてから戻す。いらない結晶は再び熱湯で溶かして溶液にするといいとのこと。ここからは蓋なしで、室温で育てていく。

「盆栽を養生するように気持ちを注ぐことでそれに答えるように結晶も美しく成長していくのです」とのこと。よし、わかった。結晶とのコミュニケーションだな!


・48時間経過

結晶らしくトゲトゲしてきた。科学力ゼロの筆者には何が起きているのか全く説明できないが、地球の神秘が目の前で再現されている!

触ってみると硬いが、簡単に「シャリッ」とか「ポキッ」とか折れてしまう強度なので、丁重に扱わなければいけない。が、折れた部分も美しい……。


・3日経過

成長が早い。まるで生き物のように、見るたびに姿が変わっている。だいぶ伸びてきて溶液から頭が出そうだ。2日前に作っておいた溶液を足しておく。


・5日目

容器の底いっぱいに広がり、てっぺんも水面から出てしまっている。育ち過ぎて見るからにギュウギュウだ。溶液から出てしまった部分は、当然ながらそれ以上は伸びない。


この感じ、何かに似ている……。


鉢の中で根詰まりを起こして伸びなくなっている植物だー!! 植え替えのように、より大きな容器を用意すればいいのだが、残念ながらもう溶液はない。どうしたものか……。


・6日目

ああっ、悩んでいるうちに水から出ている先端部が変な形になってしまった! 臆して様子を見ているだけでは手遅れになることもある。これ以上、傷を広げぬうちにここで完成としたい。水道水で洗い流したら出来上がりだ。

育て親に似たのかちょっと肥満気味にすくすくと育ち、立派な結晶になった。かっこいい! ダイヤモンドダスト(byキグナス氷河)だ!!

よく見ると四角錐の柱が四方八方に伸びている。指くらい太い部分もあれば、針のように細い部分もある。誰がデザインしたわけでもない、自然の芸術だ。魅入られるような美しさがあって、こりゃ魔力あるな。うちの汚い台所から生み出されたとは思えない。いつまでも見ていられる……。


・地球の神秘

筆者は無神論者だが、雪の結晶を見るたびに、この世には人智を超えた大きな力があると感じる。それを神と呼ぶか、自然科学と呼ぶかに、おそらく大きな違いはない。誰が何の目的でこんなに美しいものを作ったのか? それともこういうものを美しいと感じるように人間の方がインプットされているのか? それは何のために?

決して大流行するようなものではないが、世界の不思議を感じられる面白いキットだ。背の高い容器に入れると細長い結晶に育つのだそう。子どもの自由研究にもお勧めだが、完成した結晶はとても脆く、学校に行く途中で壊してしまうことが確実なので持ち運びを工夫されたい。飾るのは100円ショップのコレクションケースがよさそうだが、ホントは魔法陣が欲しいな。


参考リンク:銀河通信社ヴィレッジヴァンガード
Report:冨樫さや
Photo:RocketNews24.