おいしいラーメン屋さんはプロに聞いてしまおう──という、他力本願はなはだしい企画「ラーメン屋が推すラーメン屋」、第2回は神奈川県相模原市の『中村麺三郎商店』を訪れた。

同店は2016年にオープンするやいなや瞬く間に行列店となり、今では県外にもその名を轟かせる新星……いや、もはや神奈川を代表する巨星だ。そんな注目の店を訪問することになったのは前回、『支那そばや 本店』が推したことから。

・『支那そばや』が推す『中村麺三郎商店』

『支那そばや 本店』といえば、言わずと知れたラーメンの鬼・佐野実氏が創業した名店。その “鬼” と同じ舌の感覚を養うべく、365日 佐野氏と同じ食事をとり続けたという妻のしおりさんは前回、次のように語っていた。

佐野しおりさん「初めて『中村麺三郎商店』のワンタンメンを食べたときは「うわぁ! 旨っ!!」と感動しました。スープの奥行きとキレ。大好きな醤油感。とにかく美味しかったですね~」

ここまで絶賛するならば、と筆者(ショーン)は期待に胸を膨らませ、相模原市にある淵野辺(ふちのべ)駅へと降り立った。そこから歩くこと5分、少しうら寂しい道沿いに客がひっきりなしに出入りする店が目につく──『中村麺三郎商店』だ。

訪れたのは平日の14時ごろ。ランチタイムはとうに過ぎた時間帯にも関わらず、店内をのぞくと満席状態。周辺には大学キャンパスが点在することからさぞや腹を空かせた学生が多いのだろうと思ったが、見渡してみると家族連れからお年寄りまで、その客層に厚さに驚いた。


 

・サプライズが連発「海老ワンタン醤油らぁ麺」

今回、注文したのは「海老ワンタン醤油らぁ麺(1100円)」。クリアな醤油スープにチャーシュー(肩ロース・バラ)、肉厚なメンマ、そして海老ワンタン3つがひしめき合っていて、麺が見えないほど。

その麺を引っ張り出してみると……おお~綺麗な細い平打ち麺がお目見え……

って……麺、長ッ!! 

どのぐらい長いのだろうと目の高さまで持ち上げてみたが、それでも “終わり” が見えないほど。肺活量を総動員して思い切りすすっても、案の定 “すすりきる” ことはできず……。その代わり、なめらかでコシのある麺が口いっぱいに満たされることになり、ウ~ンただただ幸せ。

スープはその透明感ある見た目とは裏腹にかなり奥深い味わい。鶏など動物性の力強い旨味が舌先に切り込み、シャープなカエシ(醤油)がすっきりと喉越しバツグン。“濃厚で始まり、あっさりで終わる” というある種の矛盾をはらんでいて、噂通り感動を覚える美味しさだ。

この時点で「ああ、こんな店が近所にあったら……」と相模原市民に強い嫉妬を覚えたが、肉厚なチャーシューを食べたときには そんな卑しい気持ちが吹き飛ぶほどクラクラきた。噛んだ瞬間にジュンワ~ッと肉汁があふれ、パサつきなどは微塵(みじん)たりとも感じないジューシーさ。もはや主役級のウマさだ。

と、ここで後回しにしていた真の主役ワンタンだが、正直に告白すると私はラーメン屋で「ワンタン麺」を頼んだことはない。中華街がある横浜市で育った私からすれば、ワンタンは中華料理屋で食べるもの。しょせんラーメン屋で出されるワンタンなんて……と期待せずにチュルッと食べてみたら──

\ 海老「ぶりんっ!!」 /

海老が……しゃべった?

「噛んだら “ぷり” ってカワイイ音を立てるかな。もしかしたら “ぷりぷり” って2回鳴らすかもしれない」と思っていたが、まさか野太い “声” でハッキリ「ぶりんっ!!」としゃべり出すとは思わなんだ。しかも激しく美味いじゃないか、コレ……!


 

・店主・中村健太郎さんにインタビュー

海老ぞりになるほど衝撃を受けたので、店主の中村健太郎さんに任意の事情聴取(インタビュー)を申し出たところ、「昼の営業時間を終えた後なら」と快く応じてくれた。

──今回、『支那そばや』さんの “推し” で初訪問させていただきました。

「恐縮です。お客さんから美味しいと言われるのはもちろん嬉しいですが、同業者から、しかも佐野さんから評価されるのはホント嬉しいですね」

──いきなり素朴な疑問ですが、店名の「中村麺三郎」にはどういう意味が?

「深い意味はないですが、自分、三男なんですよ。で、名前が健太郎でラーメン屋なので “麺三郎” です(笑)」

──なるほど! 2016年(当時29歳)にオープンされましたが、それまでの経歴は?

「19歳から飲食業界に飛び込みました。最初は5年半ほど、東京・溜池山王にある中国料理店『聘珍楼(へいちんろう)』で修行していました」

──(ガタッ)へ! へ、へへ……聘珍楼……!?

ご存じない方のために説明すると、『聘珍楼』は横浜中華街に本店を置き、創業130年以上を誇る日本最古の中国料理店だ。中華街でも指折りの “超高級” 料理店に入る。中村店主は、その支店(溜池山王 聘珍楼)で修行を積んでいたというワケだ。

──じゃあ、あの海老ワンタンは……

「あの海老には丁寧な下ごしらえをしていますが、『聘珍楼』で学んだものが全て詰まっています。もう、数えきれないほどワンタンを作ってきましたからね」

──まさか本格的な中国料理店仕込みのワンタンだったとは……! どうりで海老がぷりぷり、いや “ぶりんっ!!” なワケですね。ワンタンもさることながら、「長い麺」も特徴的でした。

「 “すする楽しさ” を味わって欲しくて、あえて長くしてあります。やっぱり麺って他の店と差別化しやすいですし、スープと同じぐらい個性を出しやすいと思いますから」

──そのラーメンを修行したのは『麺の坊 砦(東京・渋谷)』だそうですね。

「『聘珍楼』で5年半ほど修行した後、『砦』でも5年ほど修行しましたね。一時は店長も務めていました」

──『砦』さんといえば「とんこつ」ですが、ご自身が作られるスープは「清湯」「白湯」とあっさりなスープがベース。

「ありがたいことに『砦』にいた当時、限定ラーメンを作る機会をたびたび得られたので色んな味に挑戦していたのですが、試行錯誤した結果「清湯」「白湯」は “可能性” があるな、と。醤油ラーメンはもちろん、担々麺や酸辣湯麺、煮干し系などにもアレンジがきくんです。今の味はオープン当初と比べてだいぶ変わりましたが、基盤となる味は『砦』時代に培いました」

──修行時代から “自分の味” を追求──つまり「独立する」という野心がおありだったんですね?

「もちろんです。『聘珍楼』も『砦』も修行時代は本当につらかったですが、「独立」という目標があったからこそ頑張れました。ハッキリ言って、ラーメン屋は開店するまでが一番シンドイですよ。……と、思ったら開店してからもシンドイですが(笑)」

──今でも “研究” とかで、他のラーメン店へ行ったりするのですか?

「研究というよりは、決まった店へ定点観測的に食べに行ったりしますね。自分もそうですがラーメン屋は日々、味を少しずつ進化させていますから、それをチェックするために食べに行きます。逆に新店開拓はあまりないですね」

──”玄人的” なラーメンの楽しみ方ですね。

ラーメンって、味に作り手の人柄が出るから面白いんですよ! 味でなんとなくわかります、”ああ、店主はこういう人なんだろうな” とか。味が変わると努力の跡も見て取れます。やっぱり、ラーメンが1つの料理として認められミシュランにも選定されるような時代にあるからこそ絶対に手を抜いてはいけない。他店の味を確かめることで、そういうモチベーションにもつながります」

・次回予告『中村麺三郎商店』が推すラーメン屋は……?

──そんな中村さんが “推す” ラーメン屋、教えてください!

「神奈川県横浜市にある『〇〇〇〇〇〇〇』ですね。「塩ラーメン」をリニューアルしたと聞いたので、この前 食べに行ってみたら “塩とスープの力強さ” が前にも増してスゴイな! って思いました」

──ありがとうございました! 行ってきます!


 

聞くと、中村店主に “強い影響” を与えた店主が営むという、このお店。果たして『中村麺三郎商店』が推すラーメン屋とは? 次回をお楽しみに。

・今回ご紹介した飲食店の詳細データ

店名 中村麺三郎商店
住所 神奈川県相模原市中央区淵野辺4-37-23
時間 11:30~15:00 / 18:00~21:00(月・木・金・土・日)、11:30~15:00(火)
休日 水曜

参考リンク:Twitter @n_menzaburou、Instagram @n_kentarou0625
Report:ショーン
Photo:RocketNews24.