やっぱ、ええわぁ──。筆者の友人が競馬場のパドックで頻繁に口にする言葉である。彼は目星の馬を見つけた際、必ずこうつぶやく。そして同セリフと共に推奨される馬は、1番人気の馬であることが非常に多い。

そんな友人の姿を見て、いつも筆者は思うのだ。「こいつは単にオッズに惑わされているだけじゃないのか?」と。

・情報化社会の罠

しかしこれは、彼に限ったことではないと思う。競馬の予想をするうえでパドックは大切な要素だが、一切の先入観を排して見るというのは、実は非常に難しいことなのだ。

なにせ週末になればテレビで予想番組が放送されるし、競馬新聞を広げれば専門家の予想印が目に飛び込んでくる。競馬場内のモニターにはオッズや馬体重などが常に表示されており、なんならパドックの真上にも巨大な電光掲示板がある。

各種の事前情報に触れたうえでパドックを眺めると、どうしても「前評判の高い馬ほど良く見える」というジレンマに陥ってしまいがちなのだ。逆に言えば、大穴を出すような馬をパドックだけで見つけるのは難しい。

・世紀の新発明

そんなジレンマを解消すべく、筆者が独自に開発した新兵器。それこそが……

「パドック専用メガネ」だ!


説明しよう。底を抜いた紙コップをサングラスに取り付け、前方正面以外の視界を遮断。これで周りの人が持っている新聞や、場内モニターに表示される情報を完全にシャットアウトすることができる。コップで塞ぎ切れなかった部分にはバンダナを巻きつけて暗幕を張った。

つまりパドックで目の前を通る馬だけに集中することができるという、世紀の新発明である。ビジュアルは圧倒的に怪しいものの、周囲の視線が気になることはない。なぜなら周囲は見えないからだ!

あとは耳栓を装着して、他の客が話す「あの馬ええで~」などという不要な会話を聞かないようにすれば完璧。この新兵器を装着してパドックに張り付き、万馬券をゲットできるか検証するというのが今回の企画だ。

・検証スタート!

京都競馬場にやってきた。予想の対象とするのは1月11日(土)の京都1~10レース。パドックで最も「良い」と思った馬の単複100円ずつで勝負する。例のメガネをかけているので周囲の情報は入ってこないし、もちろん出馬表などは一切見ていない。

あくまで万馬券ゲットが目標だが、そもそも単勝万馬券は発生しないことも多々ある。またオッズを知らずに買う以上、もちろん人気サイドの馬を買う可能性もある。したがって、最低限の目標としてはプラス収支に持っていければOKということにしておこう。

それではさっそく検証スタート。なおパドックで予想する時間を少しでも多く確保するため、この日はレース結果を都度確認していない。後でまとめて確認するという方式だ。


まずは筆者が選んだ馬をコメント付きで一挙に紹介しよう!


1レース:⑨エルヴィラブレイン
「落ち着いているのが良いですね。外側周回も良いと思います」


2レース:⑦ホッコーアカツキ
「背筋がピンと張っていて、姿勢が正しいのが良いですね。私は猫背なので羨ましいです」


3レース:⑭シャルロワ
「バランスの取れた馬体をしていると思います」


4レース:⑫グッドブリッジ
「適度に気合が乗っています。気配充分とみていいでしょう」


5レース:⑭ヒートオンビート
「2人引きで、やる気がみなぎっているのが伝わってきます」


6レース:⑩シゲルフォボス
「モモの筋肉がパワフルな感じ。たくましいですね」


7レース:③サルサレイア
「筋肉質の馬体をしていますね。全盛期のヴァンダレイ・シウバのような肉体です」


8レース:⑩モーニングサン
「毛艶が綺麗です。また非常にリラックスした表情をしています」


9レース:⑪サンティーニ
「直感です」


10レース:⑦エングレーバー
「リズミカルに首を振りながら歩いています。絶好調とみて間違いないでしょう」


以上だ。コメントだけ見ればマトモなことを言っているように見えるが……はたして馬券は当たったのだろうか!?

・結果発表!

砂漠の民のような格好をして一日過ごすのは疲れたが、とにもかくにもパドックでの予想は終了。自宅に帰って、購入した馬券の結果を確認することにしよう。気になる結果は以下の通りだ!


1レース(⑨エルヴィラブレイン) → 13着! ハズレ!


2レース(⑦ホッコーアカツキ) → 5着! ハズレ!


3レース(⑭シャルロワ) → 6着! ハズレ!


4レース(⑫グッドブリッジ) → 4着! ハズレ!


5レース(⑭ヒートオンビート) → 5着! ハズレ!


6レース(⑩シゲルフォボス) → 5着! ハズレ!


7レース(③サルサレイア) → 5着! ハズレ!


8レース(⑩モーニングサン) → 1着! 単勝650円&複勝210円の払い戻し!


9レース(⑪サンティーニ) → 5着! ハズレ!


10レース(⑦エングレーバー) → 1着! 単勝170円&複勝110円の払い戻し!


結果は以上である。整理すると的中したのは10鞍のうち2鞍。購入金額2000円に対し、払戻金額は1140円。若干しょっぱい成績に終わってしまった。

やはり一切の情報をシャットアウトしてパドックのみで予想するというのは無謀だったのか。そう思ったのも束の間、筆者は興味深い事実に気付いた!

・大穴馬券は夢ではない

注目して欲しいのは4レースだ。筆者が推奨した⑫グッドブリッジはクビ差の4着だったが、この馬は13頭立ての13番人気であった。出走メンバー中、最低人気の馬だったのである。

こんな馬、普通なら買えるだろうか。予想スタイルは人それぞれだが、正攻法で予想する人は手が伸びないであろう馬である。にも関わらず、クビ差(僅差)の4着と大激走。

⑫グッドブリッジの最終オッズは複勝で22.0~41.7倍となっており、この馬券さえ当たれば余裕のプラス収支で帰れたのだ。あと数十センチ。紙一重だったのである。ここに「パドック一極集中」の真髄があるのではないだろうか。

つまり一切の先入観を捨てることで、普段なら無理だと思ってしまうような戦歴の馬を、平等にジャッジ出来るということ。惜しくも馬券は外れたが、新発明「パドック専用メガネ」のポテンシャルは高いと確信している。

それだけではない。今回、筆者の胸には久しく感じていなかった気持ちが蘇った。それは新聞の読み方も分からず、パドックだけを見てキャーキャー言いながら馬を選んでいた、競馬を始めたころの楽しさ。思えば、あの頃が一番楽しかったかもしれない。

いつの間にかデータばかり重視して予想するようになっていたが、やはりパドックには競馬の魅力が詰まっている。それに気付けたという意味でも、今回の検証を行った価値は大いにある。そう筆者は思うのだ──。

参考リンク:JRA公式サイト
Report:グレート室町
Photo:RocketNews24.