2019年ももうすぐ終わり。年号が令和になった今年は変化の年と呼べるかもしれない。古いものが終わり、新しいものが産声を上げるサイクル。一方で、私(中澤)が平成から続けているものがある

うまいそば屋を求めて色んな街を放浪する「立ち食いそば放浪記」だ。2015年から開始して第195回を数えるこの連載。今年レポートした店を数えてみたところ58店だった。話題の店から変わり種まで放浪した2019年。その中から独断と偏見で選ぶベスト7をここに発表したい。

第7位『さ竹』恵比寿

立ち食いそばにおいて重要視されるものの1つがコスパだが、そんなコスパで驚かされたのが『さ竹』だ。なにしろ、330円から十割そばが食べられるのである

しかも、注文してみると、これがかなり本格派の十割そばで2度ビックリ。立ち食いそば業界の新時代を感じた。恵比寿で立ち食いそばと言えばここ以外考えられない。


・第6位『雑賀屋』関屋

今年回った立ち食いそば屋で個性派No.1なのが、関屋の『雑賀屋』である。きしめんかと思うようなぶっとい田舎そばにふたをする鶏天。食べごたえもあるし、元鶏屋のため鶏もウマイ。それでいて、かけそば290円からと価格帯がかなり安いところも立ち食いそば屋っぽくてグッド。


・第5位『おか田』小伝馬町

カレーもウマイ。そばもウマイ。何か派手な個性があるわけではないけれど、ただただバランスの良い質の高さを提供している『おか田』。のど越し爽やかな細麺とコク深い甘めつゆのそばは、懐かしさ漂うカレーとセットで食べると止まらなくなる。通う店とはこういう店だ


・第4位『後楽そば』五反田

立ち食いそば屋なのに焼きそばが大人気という数奇な運命を辿っているのが『後楽そば』である。「あっさりしたものの中に油っこいものがあるからウマく感じるだけじゃないの?」と思っていたのだが、食べてみたらガチでウマかった。

焼きそばってそこまで味の差が出るものと思ってなかったのだが、きゅっとしまった麺と甘辛いソースが絶妙なのである。正直、ここよりウマイ焼きそばを私は知らない


・第3位『そば新』蒲田

チェーン店の中で個人的に最強だと思うのが『そば新』だ。60円でそばを石臼挽きに変更できるのだが、その風味と濃厚なつゆのハーモニーは絶品。しかも、560円でそんな石臼挽きそばを山ほど食べることができるコスパも素晴らしい。ボリュームと味と気軽さが同居した店である。


・第2位『韃靼 穂のか』小川町

天ぷらのトッピングがなく、そばのみで勝負する小川町の『韃靼 穂のか』はまさに侍。キリッと辛めのキレキレつゆと、しっかり打たれた風味豊かな十割そばは、ひと口食べると誰もが理解することだろう。これは真剣勝負だと

そんなそばが150グラム350円から、600グラムでも800円と庶民的な価格で提供されているため、売り切れることも多い。非常に気骨を感じる店である。


・第1位『音威子府TOKYO』四谷三丁目

「日本一ウマイ駅そば」と言われる北海道・音威子府駅の『常盤軒』。四谷三丁目の『音威子府TOKYO』はその幻のそばの味を東京で再現した店である。実際食べてみると、そばはまさにコレという味なのだが違いもあった

それはつゆ。コク深い濃厚なつゆが非常にウマく、味のバランスが関東風にチューニングされているのだ。価格は少し高めな気もするが、このつゆのウマさと『常盤軒』のアクセス難易度の高さを考えるとむしろ安い。自信を持ってオススメできるそば屋だ。

──以上、2019年のベスト7をお伝えしたが気になった店はあっただろうか。もし、趣味に合いそうな店があったなら、ぜひとも足を運んでみて欲しい。

なにしろ、近頃立ち食いそば屋は名店と呼ばれる店でも結構潰れたりする。そば好きとしては、そんなニュースを見る度に寂しい気持ちになるのだ。理由は様々なので、客が増えれば良いというものでもないとは思うが、少しでも長くそば屋が続けられることを祈って令和の時代にこの記事を捧げたい。

執筆:立ち食いそば評論家・中澤星児
Photo:Rocketnews24.