こんにちは。売れないバンドマンの中澤星児です。2019年でバンド活動は14年目に突入しましたが、全然売れる気配がありません。しかも、今年で37歳。正直、「音楽で食ってく難しさ」を実感しています。

そんな僕が所属するバンドが今度作品をリリースするのですが、いきなりCDショップから信じがたい量の発注が! さらに、「コメントを書いてくれ」とのオファーまで。どういうこと!? そこに至ることになった経緯の一部始終をお伝えしたいと思います。

・無名のバンド

そのバンドとは『si,irene』。熱心な読者の方は覚えているかもしれないですが、僕が加入してイギリスでライブをしたバンドです。

こう言うと、「イギリスライブがキッカケ」もしくは「そのバンドが売れているだけ」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、大量発注の件とはあまり関係がありません

そもそも、CDショップから引っ張りだこの売れっ子バンドに僕が加入することはないと思いますし、一緒にリハとか入っていると状況は似たり寄ったりかなと思います。

・力もコネもない

話を戻すと、今度リリースされる作品というのは、『si,irene』が中心となった合計3バンドのコンピレーション。収録されているのは、台湾のバンド『Super Napkin』と日本のバンド『SPIRO』と『si,irene』で、選曲はDJのume-rockさんです。言わば『si,irene』の仲間を集めたコンピですね

レーベルや事務所が企画したものではなく、バンドの繋がりだけで作られた本作。僕は、こういったコンピが好きです。シーンや絆のようなものを強く感じることができるからです

とは言え、広がりで言うと前者より劣るのも事実。しかも、現在、音楽業界はモノが売れない冬の時代。そんな経費と売り上げも含めたミーティングの結果、自分たちで管理できる少量だけプレスすることになりました。

・いきなり大量発注

さて、プレスの発注が終わるとCDショップへの営業です。繰り返しますが、僕たちは売れてないバンド。自分で言わないと誰も本作が発売することを知らないわけです。というわけで、CDショップに「置いてください」と直交渉


「聞いておきますね~」と時にはあしらわれたりしながらも、発売日が近づいてきたある日のこと……

なんと、ディスクユニオンから30本の発注が! 御茶ノ水のディスクユニオンではポップアップスペースでの展開も決定し、コメントPOPへのひと言も求められました。マジでか!?

もちろん、僕も14年やってるので、試聴機に入ったこともありますしコメントPOPも書いたことはあります。しかし、レーベルや事務所などを介さず、無名のインディーズバンドの繋がりのみの本作に、1つのショップから30本の発注が入ったというのはやはりビックリしました。

参考程度に、他に入荷を決めてくれたショップの発注数は次の通りです。原宿『ダンディーミュージックストア』3本、名古屋『FILE-UNDER RECORDS』5本……以上! ディスクユニオン神かよ!! そもそも入荷してくれるだけでもありがたいというのに。

・理由

さて、それではこの30本の発注のカラクリを明かしたいと思います。発売に際して、『si,irene』が用意した仕掛けがあるんですね。実は、この作品……


カセットテープなんです

発売日は2019年10月12日。「カセットストアデイ」という記念日です

「カセットストアデイ」とは、2013年にイギリスで始まったもので、カセットテープの祭典を祝う国際的な年次イベント。日本でも2016年からスタートしており、ディスクユニオンでは毎年この日のために展開が組まれています。

とは言え、カセットストアデイ自体が日本では全然知られていないので、今年もディスクユニオンが展開を組むかは不安ではありました。

店に挨拶に行ったのはカセットストアデイの2~3週間くらい前だったのですが、スタッフさんいわく「まだ3バンドくらいしか来てない」とのこと。盛り上がってねェェェエエエ

しかし、逆に競合相手が少ないからこその大量発注というのはあると思います。売れないバンドマンはカセットストアデイ結構狙い目かも?

・カセットをプレスした方法

ちなみに、カセットのプレスは「CASSSETTE EXPRESS」というサイトで発注しました。音源、デザイン等のデータを揃えてオーダーすればカセットをプレスして送ってくれるというサイトで、オーダーしてからモノが送られてくるまで約1カ月くらいです。

最小ロットも50本からと自分で抱えられる在庫量から注文可で、参考価格は最安10分のテープのプレスで2万9900円。もし、この記事を読んでカセットを作りたくなったミュージシャンがいたら参考にしてください。

最後に、今回のカセットでのリリースは『si,irene』木下くんの「カセットが好き」という言葉から始まっています。もちろん、今年37歳になる僕も音楽に触れた最初の形はカセットでした。友達に借りたカセットをラジカセに入れ、再生ボタンを押した時のワクワクは今でも覚えています

もし、かつて同じ気持ちを感じたことがある人は、ぜひ10月12日カセットストアデイに思い出してみてください。カセット片手にワクワクしながら走った帰り道を。

関連リンク:カセットストアデイCASSSETTE EXPRESSディスクユニオンダンディミュージック
Report:中澤星児
Photo:Rocketnews24.