「侍」と聞くと、たとえどんなに歴史物に興味がない人でも、何かしらのイメージが浮かぶのではないだろうか。しかし、具体的に「侍」がどんな装いで、どのような武器を使って、どう戦っていたのかを詳しく知っている人はそういないのでは。「侍」──皆が知っているようで、実はあんまり知らない存在。

そんな侍の「真の姿」を垣間見ることのできる展示が、福岡市博物館で開催中だ。天下五剣・大典太をはじめ貴重な品々が出品されている上、人気ゲーム「刀剣乱舞-ONLINE-」とのコラボも行われている注目イベントだ。通常は撮影禁止だが特別に許可をいただき、学芸員さんに展示の見どころも教えてもらってきた。貴重な品々をさっそくご紹介するよ〜!

・実戦の中で変化していく「侍」

2019年9月7日〜11月4日まで福岡市博物館で開催されている、特別展「侍 ~もののふの美の系譜~ The Exhibition of SAMURAI」。通称「侍展」だ。入場料は大人が1500円、高校生・大学生が900円(どちらも当日券)、中学生以下は無料。展示は全部で147点あり、なんとそのうち16点が国宝、68点が重要文化財。豪華だ!

「侍展」では、日常的に戦いの中へ身を置いていた日本の「侍」たちに焦点を当て、今から1000年前頃・平安時代半ばから関ヶ原の戦いまでの甲冑と刀剣を展示。甲冑・刀剣が「戦いの中でどう変化してきたか」を見られるのが魅力だという。

とはいえ、どれも同じに見える……という人もいるかもしれない。そこで、「侍展」の担当学芸員・堀本一繁さんに見どころを聞いてみた!

まずは甲冑。変化の注目ポイントは、「隙間を減らしつつ、軽く、簡単に作れるように」なっていくことだそう。「侍」たちの時代が始まる平安時代半ばの上級武士用甲冑「大鎧(おおよろい)」はとにかく重い! 胴部分だけで20kgほど。盾がわりとして肩部分に下げる「大袖(おおそで)」はなんと片側だけで2〜3kg。

当時の馬に乗って弓矢で戦うスタイルに合わせ、馬にまたがっていても前後左右に身をよじれるよう、胴は四角で大きくガバガバ。中に袖が広がった着物を着ても腕を動かしやすいよう、脇はガラ空き。

そこから、時代が進むにつれて城などの拠点攻めが主流となり、騎射戦から立って戦うスタイルに変化。それにともない軽くてフィット感の高い「腹巻」がメインとなる。

接近戦でブスッとやられないよう、ガラ空きだった脇や胸元も詰められていった。

その後、フィット感と軽さを追求していった結果、女性物か子ども用かと誤解されるような腰がくびれて小ぶりなサイズ感に変化していったそう。確かにスタイル良い感じがする。

しかし、室町・戦国時代は一般人(雑兵・足軽)も巻き込んで戦っていた時代。多くの甲冑が必要となるにつれ、動きやすさ、軽さだけでなく、製作の簡単さも追求されるようになったという。

指ほどの大きさの金属や革をたくさん繋いで作られていた甲冑も、パーツごとを1枚にまとめて形成するスタイルに簡略化。腕の防御が袖と一体化した「籠手(こて)」になって、動きやすくなったのにもご注目。

甲冑のパーツが1枚板になったことにより、それまではパーツを構成するたくさんの糸の色で個性を出していたのが一変、戦場で目立ちまくる「変わり兜(かぶと)」が登場。それぞれの武将たちの個性が爆発してる〜!

個性といえば、西洋甲冑を日本風に仕立て直した「南蛮胴具足」も必見だ。西洋テイストミックスの甲冑は信長のもの、というイメージを持たれがちだが、実は家康以降にしかないんだとか。ちなみに、「侍展」の中で一番借りるのが大変だったのがこの南蛮胴具足だそう。見られるのは貴重だ。

続いて、刀剣の辿った時代ごとの変化のポイントはというと、重要なのは「反りとサイズ感」。平安後期頃から、茎(なかご:持ち手の部分)のそばから反る、腰反りのほっそりとしたスタイルの刀が登場。

当時、備前国(現在の岡山)で活躍した名工・友成の作と伝わる太刀などが展示されていて、その特徴がとらえやすい。ちなみに、現代に通じる「日本刀」が確立したのはこの頃だ。

鎌倉時代に突入し、武器の主役はいぜんとして弓矢だったが、歩兵が馬上の者や馬の脚へダメージを与える用などにで細長い太刀の他にも「長巻」「薙刀(なぎなた)」といった、持ち手が長くて反りが大きく斬りやすい刀もよく使われるように。ちなみに、弓矢の展示がないのは消耗品だったせいだそうな。

その後、拠点(城)攻め主流となっていった南北朝時代には「立って刀でダメージを与える」ために殺傷力が超絶高そうな大太刀がたくさん登場。反りも根元から真ん中辺りへと変わっていき、強さと切れやすさが追求されるようになった。

しかし当然ながら、デカくしすぎると振りづらく、実用に不向き。すぐに大太刀ブームは去り、室町・戦国時代には接近戦に有利な、鞘(さや:刀のカバー)から抜いてすぐに斬れるような、反りが小さく短めの「打刀」が主流に。大河ドラマ『軍師官兵衛』の主人公でおなじみの黒田孝高所用の「安宅切(あたぎぎり)」も打刀だ。

南北朝時代に作られた大太刀などは短く磨上げ(すりあげ)られて使われることが多くなったらしい。織田信長の愛刀だった「圧切長谷部(へしきりはせべ)」も、磨上げられた元大太刀の一振り。

「圧切長谷部」はガッツリ磨上げられているものの、通常は刃先にしかない焼きが刀身全体に散らばっている「皆焼(ひたつら)刃」の刀の中で一番出来が良いと評価されている。刀身全体に炎が揺らめくようなギラつき方がとても格好良い!

そして、そんな圧切長谷部を上回るほど出来の良いイチオシの刀だというのが「日光一文字」。刃文がとにかく華やか! 丁子の実に似た涙のような模様がたくさん、まるで花びらのように重なった「重花丁子」刃が見事である。

「日光一文字」は出来の良さが抜群なのに、同じ福岡市博物館所蔵の圧切長谷部と人気に差がついているのが悲しいそう。人だかりが出来にくい分、美しさをじっくり堪能できるチャンスかも?

他にも、「侍展」では国宝で一番小さな太刀「来国俊」と、国宝で一番大きな太刀「備州長船倫光」がともに見られるのもイチオシポイント。「来国俊」は54cmしかないのに、出来が良いため写真だと大きく見えてしまう。

159cmもある「備州長船倫光」は迫力が凄い! 同じ国宝の太刀でも「来国俊」との全長差1m。圧巻。

「見比べて欲しい刀」という観点では、短刀「太閤左文字」と太刀「江雪左文字」、刀「義元左文字」もオススメだそう。

九州発の刀の評価を爆上げさせた博多の凄腕刀工・左文字の傑作「太閤左文字」は刃中の模様や輝きが満載。刀身に光る粒(地沸:じにえ)もたくさん輝く名刀だ。

「江雪左文字」とともに左文字の特徴、鋒(きっさき:刀の先端)の焼き・「帽子」の形が鋭くグイッと突き上げて下がっているのを確認できるのは、刀剣好きにはたまらない。

10月6日まで展示されている「義元左文字」では、その特徴を見ることが出来ないのもある種、見どころの一つ。焼けて刃文がなくなり、焼き直しの際に別の人の手で刃が入れられたからだ。実物を、ぜひ現地にてじっくり見比べてほしい。

とんがった帽子は左文字、といったように、帽子がどんな風に入っているか? という点は刀工の個性が表れる重要な点なのだが、最近話題の「桑名江」を鑑賞するときも帽子にご注目。郷の特徴の1つは帽子、「鋒の全面に焼きが入っている」ことだとか。

作者の郷義弘はめちゃくちゃ凄腕ながら、銘を入れた作品が残っていないことから、本当にいたのか? というレベルに実態不明な幻の名工。しかし郷義弘の作、とされる刀が出来が良いことは間違いない。

謎の多い郷義弘が打ったとされる名刀が他の刀とどう違うのか、見比べてみるのも楽しいかも。

他にも、見比べるのがオススメの刀たちが。郷義弘と並ぶ名工・粟田口藤四郎吉光の刀が、「侍展」では「五虎退」「博多藤四郎」をはじめ4振り展示されている。吉光の作刀も、名刀揃いで有名!

ただ、展示されている吉光の作刀のうち1振り・「骨喰藤四郎」は銘がない。そのため、由来などに諸説あるミステリアスな一振りだ。

ちょっとマニアックな楽しみ方だが、目の保養がてら「帽子」や刃についた光る粒・沸(にえ)をじっくり見比べて、「骨喰藤四郎は吉光に打たれたのか?」と考えてみるのもオススメだ。

・コラボにグッズにイベントにと大充実

「侍展」、展示を見て楽しむだけで終わるのはもったいない。音声ガイドにも注目だ。なんと、「刀剣乱舞」で日本号を演じている声優・津田健次郎さんの美声で分かりやすくガイドしてもらえるよ〜! ガイドの内容が丁寧かつ聴き取りやすく、「刀剣乱舞」をプレイしていない人にもオススメ。しかし、イケボ過ぎて心臓止まりそうになるかも。筆者は死にかけた。

刀剣乱舞のキャラクターたちの等身大パネルやイラストの展示も。

そして、物販も見逃せない。会場は写真撮影不可のため、展示品の画像が載っている図録は必見だが、「侍展」オリジナルグッズ・「刀剣乱舞-ONLINE-」とのコラボグッズも充実しているのだ。特に、刀剣好きにはたまらない物が多いだろう。

中には、福岡の伝統工芸・博多織の紋様と「圧切長谷部」を感じながら長さを測れるメジャー、なんてのもある。圧切長谷部の全長や反り、鋒の長さなどがマークされていて、何かを測るたびに圧切長谷部を身近に感じられる、斬新なグッズだ。ちなみに、なんと手作り。

さらに、グッズだけでなく講演や、刀工が刀へ名前を刻む「銘切り」の体験、黒田官兵衛の甲冑レプリカ着用体験など、イベントも目白押しだ。気になった方は、公式HPのイベント情報をチェックしてみよう。

・10月には展示替えが

現在の展示内容は2019年10月6日まで。10月8日からは後期に突入し、一部展示内容が変更になる。詳しい展示内容を確認したい場合は、公式HPの出品リストを見てほしい。

ちなみに、「戦の中で進化した甲冑の最終形態」とも言える品・豊臣秀吉から伊達政宗に贈られた甲冑は、後期スタートから少しズレた10月16日から展示が開始される。戦いの中で進化していった甲冑の行き着く先が見たい方は、ぜひ。

・今回紹介したイベントの詳細情報
イベント名 特別展 「侍 ~もののふの美の系譜~ The Exhibition of SAMURAI」
開催場所 福岡市博物館 2階 特別展示室 (福岡県福岡市早良区百道浜3丁目1-1)
開催期間 2019年9月7日(土)〜11月4日(月・振休)
営業時間 9:30〜17:30(入場は17:00まで)
休館日 月曜日休館 月曜日が休日の場合は翌平日が休館
入場料 一般1500円、大学・高校生900円(当日券)、中学生以下無料

参照元:侍展Twitter侍展グッズコーナー情報Twitter福岡おもてなし武将隊Twitter
Report:伊達彩香
Photo:RocketNews24.
※本記事内画像の無断転載はご遠慮ください。
[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]

▼「刀といえば」の相州正宗も。本多忠勝所用の「中務正宗」。

▼正宗の作刀は刃についた光る粒・沸が見事。輝きが凄まじい!

▼名刀ながら、実戦で使用された証がくっきりと残る「石田正宗」

▼「桑名江」にも刃こぼれがある。ちなみに、桑名江は本多忠勝の長男・忠政所用の刀だった。

▼福岡市博物館所蔵の「圧切長谷部」「日光一文字」は4K映像も観られます。撮影に早朝から深夜3時までかかったのも納得な美しさ。学芸員さん的には、鮮明すぎて困るレベルの写りだとか。必見です。

▼短刀の名手・粟田口藤四郎吉光の「五虎退」は拵(刀の外装)とともに展示!

▼短刀や脇差は展示ケースで縦に寝かせての展示。手に取って鑑賞するような視点から見られるのが嬉しい。

▼公式Twitterで見方が紹介されてるので必見! 目の保養にもなります。

▼家康所用の「物吉貞宗」。いつの間にか「これを帯びて戦すると必ず勝利した」という出どころ不明の逸話がつけられていたという。綺麗だからかな?

▼この「瀬昇太刀」にいたっては、「濁流を昇ってきた」という逸話がついている。ちなみに全長158cm超!

▼本文内でご紹介した「骨喰藤四郎」が粟田口藤四郎吉光の刀とされたのは、秀吉が骨喰を受け取った際の礼状が最古。逸話や出自が謎なのは名刀あるある? この礼状も展示されているので必見。

▼安宅切の拵と、その写しである圧切長谷部の拵も必見。金がふんだんに使われていて超絶豪華。

▼伊達家の騎馬隊などに愛用されていた「雪下胴」。製作も解体も簡単なのに防御力が高く、重いけど帯の上に乗せれるから肩が痛くならない仕様。政宗のチョイス、なかなか良い。

▼ちなみに展示には、古墳時代の甲冑と刀剣が分かる品も。日本ならではの姿になる前の、貴重な品々。

▼刀剣とともに活躍したであろう、火縄銃の展示もある。

▼有名な黒田長政の「変わり兜」、金属製に見えるが実は、漆をかけて箔押ししてある薄いヒノキの板。軽い上、万が一どこかに引っかかってもすぐに折れるので安全!

▼黒田家の重臣・黒田一成の兜。あまりに目立ちすぎて、戦場で標的にされまくったらしい。なのに生き延びて、86歳まで長生きしたよう。最強では?

▼圧切長谷部メジャーを手作りしている様子。大事に使わせていただきます。

▼圧切長谷部メジャー、自分で作れるキットの販売も開始された模様。

▼福岡おもてなし武将隊の黒田官兵衛さん・栗山善助さんは超絶カッコいいし、「刀剣乱舞-ONLINE-」宣伝隊長のおっきいこんのすけさんは超可愛かった!

▼1階に展示されている「刀剣乱舞-ONLINE-」キャラクターたちのパネルとイラスト。キャラクターの元となった刀は全て「侍展」と企画展にて展示されてます!

▼「侍展」開催中も、福岡市博物館には天下三名槍の1振り「日本号」が展示されています。必見! ちなみに「日本号」も、「正三位の位を賜った」という出どころ不明の逸話があるそうです。

▼教科書でしか見たことのない「金印」も。実物を見ることができて、めちゃくちゃ嬉しかった〜!

▼金印グッズもお見逃しなく! 筆者はたくさん買いました。大満足。

▼「侍展」の物販コーナーとは別で、福岡市博物館本来の物販コーナーもあります。刀剣グッズや図録もあるのでこちらもぜひ!

▼福岡市博物館の敷地内で、運が良ければ猫さんたちに会えるかも。もし見かけたら、エサはあげず、優しく見守ってあげよう。

▼学芸員・堀本さんに伺ったことを書いていたら、記事の文字数制限を倍以上オーバーしてしまった……。基本文字のみでの解説になりますが、よろしければ。

[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]