これから紹介するイベントの開催場所は、一般に公開されていない。参加者にだけ場所が知らされる仕組みで、チケットは大人1枚3500円。これが高いか安いかは……実に難しい。

なぜなら、そこは臭いけど美味いものを食す紳士淑女の集い。その名も『くさうまレストラン』なのだから。

・『くさうまレストラン』とは?

くさうまレストランとは一体なにか? それについては、出る料理を見てもらった方が話が早いと思うので、そちらから紹介したい。一気にドドっと行こう。


■鮒寿司のカプレーゼ仕立て


■ウォッシュチーズと無花果(いちじく)のクロスティーニ サラダ仕立て


■チョン グッチャンのビビンバ風


■臭豆腐のフリット 自家製パクチーソース


■世界一臭いシュールストレミング ミニハンバーガー


■くさやのラザニア


これらをビュッフェ形式でいただくのが、『くさうまレストラン』である。なお、イベント開催中はビール、ワイン、ウィスキー、ジン、ウォッカなどアルコール類が飲み放題となる。


・1日限り

ここで、のっけから残念なお知らせとなって申し訳ないのだが、『くさうまレストラン』の開催は1日限り。2019年は9月21日に終わったばかりである。

したがって、現時点では次の開催についてはよく分からない。来年もまた開催されるのか? 開催されるとしたら、同じ場所なのか? 同じようなメニューが出てくるのか? そして同じような臭さなのか? ……などについては現時点で定かではないのだが、とりあえず今年の状況についてレポートしたい。



・生きて帰ってきた

状況と言っても、少なからぬ人が気になるのはやはり「どれだけ臭かったのか」。もっと言うならば、「死んだかどうか」という点だろう。それに関して先に述べると、「そこまで臭くはなかった」というのが率直な感想である。

ちなみに、私の “臭さ耐久度” は結構低め。頑張ったら納豆1パックを何とか食べられるものの、自分から進んで食べようとは思わないレベルと言えばお分かりいただけるだろうか。つまり、“くさもの界” のド素人。今回のイベントには、ただ「自分がまだ知らない “美味いもの” を発見したい」という気持ちだけで参加したアマチュアにすぎない。

そんな私でも死にはしなかった。だから、もともと臭い料理が好きなプロにとっては「余裕」だっただろう。


・シュールストレミングを完食

とはいえ、もちろん臭いのは臭い。そういう趣旨のイベントだから当然と言えば当然なのだが、個人的には臭豆腐が厳しかった。しかし一方で、くさやのラザニアは激ウマ。また、一番の難敵かと思われたシュールストレミングのミニハンバーガーは、美味しくいただいた。


信じられるだろうか? シュールストレミングが美味かったのだ。あの「世界一臭い缶詰」が……当編集部で開封するたびに現場を一瞬で地獄絵図に変えてきたシュールストレミングが……美味かったのである!



その味をひと言でいうと、ちょっと癖の強いマッシュポテトバーガーと言ったところ。臭みは若干残っているものの、イカの塩辛レベル。決して殺人的ではない。

これは一体どういうことなのだろうか? あのシュールストレミングが美味しいだなんて……料理を作った人はどんなマジックを使ったのか? 気になったので、シェフ(調理担当者)から話を聞いてみることに



──お料理、美味しくいただきました。特に、シュールストレミングのハンバーガーが印象的で……。あのハンバーガーはどうやって調理されたのでしょうか?


シェフ「今回はシュールストレミングをハンバーガーにするってことで、マッシュポテトみたいなのに刻んで混ぜ込んでます。シュールストレミングは風味がめちゃくちゃ強いので、ディルとか香草も一緒に混ぜて味付けしたって感じですね」


──え? 缶を開けるじゃないですか。そしたら、めちゃくちゃ臭いじゃないですか。


シェフ「はい(笑)」


──あの状態から、まずどうするんですか?


シェフ「水の中で開けて、軽く流水で洗ったくらいですね。今回は敢えて、そこまで匂い抜きもしていません。あと、シュールストレミングは、ジャガイモとかと混ぜると美味しくなります。本来は、アンチョビのようにジャガイモと一緒に食べるものなので」


──とはいえ、調理中の臭さは大丈夫でしたか?


シェフ「まぁ、シュールストレミングの匂いを最初に嗅いだときは大丈夫かと思いましたけど、食べてみるとちゃんとコクと旨味があるので。料理としてはそんなに難しくはないかもですね。あと、調理中が一番臭いので(笑)。そこで匂いが抜けていくのだと思います」


──なるほど。そうだったんですね……。ちなみに、今回出してもらったものの中で、もっとも苦労した料理は何ですか?


シェフ「やっぱりシュールストレミングじゃないですかね(笑)」


──以上である

ご覧のように、シェフの努力があったからこそ、私のようなド素人が「くさうま」なものたちを楽しめたのである。この場を借りて、お礼を言いたい。


・「くさうまレストラン」を体験して

さて、最後に「くさうまレストラン」を体験して気づいたことについて紹介しておこう。イベントを通して、食わず嫌いに気付かされた……だけじゃない。なにより私が感じたのは、「臭い」の多くは幻想だということ。

もっと言うと、「臭い」という感情は先入観と “不慣れさ” から生じるものであって、慣れれば「美味い」しかない気がするのだ。だから、今日食べたものは臭いものじゃない。コクが強いものではあるが、「臭い」とはまた違う

──と確信して、私は取材を終えた。実に気持ちがよかった。何かを乗り越えて、新たな発見をした気がしたからだ。そして、私は部屋を出た。そのまま、エレベーター前にある受付の近くを通ったところ……!



イベントのスタッフが、ファブリーズをスコールのように浴びせてくれたのだった。


参考リンク:くさうまレストラン
Report:和才雄一郎
Photo:RocketNews24.

▼こちらがシュールストレミングのミニハンバーガー

▼中身は一見、普通のハンバーガーだが……

▼わざわざ「世界一臭い」と書かれているあたりに恐怖を感じる

▼食べているときの様子は動画でどうぞ

▼とにかく、完食!

▼シェフのおかげです。ありがとうございました!

▼お〜い! 俺たち、シュールストレミングの食べ方を完全に間違えてたぞ〜!