人間は欲深い生き物だ。行き過ぎた願いと知りながら、胸を震わす衝動を抑えることは難しい。生まれ持った業というものなのだろう。例えば先日、筆者はまぐろの赤身とトロとネギトロを同時に食べたくて仕方がなかった。

そこで調べてみたところ、赤身・トロ・ネギトロの3つを1つの丼に盛り込んだ「まぐろの三色丼」を提供するお店があるらしいとの噂を聞きつけた。なんとも魅力的である。だが……3色? 脳裏に「ある懸念」が芽生えるのを感じつつも、欲望には抗えず現地に向かった。

・「三色」の真の意味

訪れたのは、東京・六本木の「まぐろだけボーノ 白川」という海鮮料理屋だ。店名にある「ボーノ」はイタリア語で「美味しい」の意味。最初に店名を聞いた時は「まぐろだけしか美味しくないのか……?」と思ってしまったが、そうではない。

このお店、なんとまぐろだけを提供する海鮮料理屋なのである。どこにも店名の見当たらない店構えにやや緊張を覚えるが、足を踏み入れると、まぐろに満ちたメニュー表が出迎えてくれる。

メニューは丼物と握りに分かれていて、丼物には「赤身(730円)」、「葱とろ(800円)」、「赤身とろ(950円)」、ならびに前述の「三色(1200円)」があり、握りの方は「赤身(3貫350円)」、「とろ(3貫500円)」の2種類となっている。

一面のまぐろ畑の中から迷わず3色丼を選び、待つこと5分ほどで丼がやってきた。そして実物を目にした瞬間に悟った。自分の抱いていた「懸念」は正しかったのだと。

赤身、トロ、ネギトロ。それらの具材が同一の丼における座標上に位置すると仮定した場合、おのずと導き出される論理的推論──


この「三色丼」……ほぼほぼ1色では……?


懸念は現実の光景となって目の前に現れていた。世間でよく見る「3色料理」と比べて、メチャクチャ色の違いがわかりづらい。正直「グラデーション丼」と言われた方がしっくりくる。中学の美術で習った色相環図、あれのごく一部が映し出されているかのようだ。

だが……そんな繊細な色味を放つ具材たちの美しさと言ったらない。丼のそこかしこに散りばめられたつやめきが食欲を刺激してやまない。

そして誘われるままに口にしてみると、丼の見た目に陰湿なケチをつけていた己の愚かさを悟った。色とかどうでもいいくらい美味しい

適度に脂の乗ったトロは舌の上でゆっくりと溶けていき、濃厚な甘味と旨味を存分に堪能させてくれるし、赤身はそれとは対照的に爽やかな味わいをしていながらも、まぐろ本来の風味にぎゅっと抱かれるような心地を味あわせてくれる。

ネギトロのなめらかな口溶けにも驚かされる。ここまできめ細かで上品なネギトロは初めて食べた。醤油をかけてしまったことを後悔するほどだ。

たとえ3つの具材の見た目が似ていようとも、丼の味が単調などということは決してない。むしろそれぞれの個性という名の「色」にどんどんと引きずり込まれていくようだ。

このお店の「三色丼」には、こちらが思っていた以上の意味合いが込められているのかもしれない。加えてそんな感慨に浸れるのは、お店の丁寧な仕事ぶりがあってのことだろう。

食べ終わった瞬間にまた来たいと思えるお店だ。いやはや、こちらの欲深さもなかなかだが、このお店の罪深さも相当ではなかろうか。

・今回紹介した店舗の情報

店名 まぐろだけボーノ 白川
住所 東京都港区六本木2-3-3
営業時間 11:30~15:00 18:00~売り切れ次第終了
定休日 日曜・祝日

Report:西本大紀
Photo:Rocketnews24.

▼色の違いがわかりづらい「まぐろの三食丼」

▼だがそれぞれの個性が光る、さまざまな美味しさの詰まった丼

▼特にネギトロのきめ細かさが印象深い

▼ちなみに味噌汁もついてくる。これで1200円は満足度が高い

▼プラス100円で酢飯の増量もできる

日本、〒106-0032 東京都港区六本木2丁目3−3