吹き抜ける風がサラサラと涼しくなり始めている今日この頃。誠に秋である。これすなわち、さんまのシーズンだ。脂の乗ったさんまはただ焼くだけでも激ウマ。まさにこの季節の主役と言えるだろう。

ところで、秋以外でもさんまが主役を張っている業界がある。それが缶詰界。「さんま蒲焼」は「さばの味噌煮」と並んで2トップだ。そんな「さんま蒲焼」の中でNo.1はどれなのか? 缶詰の品揃え日本一の酒屋店主に聞いてみた。

・缶詰の品揃え日本一の酒屋

話を伺ったのは、三ノ輪にある酒屋・鈴木酒販の店主である仲川さん。仲川さんは豪語する。「缶詰の品揃えなら負けません。多分日本一缶詰を置いている酒屋だと思う」と。

その言葉通り、店には常時100種類以上にも及ぶ選りすぐりの缶詰が揃えられている。そんな仲川さんに最強のさんま蒲焼缶詰を聞いてみたところ……


仲川さん「千葉産直サービスの『大人の蒲焼』がオススメです。山椒がピリッと効いてて非常にお酒に合うんですよ」


──さんま蒲焼で言うと『ちょうした』も有名ですが


仲川さん「そうですね。安さを考えると『ちょうした』も十分ウマイんですが、『大人の蒲焼』はワンランク上なのでシンプルに味的なオススメとなるとこれは外せないです!」

──とのこと。そこで、さっそく購入して食べてみることに。ちなみに値段は税込み490円だった。缶詰としては少し高い気もするがはたして

・開缶

缶詰を開けてみると、見た目からすでに、これまで食べ比べた「さんま蒲焼」と明らかに違う。私はこれまで、キョクヨー、ニッスイ、マルハ、ちょうしたを食べているが、タレは粘度の違いこそあれトロッと身に絡みつくような感じだった。

だが、『大人の蒲焼』のタレは、サラッとしており染み込んでいると言った方が近い。食べてみると、ジューシーなさんまと蒲焼のハーモニーの中にピリッとした辛みが効いている。こ、これは……


山椒


甘さ控えめの上品な蒲焼味を山椒がピリリと引き締める。まさに大人の味!!

・自然な甘みの理由は?

それにしても、この自然な蒲焼味はどうだ? 缶詰の蒲焼と言えば、どうしても甘みなどに少しわざとらしさが出るものだと思っていたが、『大人の蒲焼』には一切そういった感じがないのである。これは一体……? そこで原材料を確認してみたところ衝撃の事実が判明した

醤油、糖類など、さんま蒲焼缶詰お決まりの材料から、昆布だし、山椒などこだわりの調味料まで書かれている『大人の蒲焼』原材料欄。そこにはどの「さんま蒲焼」缶詰にも大体使われているある材料が載っていなかったのである! その材料とは……

糊料(or グァーガム)!!


これは粘り気を与える食品添加物なのだが、キョクヨー、ニッスイ、ちょうしたなど、さんま蒲焼缶詰には大体入っている。そんな糊料が『大人の蒲焼』の材料名には載っていないのだ。

ちなみに、同じく糊料の使われていないマルハにはコーンスターチが入っておりタレの味に試行錯誤が見られることは以前の記事でお伝えした通り。そこでさらに原材料欄を読み解くと『大人の蒲焼』にも見慣れない材料があるではないか! そこにはこう書かれていた。

「馬鈴薯(ばれいしょ)でん粉」と。馬鈴薯とはじゃがいものことで「馬鈴薯でん粉」は高い粘性を有するという。これが自然な味の秘訣……なのかもしれない

・さんま蒲焼を設計する

近代建築の礎を築いたモダン建築家ミース・ファンデルローエは言った。「神は細部に宿る」と。素材にこだわり、ディテールにこだわった『大人の蒲焼』は、もはやさんま蒲焼缶詰を設計していると言っても過言ではないだろう。まさにモダニズム缶詰ムーブメント

缶詰はただの保存食ではない。そこにはそれぞれの物語が詰まっている。今回もそんな物語を知ることができた。490円は非常に安いと言えるだろう。

Report:缶詰研究家・中澤星児
Photo:Rocketnews24.