「勘弁してくださいよぉ〜。え〜記事にするの? 参ったなぁ……。うちは「来たい」と思った人がすぐに来られる店でありたいんですよね。記事で「美味しい」とか書かれたら有名になっちゃうし……それはちょっとなぁ。

世間には予約が何カ月待ちのお店とかありますが、うちの店はあのような状態にならないようにしたいんですよ……。常連さんが気軽に来られなくなったら困るので……。そうですねぇ、だからまぁ「まずい店」って書いてくれるなら、記事にしてもらっても大丈夫ですよ。ハハハハハ」


──銀座にある某寿司屋の店主から上のように言われたとき、私は正直「負けた」と思った。負けたというのは、「記事にできなくて残念」とか「交渉で負けた」といったような意味ではない。

そんな次元の話ではなく、もっと人間的なところで打ちのめされたように感じた。認めたくはないが……完敗。ただそれは、めちゃくちゃ心地いい敗北感だった。

・お詫び

ここで、読者のみなさんに1つお詫びしなければなるまい。その寿司店の店名や料理の写真について本記事では紹介できないことについて、だ。気になる人は多いかと思うが、上のような経緯があったがゆえに店名等を非公開にすることをご理解いただければ幸いである。マジで申し訳ない。


……


……


「マジで申し訳ない」と言っておきながらこんなことを言うのはなんだが、その寿司は笑っちゃうくらいに美味かった。接客も素晴らしく、それでいて、そこまでバカ高くもない。

銀座の寿司と言えば高級寿司の代名詞のようなものだが、店で会計する時に私が感じた感想は「名物社長がいる有名寿司チェーンとそんなに変わらない」だった。まぁ昼に行ったからというのが大きいとはいえ、味や場所を考えたら明らかに安い。つまるところ、めちゃくちゃ穴場

そんな店をご紹介できないことに心苦しさを感じている……。いや、正直に言おう。心苦しさよりも、「マズい店と書いて欲しい」と言った店主に出会えた嬉しさの方が大きかった。そのために、あのとき行った寿司屋のことが今も私の記憶に焼き付いている。


・忘れられない理由

考えてみてほしい。飲食店にとって、評判はめちゃくちゃ大事である。言うまでもなく、今はネット全盛であり、悪い評判ひとつでお店は潰れかねないからだ。だから当然、飲食店を経営する人は店の評判を気にしているだろう。

しかしながら、評判よりも優先すべきものを持っている人がいるのも事実。グルメサイトの評価ばかり見ていると見落としがちだが、確実にいるのだ。この店主のような人が。そのことに気付かされたから……だけじゃないな。

「自信があるから、評判なんてどうだっていいんだ」と店主に言われた気がしたからであり、逆に言うと「評判を無視して生きるには自信が必要なんだぜ」と教えられた気がしたから、私にとっては忘れられないのかと思う。


──ここまで言ったら、「え? どこの店よ!」とさらに気になる人もいるかと思うが……私が言えるのは「銀座にある寿司屋」だけ。どうしても知りたい人は、銀座の寿司屋をぜんぶ回ってみてはいかがだろうか。100万円くらいあればいけるかな?

執筆:和才雄一郎
Photo:RocketNews24.