国内外で高い人気を誇る『るろうに剣心』から次元の壁を超え、とてつもない物が生み出された。なんと主人公・緋村剣心の愛刀「逆刃刀・真打」が、公式の許可を得て初めて、現代の名刀匠によって正真正銘の日本刀として打たれたのだ。『るろうに剣心』ファンのみならず、刀剣好きも見逃せない逸品だ。

そんな「逆刃刀・真打」は2019年8月1日から『博物館明治村』にて、剣心たちの生きる激動の時代が感じられる貴重な品々とともに展示されている。剣心が抱く「不殺(ころさず)」の信念を印象的に現している逆刃刀。果たして、どのように再現されたのか……!

・これがリアル「逆刃刀・真打」かッ!

愛知県・犬山市にある『博物館明治村』。歴史的建造物をそのまま移築するなどして保存・展示している博物館で、その名の通り明治時代を感じられるのが特徴だ。

そんな明治村では2019年8月1日〜12月15日の期間中、「博物館明治村 × るろうに剣心ー明治村剣客浪漫譚ー」という、剣心たちの生きる明治時代を感じながら、『るろうに剣心』の世界観を楽しめるイベントが開催されている。

このイベントにおける目玉企画の一つ「るろうに剣心特別展 剣心が見た幕末と新時代の到来(800円)」にて、初めて公式から許可を得て日本刀として「逆刃刀・真打」が再現され、展示されているのだ。

本来「るろうに剣心特別展」の展示物は撮影禁止だが、特別に許可をいただき撮影することが出来たので「逆刃刀・真打」の魅力を、余すところなくお伝えしたい。幼少期に剣心のマネをして傘を2本ダメにした筆者、まさか逆刃刀をこの目で拝める日が来るとは!

リアル「逆刃刀・真打」、美しい……ッ! 本来であれば日本刀の刃は反りの外側につけられるが、原作同様、峰側(日本刀の背部)である反りの内側に刃がつけられている。これは日本刀としては前代未聞なのだ。しかし鑑賞しても、その美しさのせいか不思議と違和感を覚えない。

剣は凶器、とは思えなくなるほど綺麗な姿。しかし、もちろん美しいだけではない。緩やかな反りのついた、幅広い刀身からは力強さも感じる。原作では場面によって反りが異なって描かれているが、それらを参考に名刀匠が考えに考え、この反りにしたそう。

刃文も同じく場面によって描かれ方が異なったため、それらの印象を合わせて大小に波打つような互の目(ぐのめ)刃を描いたという。穏やかなようで変化に富んだその刃は、原作の逆刃刀に合っているだけでなく、主人公・剣心をも表しているかのよう。

刃についた沸(にえ:キラキラ輝く、光る粒のようなもの)もとても綺麗。

肌(地鉄の模様)は、板の模様に似た柾目(まさめ)混じりの杢目(もくめ)肌。潤っているように見える肌は、いつまでも眺めていられる美しさ。

史上初の「逆刃刀・真打」を打ったのは、現代の名刀匠・尾川兼國氏。「無監査」という、日本美術刀剣保存協会主催の刀剣コンクール「現代刀職展」において特賞を複数回受賞し、受賞審査を必要としない資格を持つ、いわば別格の刀匠だ。刃物の町・岐阜県関市において重要無形文化財保持者でもある、凄いお方。

そんな兼國氏でも、前代未聞の逆刃刀を作刀するにあたり難しかった点があったかを伺うと、


「切っ先。特に帽子だね。あと切っ先の鎬(しのぎ)も、普通の日本刀のようにつけたらダメだった」


と即答。切っ先の刃文・帽子の描き方と、刃と峰の間にある盛り上がった部分・鎬の付け方に悩まされたそう。苦悩の結果、多くの日本刀と異なり浅めに描いたという帽子からは、逆刃刀が持つ強さを感じる。

鎬が切っ先まである刀は珍しい。しかし「逆刃刀・真打」では通常の日本刀のように鎬をつけると違和感が生じたため、原作を確認しつつ、あえて切っ先まで鎬を作ったという。原作の「逆刃刀・真打」を確認したところ、描き方がまちまちなものの、切っ先まで鎬をつけて描かれている場面がいくつかあった。気になる方は是非確認して欲しい。

しかし、逆刃刀に悩まされたのは刀匠だけではないという。兼國氏いわく、


「ハバキも鞘も普段と逆に刃がついてるから、皆おさめるのに苦労していた。でも、一番大変そうだったのは研ぎ師!」


刃が本来とは逆につけられていることで、ハバキという刀身の手元部分にはめる金具を作る職人・白銀師さん、刀身の美しさを引き出す研ぎ師さんに、刀を保存するための白鞘を作る鞘師さんまで、関わる職人さんを軒並み苦悩させたそう。

特に研ぎ師さんは、刃が反りの内側についていることで研ぐ際の滑りが悪くなったようで、「研ぎを3回もやり直していた!」とのこと。それでも逆刃刀の輝く刃文や肌を際立たせた研ぎ師さん、ご苦労がうかがえる……!

ところで、兼國氏は『るろうに剣心』を読んだことがなかったそう。架空の刀を再現するのも初めてとのことだったので、なぜ逆刃刀の再現依頼を受けたのかお尋ねしたところ、


「作刀の依頼が来たから。来たからには受けるし、受けたら『できない、やれない』なんて言えない」


格好いい……! そんな職人さんたちの試行錯誤の上に再現された「逆刃刀・真打」。原作ファンのみならず、刀剣が好きな方々にも是非、じっくりと鑑賞していただきたい。その凄さがきっと、伝わってくるはずだ。

ちなみに逆刃刀の厚みを確認してみると、かなりしっかりとしていた。実際にリアル逆刃刀を手に取った経験のある明治村職員さんいわく、思っているより重量感があったそう。そんな重い逆刃刀を振るい、「不殺(ころさず)」の誓いを守り続ける剣心の剣の腕、やはり尋常ではない……。

切っ先が向く方から鑑賞してみると、展示ケース内におさめられているのに、思わずぞくりとしてしまう迫力。美しい、と思いながら鑑賞してきたが、やはり剣は凶器というのも真実なのだと実感する。

原作では、作中の刀匠・新井赤空によって打たれた「逆刃刀・真打」。その茎(なかご:柄に収められる持ち手の部分)には、赤空が平和な世を祈った辞世の句が刻まれているのだが、再現された「逆刃刀・真打」にもしっかりと、赤空の辞世の句が刻まれている。

赤空の孫の世をいく年も超えた現代。現代を生きる我々は、平和な時代を創る人になっていけるだろうか。逆刃刀を眺めながら、平和な世界に思いをはせた。


・『るろうに剣心』の世界を感じられる展示

「るろうに剣心特別展」の見どころは逆刃刀だけではない。『るろうに剣心』作中の時系列を追いながら、その頃の実際の日本を表すような歴史的資料が展示されているのだ。

剣心たちが生きる江戸幕末期から明治初期は、『るろうに剣心』の作中でも、そして現実でも激動の時代だ。『るろうに剣心』の世界を、そして日本の歴史を実感出来る品々は、絶対に見逃せない。剣心たちが生きる世界をよりリアルに感じることが出来るだろう。

明治村にある建造物にも関連する展示の他、『るろうに剣心』にも登場する実在の人物たちに関連する品々も展示されている。大久保利通直筆の色紙が展示されていたり。

斎藤一の愛刀とかたられることが多い「関孫六」の刀も展示されていた。

関孫六も含めた美濃(現在の岐阜県)の刀に多い、三本杉の刃文がはっきりと出ている刀だ。

「逆刃刀・真打」と見比べるのもオススメだ。切っ先の違いも分かりやすい!

この特別展の他にも、「博物館明治村 × るろうに剣心ー明治村剣客浪漫譚ー」にはまだまだ『るろうに剣心』の世界が楽しめる企画がたくさんある。剣心を探す物語を楽しめるスタンプラリーや、飛天御剣流奥義「天翔龍閃」にチャレンジ出来る企画も。明治村のスタッフさんにお手本を見せてもらった。

「天翔龍閃」を会得しようと練習した方も多いのではないだろうか。練習の成果を発揮するチャンスだ。この企画では居合抜きの速度を計測し、ランキング形式で表示される。神速を超える超神速の抜刀術を会得している方々の戦いが見られることだろう。

計測された居合抜きの速度から、己のの速さを知り、満足するか、さらなる高みを目指すか。

ちなみに、「天翔龍閃」チャレンジが出来る道場は、明治ではなく大正時代の建造物だが、実際に使われていた武術道場だ。

イベント期間中、道場の一部が神谷道場風に模様替えされている。

しっかりと名札も下げられているのだが、薫殿がまだ師範代だったころの仕様……! 細かいところだが、気づくと嬉しい。

イベント期間の中頃、9月11日からは新たなスタンプラリーが始まるほか、明治村内にある牛鍋屋「大井牛肉店」が作中に登場する牛鍋屋「赤べこ」に模様替えされるようだ。明治時代に牛鍋屋として実際に使われていた建造物で、「赤べこ」を感じながら牛鍋が食べられるとは。妙さんや燕ちゃん、弥彦がいないか、思わず探してしまいそう。

上記の他にも、まだ秘められた企画があるという。イベント最終日の12月15日まで、明治村から目が離せない。遠方住まいながら、イベント期間中何度でも入村出来るよう、『るろうに剣心』仕様の「明治村住民登録(2500円)」をするべきか悩んでしまう。

・今回訪問した施設の情報

施設名 博物館明治村
住所 愛知県犬山市字内山1番地
営業時間・定休日 時期・日によって異なる(来村の前に公式サイトで確認することをオススメする)

参考リンク:博物館明治村 × るろうに剣心ー明治村剣客浪漫譚ー
Report:伊達彩香
Photo:RocketNews24.
©和月伸宏/集英社

▼8月からは日によって21時まで開村され「宵の明治村」が楽しめる。その日は「るろうに剣心特別展」も20時までじっくり堪能出来るようだ。

▼剣心が子どもの頃と同時期の東京・お台場。

▼絵の中に描かれた「第二台場」へ後に建てられた燈台は現在、現存最古の洋式燈台として明治村に移設され、保存・展示されている。(重要文化財・品川燈台)

▼新撰組の袖章

▼錦の御旗。朝廷側の軍、官軍であることの証。対する者は自分が賊軍であると痛感し、この旗を見ただけで戦意喪失してしまう者もいたほど。

▼当時の銃や砲台。その威力を目の当たりにした者たちの驚きと絶望は計り知れない。

▼後ろから弾を込め、連発出来るようになったスペンサー銃。技術もどんどん進歩していく。

▼大久保利通が辿る悲劇と、成し遂げたかったことが伝わる展示も。是非しっかりと見て欲しい。

▼岩倉使節団からの海外土産、大久保家で愛用されてきたベンチ。木製部分は修繕されているが、金属部分は今も健在。凄い。

▼ドラマ撮影などでも使われる帝国ホテル中央玄関の2階には喫茶室が。明るく親切な店員さんと美味しいドリンクやケーキに癒されながら涼める。

▼夏の明治村に入村する場合は、水分補給をお忘れなく!

▼筆者はまだまだ「天翔龍閃」を会得出来そうになかった。