定義のよくわからない料理のひとつに「シェフの気まぐれサラダ」がある。中身がわからない、味もわからない。しかしレストランではよく目にするメニューのひとつだ。

さて、この気まぐれサラダについて、気になることがある。シェフはどのくらいの気まぐれ加減でサラダを作っているのか? その答えを見つけるために、飲食店関係者に話を聞いたところ、驚くべき事実がわかった。シェフの気まぐれサラダには、意外すぎる秘密があった……。

・Aシェフの証言

話を聞いたのは、私の知人男性だ。都内の飲食店で長年働いている彼は、今まで大小さまざまなお店で厨房に立っており、飲食業界に精通している。そんな彼にストレートに疑問をぶつけてみた。

なお、本稿の内容をわかり易くするために、彼のことを「Aシェフ」と表記したいと思う。


・サラダは常にメニューにある

佐藤 「Aシェフ、前々から疑問だったんですけど、「シェフの気まぐれサラダ」って、どうやって内容を決めているんですか?」

Aシェフ 「当たり前のことですけど、提供できるメニューはその日の仕入れ状況や在庫状況によって、変わってきますよね」

佐藤 「そうですね」

Aシェフ 「ほとんどの料理が、日によって出せる出せないが変わります。ところが気まぐれサラダは、常にメニューに表記されています」

佐藤 「気まぐれサラダが出せないってことはないでしょうね。余程野菜が高騰しない限りは」

Aシェフ 「そうなんです、サラダが出せないってことはあまりあることじゃないですね」


・気まぐれサラダは在庫処分じゃないのか?

佐藤 「じゃあ、やっぱり毎日気まぐれサラダのことを考えている訳ですね」

Aシェフ 「まあ、考えていますけど……」

佐藤 「あれって、在庫処分じゃないですか? 『気まぐれ』と言いつつ、実はあまった野菜をまとめてサラダにして出しているんでしょ?」

Aシェフ 「それは違います」

佐藤 「では、実際はどうなんですか?」

Aシェフ 「野菜は保存状態にもよりますけど、それなりに時間が経つと、色が悪くなりますよね」

佐藤 「はい」

Aシェフ 「ということは、できるだけ早く使いたい。逆にいえば新鮮なものを出したいんですよ。だから、余ったからサラダにして出すというのは、ちょっと考えられませんね」


・気まぐれではないのか?

Aシェフ 「ですから僕の場合は、気まぐれとはいっても、サラダの内容は基本的に統一しています。使用する食材の数だけ統一して、あとは季節のものを決まったように出しています」

佐藤 「え!? サラダの内容はほぼ固定ですか?」

Aシェフ 「まあ、そういうことになりますかね」

佐藤 「ということは、つまり……」


すでにお気づきだと思うが、気まぐれサラダはまったく気まぐれではない! ということは、この名前自体に問題がありそうだ。もしもふさわしい名前に変えるとすれば、こうなるだろう。


「シェフの計画的サラダ」


野菜の管理に対して、細心の注意を払っているのであれば……


「シェフの用意周到サラダ」


「気まぐれ」に近い言葉を選ぶとしたら……


「シェフの気を抜かないサラダ」


お店にもよると思うが、気まぐれと言いながら、実際は気まぐれではない可能性が高い。だからといってただ「サラダ」とメニューに表記しても味気ないので、「気まぐれ」という言葉がくっついたのかもしれない。できることなら今後は、ちゃんとシェフが考えて提供しているので、「気を抜かないサラダ」という名前が定着してくれることを願ってやまない

Report:佐藤英典
Photo・イラスト:Rocketnews24