改めて、日本語とは複雑な言語であると思う。一人称だけでもそのバリエーションは様々だ。英語では「I」一言で済むのに、日本語だと私、僕、俺、自分、儂、ウチ、吾輩、小生……書き出すとキリがない。当たり前のように話しているが、日本語の持つ情報量のなんと膨大なことか。

しかし、人と会話していて、何と言ったらいいのか迷う瞬間がある。あくまで私(あひるねこ)個人の感覚ではあるが、そういう状況に陥るのはおそらく “その時” だけだ。そう、日本語には「可愛い」と推測する際に用いる言葉がないのである。どういうことか、以下で具体的に説明しよう。

・推測で使う「~そう」

例えば誰かとの会話の中で、相手が最近見て面白かった映画の話をしたとする。相手はその映画の話を熱心にし、あなたもその映画の非常に興味を持った。その時あなたはきっとこう言うだろう。「それ面白そう!」

あなたは面白いであろうことを想像し、「面白い」と、それを推測する意味での「~そう」を組み合わせた「面白そう」という言葉を使ったはずだ。この「~そう」は、私の知る限りほとんどの形容詞で使えるように思う。高そう、ヤバそう、おいしそう、楽しそう、面倒くさそう、など。

・「~そう」が使えない言葉

しかし、この組み合わせを使ってしまうと、意味が変わってしまう言葉が存在する。それは「可愛い」である。使用する機会は少なくないのに、「可愛い」を「~そう」とは言えず、何と言えばいいのか迷ってしまうのだ。

いま、相手が近所で見かけた猫の話をしているとしよう。その猫は人懐っこく、足にすり寄って来たそうだ。猫好きのあなたとしてはたまらないはず。そしてこう口に出してしまう。「わ~、かわいそう」と。

いや待て。そう言ってしまうと「可愛そう」ではなく「可哀想」になってしまい、意味が変わってくるではないか。そのシーンで「かわいそう」と言った場合、猫が可哀想みたいなニュアンスが生まれてしまい、急に相手に失礼になってしまう。しかし、では何と言えばいいのか?

・違う言い回しで逃げる

私はこの「可愛い」の推測系を言いたい時、他の言葉にはない猛烈な違和感を覚えてしまう。たしかに、言い回しを変えれば同様の意味を相手に伝えることは可能だ。「わ~、それは可愛いだろうね」という具合に。

他にも「可愛げだね」「可愛いに決まってる」「絶対可愛い! 絶対可愛いやつ!!」「非常に可愛いと思われる」「それは誠に可愛かろうな」と、途中からヤバイやつになってはいるが、言おうと思えばいくらでも言える。

だが、膨大な情報量を持つはずの日本語の中に、「可愛い」の推測系が確実にない。という事実こそが、私にこの違和感を与えているのだろう。「可愛い」なんて日本語の中でも超メジャー選手なのにな。言葉ってのは、面白いと同時に本当に難しいものである。

執筆:あひるねこ
Photo:RocketNews24.