2017年6月25日に東京・秋葉原のUDXで上映が決定している、コマ撮りアニメーションによる映画作品『JUNK HEAD』。この作品は、クリエイターの堀貴秀氏が手掛けたもので、ベースとなっている作品(JUNK HEAD1)は彼が4年間、ほぼひとりで制作にあたったそうだ。

世界最大級の短編映画の祭典でベストアニメーションを受賞した『JUNK HEAD1』は、堀氏の処女作でもある。4年もの長きにわたってほぼ1人で、なおかつ独学でコマ撮りアニメを学んだという彼。一体その原動力はどこからくるのか? そしてどのように映像を制作しているのか? その真実を探るために、彼のスタジオにお邪魔してお話を聞いた。

・九十九里のスタジオ

堀氏のスタジオ「YAMIKEN(ヤミケン)」は、千葉県の九十九里にある。元々内装業に従事していた彼は、古びた倉庫を改装して、映像制作に適した環境を自ら整えたそうだ。建物周辺には、ガラクタのように見える品々がそこら中に置かれている。おそらくこれらの廃材を組み合わせて、セットに用いたり、キャラクターの小道具などに生かしているのだろう。制作のための道具類も、数えきれないほど置かれている。

・CGでは出すことのできない存在感

道具や廃材に紛れて、作品に登場するセットやフィギュアも目につくところにある。

作中で見た怪しげな機械類は、すべてがCGなどではなく、1つひとつ堀氏とスタッフの手によって作り出されている。まるで50年以上も使い古された機械であるかのように、錆や汚れが付着している。CGでは決して出すことのできない存在感を放っているようだ。

・ほとんどが独学

これらの技術を堀氏は誰からも教わることなく、自らの経験と独学で習得したというから、本当に驚かされる。

 「内装業者として働いていた時に、「エイジング」について学びました。エイジングっていうのは、真新しいお店なのに古びた感じに見せる内装の演出ですね。大きいところだと、ディズニーシーの建設にも携わっていました。元々絵や造形を趣味でやっていたので、それらの経験と知識を生かして、作品づくりを始めたんですよ。

パソコンを使って映像作品を作る知識は全然なかったので、専門書をかたっぱしから読みあさって、わからないことは知人のクリエイターに手ほどきを受けて、ほとんど全部独学で習得しました」

・フィギュア1体作るのにも大変な手間

専門学校や専門スタジオで修業を重ねた訳ではなく、自ら学習しその技術を習得したとは。いくら内装業の経験があるとはいえ、分野が違うと思うのだが。仮にセットはそれで出来たとしても、フィギュアに同じ技術は通用しない。スタジオの公式ブログを見ると、フィギュアを作る工程が詳細に紹介されている。

制作はまず下絵を元にしてアーマチュア(骨格)を作り、それに「NSP」という固い粘土で原形を作る。

次に原型を石膏で固めて「型」を作り、その中に粘土を取り外したアーマチュアを置く。

泡立てたフォームラテックスという液体状のゴムを流し込んで、専用オーブンで4時間加熱して、自由にポーズを決められるフィギュアを作り上げるのだ。これに着色をしたり衣装を着させて、ようやく撮影に臨める。フィギュア1体に対して途方もない時間と労力がかかっている。

・再現不能のイメージ

制作期間は、朝7時から夜23時までぶっ通しで映像制作をし続けるという。寝ている時間以外は、1日のほぼすべての時間を使っているといっても良いだろう。作品づくりに対して、並々ならぬ情熱を傾ける掘氏は、一体どんな作品に影響を受けたのだろうか? そして何をモチベーションにして、手間と時間のかかる制作作業を続けているのだろうか?

 「一番影響を受けた映画は旧ソ連の『不思議惑星キン・ザ・ザ』ですね。他に『エイリアン』や『ヘルレイザー』や弐瓶勉氏の『BLAME!』といった作品にも影響を受けています。

制作に取り組んでいる時には、すべての映像が頭のなかに完ぺきにあるんですよ。それを手本にして、形にしていくだけですね。でも、頭のなかの映像って、現実的な制限とかが一切ない訳ですよ、イメージだから。そのイメージに現実(コマ撮りアニメ)を近づけたい一心でやってます。

でも実際は、イメージは再現不能。物理的に困難なことだってあるだろうし。極端に言えば、作品をつくることはある意味妥協ですよね。どうやって現実と折り合いをつけるのか、それにかかってます」

・膨大な撮影データ

妥協と言いながら、4年間を費やして30分の作品をほぼひとりで作り上げている。その労力は「妥協」という言葉では片づけられないと思う。30分のコマ撮り作品を作り上げるためには、おおむね4万3200カットもコマ撮りを積み重ねていかなければならない。

フィギュアの一挙手一投足を1コマずつカメラに収め、背景の映像と重ね合わせていく。

膨大なデータ量を選別してシーンごとに並べて、それらを1つひとつ編集していく。想像しただけで、頭がパンクしてしまいそうになる。ちなみに堀氏が4年の歳月をかけた『JUNK HEAD1』は、内装業で働きながら作り上げたという。いつ睡眠時間をとっていたのか? 食事の時間さえも惜しんだに違いない。

 「秋葉原UDXで6月25日に行われる上映会が直近の目標ですよね。今後は続編制作の契約をとりつけて『JUNK HEAD』の制作を続けて行きたいです。いずれは、海外で有名なストップモーションの制作会社と肩を並べられるようにしたいと思っています。会社が大きくなれば、今一緒にがんばってくれているスタッフにも、還元して行けると思うので、今はとにかくクオリティの高い作品をつくり続けていくことだけです」

・作りたいものを作る

スタジオの屋号「YAMIKEN(ヤミケン)」とは、企業の開発者が作りたいものを作る『闇の研究会』が由来なのだとか。堀氏はこれからも知識や技術の有無を問わず、映画のセオリーや常識にとらわれることなく、ただひたむきに作りたいものを作り続けるだろう。

取材協力:YAMIKEN
参照元:JUNK HEAD
Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24

▼セットは驚くほど精巧に作り上げられている

▼ただ古めかしく作られているだけでなく、そこにはリアリティがある

▼比較のためにiPhoneSEを置いてみた。サイズ感を理解できると思う。セットの存在感に比べると、iPhoneの方がニセモノのように感じてしまう

▼壁一面にもセット

▼一見無造作に積み上げられているように見えるが、ここにも『JUNK HEAD』の世界を感じる