shuetsu1

皆さんは、「修悦体」という書体をご存じだろうか? 佐藤修悦さんというガードマンの方が、ガムテープを使って作り出した書体である。佐藤さんは、2005~2007年頃にかけてテレビや新聞などで話題となり、ネットでも注目を集めた人物だ。一時期JR新宿駅で、この修悦体を使ってガムテープで書かれた案内表示をしょっちゅう目にした。

あれから約10年を経て、新宿駅の様子も様変わりし、ガムテープの案内表示も見かけなくなっていたのだが……。ここ最近、再び新宿駅のアチコチで「左側通行」の文字を見かける。これはもしや! 佐藤さんが再び活躍しているのではないか? そう思い、私(佐藤)はその真相を確かめた。

・約10年前の記事

私が最初に修悦体の存在を知ったのは、ネットメディア「デイリーポータルZ」の記事だった。記憶が定かではないのだが、たしかライターの大塚幸代さんが執筆した記事だったと思う。ガムテープで文字を書く。その文字のデザインがとても素晴らしいと思ったと同時に、人知れず活躍する佐藤さんを突き止める、そのライター魂に感銘を受けた覚えがある。

・佐藤修悦さんはどこに?

あれから10年。佐藤さんは今どうしているのだろうか? 一時は書籍を出したり、吉永小百合さん主演の映画『まぼろしの邪馬台国』の題字に修悦体が採用されるなど、大活躍をしていた。もしや、今新宿駅にある「左側通行」は、佐藤さんのお弟子さんが書いているのか? いろいろ妄想は尽きないのだが、とにかく本人に聞いてみるしかない。そこで、佐藤さんが当時在籍していた警備会社に連絡してみた。

shuetsu12

・今も同じ警備会社に

警備会社に連絡し、「佐藤修悦さんという方が勤めていらっしゃったと思うんですけど、今でもいらっしゃいますか?」、そう尋ねると、受付の女性は「ああ~、はい今でもいらっしゃいますよ」と答えてくれた。いた! しかも、ずっと新宿駅に通ってお勤めになっているという。ああ! あの文字はやっぱり佐藤さんだったんだ。何だか、古い友人の所在がわかったような気がして、とてもうれしくなった!

shuetsu3

・なぜガムテープで文字を書くことになったのか

私の連絡先を伝えると、後日直々に佐藤さんから電話があった。そして、さらに数日後に会うことになったのである。

shuetsu9

そもそも「なぜガムテープで案内表示をするようになったのか?」、きっと大活躍していた当時繰り返し尋ねられたことに違いないだろう。しかし佐藤さんは気さくに私の質問に答えてくれた。

修悦さん 「僕が今の仕事(駅の警備)に就いて、13~4年経つんですよ。新宿駅に最初に行ったのが、2002年くらいかな。最初の勤務が新宿駅でね、構内が工事中で利用客をメガホンで誘導してたんですよね。ものすごい数の人が行き来してるでしょ。それを声だけで誘導するのは大変なんですよ。まあ、ほとんどの人に声が届かないじゃないですか。それで、目立つ案内表示を作ろうと思ったんです」

shuetsu2

工事現場なので、当然現場監督というのがいる。本来であれば、駅の利用客の安全に配慮して、案内表示を充実させるのは監督の仕事のはず。しかし監督は忙しすぎて、そこまで手が回らなかったそうだ。また、駅で迷う人を案内した時に、こんなことがあったそうだ。

修悦さん 「当時、乗り場がわからずに迷われている人に、『あちらですよ』なんて教えてあげたんだけど、あとからその人が戻ってきて、『乗り遅れたじゃないか!』と怒られたことがあるんですよ。それで乗り場がわかる案内板を作って、背負ってたら、イチイチ声をかけずに済むし、怒られることもなくなったんですよ(笑)」

shuetsu4

・新宿駅で再び

何より佐藤さんが気にしているのは、駅の利用客の安全だ。とくに多くの人が行き交う駅で、長期間にわたって工事が行われていると、利用客は常に危険に接していることになる。

修悦さん 「3年くらい前に新宿駅の現場に戻ってきたんですよね。今大きい工事をしていて、ホームへの階段とか狭くなってます。ガードマンがいるときは安全を守れるかもしれないけど、いないときの安全を考えたら、やっぱり目立つ案内表示があった方がいいと思って、ここ1~2カ月くらいで『左側通行』とか『階段』とか『足元注意』とか、作るようになったんですよ」

shuetsu8

書く文字にもよるが、作るのには結構な手間がかかる。それにもかかわらず、アチコチに掲出されているところを見ると、佐藤さんは相当時間と手間を割いているはずだ。それも1人で。誰かに頼まれている訳ではない。

修悦さん 「自分でも思うんですよ。『頼まれてもいないのに』って。でも、頼まれてもいないのに作るのは、お客さん(利用客)目線で安全を考えたら、やっぱり必要なんですよ。あった方が便利だし、高齢者にはとくに必要だと思っている」

たしかにガムテープの案内表示があるのとないのとでは、全然違うだろう。何気なく目にするだけで、声や音では伝わらないことが瞬時に伝わっている。知らず知らずに利用客は、佐藤さんのガムテープによって安全に誘導されているのだ。

・どうやって書いているのか?

それにしても、とてもわかり易いガムテープ文字。一体どうやって描かれているのだろうか? 佐藤さんの説明によると、まず隙間なくガムテープを貼り、その上からカッターで文字を切り出すとのこと。

shuetsu10

たとえば、“夢” という文字であれば、縦横に等間隔でガムテープを貼り、不必要な部分を切り出して、文字を形作る。

shuetsu11

何となくイメージは湧くのだが、実物を見てみないとわからない。ということで、次回佐藤さんに修悦体を作る様子を実演して頂くことになった。あの美しくわかり易い文字は、どうやって生まれるのか? その実態に迫るぞ!

★続編【動画あり】実演! 佐藤修悦さんが書くガムテープ文字 / 親しみあふれる文字はこうして作られる!!

Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24
[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]

▼現在(2016年9月9日)、JR新宿駅構内のアチコチに佐藤修悦さんのガムテープによる案内表示が掲出されている
shuetsu1

▼10年前に同じ場所に、「中央東口」「東口」の文字が掲出されていたそうだ。この文字は、新しく作り直したものなのだそう
shuetsu9

▼ガムテープで描かれた「三角コーン」も佐藤さんによるもの
shuetsu5

▼実はこの三画コーン、列車の色に合わせている。総武線は黄色
shuetsu7

▼中央本線は紺色
shuetsu6

▼中央線はオレンジ。山手線は緑色。新宿駅に行ったら、チェックしてみよう
shuetsu8

[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]