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……会社辞めたい。社会人の皆さんならそう思ったことが一度や二度、いや100回とか1000回くらいはあるだろう。「3年はいた方がいいっていうし」「次の仕事が見つかるかわからない」などなど、退職を思いとどまる理由はいくらでもある。そして、気がつけば何年も働いている。

「やだなぁ」と思っても続けることが幸せかもしれないし、もしかしたら辞めることが “正しい選択” になるかもしれない。先が見えないから転職は怖いものだが、ある人物から聞いた、退職のタイミングを見極めた方法が、心にグサっと刺さる内容だったので紹介したい。

・俺が会社を辞めた理由

ということで、話を聞かせてくれたのは亀山クリスタルさん(仮名)だ。クリスタルさんは日本人なら誰でも、そして台湾人も知っている某大手メーカーに在籍していたのだが、いつの間にか退職を決意。その経緯を聞いてみた。

──ときに、クリスタルさんはあのときなんで会社を辞めたんですか? 誰でも入れる会社じゃないのに大胆だなぁと思ったのですが。

クリスタル「そうですね、私の職場は非常に忙しいところでした。残業、土日勤務は当たり前。『月月火火水木金』という忘れなければならない歴史の歪みと繋がっている環境でした。

同僚には恵まれましたが、上司や先輩は管理職の顔色にしか性欲がわかないような奴だらけ。加えて、住居も社宅で職場から息を止めて行けるくらいの距離。プライベートも何もあったもんじゃないフロントラインだったんです」

──プライベートなしですか! まるで寝てる時間以外、ずっと仕事みたい……。

クリスタル「ええ。日々の仕事に疲れ果てながらも、『これが社会人なのだ』とか『石の上にも3年だ』などと思いながら、踏ん張っておりました。当時は仕事をするということが、そのようなことだと思っていたのです。

しかし、久しぶりに休みが取れた日に、転機が訪れました」

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──何があったんでしょう?

クリスタルやりたいことリストを作ってみたんです。私のやりたいことは、趣味の映画鑑賞、読書、海外旅行、そして実家に帰省。

ウンウンと、これまでの仕事のスケジュールを眺めながら計画を練っていると、 あることに気が付きました。

定年退職までに映画館に行く回数、読むことができる小説の数、死ぬまでに海外に行ける回数、 そして両親とあと何日会えるのかについて、シミュレーション可能なことを!」

──えっ!? 死ぬまでって何十年も先じゃないですか! どうやってシミュレーションしたんですか?

クリスタル「まず自分の休みの状況を整理しました。私の場合、土日は出勤があるかもしれないので、事前に予定が立てられません。

ゴールデンウィークも結局仕事が入るので長期の休みを取ることができない。連続的に休みを取れそうなのは盆と正月。ただし、無慈悲な社内資格の勉強会や試験があることを考慮する必要がある」

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──ほうほう。

クリスタル「すると、計算結果は以下のとおりでした。

・定年退職までに映画館へ行ける回数:50回
(住居が映画館から離れていたので、行き帰りの時間も考えると1回の映画鑑賞には半日かかると判断)

・定年退職までに読むことができる小説の数:60冊
(上司から自己啓発本を読み、その感想を提出することを義務付けられていたので小説に手が回らない)

・死ぬまでに海外に行ける回数:10回
(日数をまたぐ休暇を例年取ることは不可能と、これまでのスケジュールから判断。また、定年退職後に自分が思い描くような一人旅は難しそうだと判断したため)

・両親が死ぬまでにあと何日会えるのか:20日
(平均寿命に合わせて、1年に帰省可能な日数を掛け合わせた)」

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──えーっ! この先、両親にたった20日間しか会えないなんて切なすぎます!! 1カ月もない!!

クリスタル「もちろん、計算によって大きく数が変わるのはわかっています。 時間を効率的に使うことで、これらの日数を伸ばすことも可能でしょう。また、何かを削れば、何かを増やすこともできます。でも人生ってそういうもんじゃないと思うんですよね。

とにかく、この日数を見ると、仕事を辞めることで『老後が心配』とか『人の目が気になる』とか『良い暮らしができない』なんて不安はなくなりました」

クリスタル「そこで速攻で退職する体制を構築し、実行しました。結果として、算出した日数は退職した年に全て達成しています」

──1年以内で、在職していたらの一生分ですか~!

クリスタル「職場で学んだことはとても大きかったけれど、私にとってはそれ以上に自分や家族のために時間を割くことの方がプライオリティが高かったんです。ちなみに、その後、転職もなんだか運良く上手く行き、いまは退職前にくらべて大変ロハスに生きております」

──転職もうまくいったんですね! よかったです!!

クリスタル「ありがとうございます。これはあくまで私の所属していた当時の部署の話で、私個人の経験です。人それぞれなので、なんとも言い難いのですが、ただ『楽な仕事なんて無い』という言葉は確実に多くの人間を病気や死に追いやっているように思います。

『今より楽な仕事』はあるように思います。『石の上にも3年』は石の素材によると思います」

──確かに、「仕事はしんどくて当たり前」って思って頑張りすぎちゃうことってありますよね……。

クリスタル「じゃあ労働条件の交渉で何とかするか? リアルな地獄では鬼と交渉するなど無理なのです。私がもしそんなことをしたら、タッチパネルつき液晶と無線LANがついたハイスペック棍棒で椎間板をぶち壊されていたと思います」

──わかります……私の友人にも労働組合を作ろうとして、経営陣ににらまれエライ目にあった人がいます。

クリスタル「正面から戦うには相当のリスクがありますよね。まずは、追い込まれる前に一度やりたいことに必要な日数を計算してみると、良いかもしれませんよ」

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・自分にとって大事なことは?

クリスタルさんの場合、いくつかある “やりたいこと” のなかで、とくに退職のトリガーとなったのは「両親に会える日数」だったそう。クリスタルさんにとっては、それがブイブイいわせていた大手企業で働くことよりも重要だったということだ。

詳しく聞くと、紆余曲折あって身分が安定しなかったり、収入が爆下がりした時期もあったというが、後悔はないという。

なんとなーく「嫌だから辞めたい」で辞めては、のちに何かあったときに後悔するかもしれない。辞めるなら転職の原動力になるような理由を。続けるなら、なんとなく辞めたいという気持ちから解放された方が、きっとうまくいくはず。自分にとって何が大切なのかを客観的に見つめることが重要なのだろう。

執筆:沢井メグ
協力:亀山クリスタル(仮名)
Photo:Rocketnews24.