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2015年1月7日にフランス、パリで起こった週刊誌「シャルリー・エブド」襲撃事件。12人が死亡したこの事件を、オランド仏大統領は「テロ」だと断定した。

世界中で多くの人々が犠牲者への哀悼の意を表し、悲しみに暮れる一方で、この事件以降フランスではイスラム教徒への襲撃が急増しているという。そこで今回は、風刺画家カルロス・ラトゥッフさんの作品を通して、フランスで起こりつつあることを見ていきたいと思う。

・襲撃事件のもう片方の犠牲者

イスラム教は、預言者ムハンマドの肖像画を描くことをタブーとしている。「シャルリー・エブド」が、これまでに何度もムハンマドの風刺画を掲載していることから、この事件はイスラム過激派の報復行為だとも考えられている。そして世界各地では、犠牲者を悼み、「表現の自由」を叫ぶ集会やデモが行われてきた。

しかし同時にフランスでは、イスラム教の人々に怒りの矛先が向けられている。海外メディア「The Independent」によれば、モスクに爆発物や豚の頭が投げ込まれたり、イスラム教徒への暴行・脅迫などが、事件以降フランス全土で60件以上も起こっているというのだ。

・「シャルリー・エブド」を襲撃した弾がモスクに

そんな事態を風刺画で表現しているのが、ブラジル人風刺画家ラトゥッフさんだ。例えば、「シャルリー・エブド」襲撃事件が、イスラム教徒の人々も傷つけたことが分かる絵がある。

「シャルリー・エブド」の建物に向かって銃を乱射する、2人の容疑者。建物の中からは、犠牲者の血が流れ出ている……。そして、容疑者の撃った弾は、建物を貫通して、その向こう側にあるモスクを壊しているのだった。

・フランスで広がる反イスラム感情

もう1枚は、青・白・赤のフランス国旗を背景に立つ、3人のイスラム教徒の姿が描かれたもの。どうやらお父さん、お母さん、子供のようで、お父さんは「シャルリー・エブド」を開き、お母さんと子どもは手をつないでいる。見るからに善良そうな一家だ。

しかし「イスラム嫌悪」あるいは「反イスラム派」と書かれた “大きな拳” が、その家族を上から叩き潰そうとしているのである……。イスラム教徒の人々が、無差別な暴力にさらされていることが伝わってくる作品だ。しかも「反イスラム」の動きは、他の国にも急速に広がっている。

・「シャルリー・エブド」が最新号のムハンマド像に込めた想いとは

さて、1月14日発売の最新号に、「シャルリー・エブド」は涙を流すムハンマドの風刺画を掲載した。 “火に油を注ぐ” あるいは “テロに屈していない” など様々に評されているが、「シャルリー・エブド」の風刺画家たちは、その絵に込められた想いを涙ながらに語った。

「我々が描いたのは、涙を流す、善良な人物としてのムハンマドです。彼の姿を再び描いたことを申し訳なく思いますが、彼はあらゆることに涙を流しています。今回襲撃を行った人間たちが、間違った形であがめているムハンマドとは違います。我々が描いたムハンマドは、もっと良い人物なのです。」

表現の自由、風刺、イスラム教、テロ、人の命、移民……など、世界中で多角的な議論を呼んでいる今回の事件。新たにムハンマド像が掲載されたことで、事態はどのように進展していくのだろうか? 間違いなく言えるのは、「風刺されたからといって、人の命を奪っていい理由にはならない」ことと、「ラトゥッフさんが描いた家族が、 “反イスラム派の拳” に潰されてはならない」ということだ。

参照元:Twitter @LatuffCartoonsThe IndipendentThe New York TimesAljazeera America (英語)
執筆:小千谷サチ

▼「シャルリー・エブド」からは血が流れ、その向こうに建つモスクも破壊される

▼善良そうな家族を叩き潰そうとする大きな「反イスラム派」の拳

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