人は時に本心とは裏腹にものを言う。複雑な人間社会を生き抜くために必要な処世術だが、この行為は一方で思わぬ落とし穴にもなる。人間関係において誤解や混乱を招くもとにもなるし、ひどくすればうっかり騙されてしまうことだってありえるのだ。

人の隠れた本音を見抜く能力を身につけられたら社会生活はいったいどれほどスムーズになるだろう。「人の本音を見抜くメガネ」がこの世にあれば……あるのである!

米・マサチューセッツ工科大学技術メディア研究センターの研究者、ロザリンド・ピカルドさんが開発したのは、正真正銘の「人の本音を見抜くメガネ」。内蔵カメラが搭載されており、対話相手の顔の表情を分析するソフトウェアと連動している。コミュニケーションを図る上での失態や失言を避け、相手をより深く理解することを目的として開発された技術だ。

「うなずく」、「目を細める」、「眉をあげる」、「唇をわずかに開く」など、会話のなかで変化する相手の表情はその人の本音を読み取るシグナルだ。しかし、結局のところ文化や個人の違いにより、人はそのシグナルを読み間違える場合も多い。

これらのシグナルを技術で読み取ろうとしたのは、英・ケンブリッジ大学のラナ・エル・カリオビさん。もともと、感情的な交流を苦手とする自閉症の研究をしていた彼女は、実験によって表情が意味する心理状態を綿密に調査した。

その結果定義されたのは、「考え中」、「同意」、「心配」、「興味」、「混乱」と「不同意」の6つの心理状態だ。これに電気エンジニアであるロザリンドさんの技術が加わり、この「本音を見抜くメガネ」が完成したのである。

メガネの中には米粒大のカメラが搭載されており、トランプ一組分の大きさのコンピュータに連動。 カメラが小さな表情の変化を読み取り、コンピュータがその頻度や長さを分析する。それらを定義済みデータと比較した結果がスクリーンに「相手の本音」として映し出される仕組みだ。

しかし、仮にこの技術がやみくもに利用され、すべての人々が他人の心を正確に読むことができるようになったら……? 

開発を進める中で、研究者が強調するのは、これらの技術を相手の同意なしに使用してはならないということだ。現在、同研究チームはマサチューセッツに「Affectiva」という会社を設立。技術は、あくまでも対象者の同意の下、企業の販促活動などのツールとして利用されているそうだ。

というわけで、社会生活を便利にする「本音を見抜くメガネ」の個人使用は残念ながら禁止である。メガネは、それぞれが自分の心の中で開発して行かなければならないということになる。必要なのは、「ブレない心のレンズ」を経験で磨いて行くことなのかもしれない。

参照元:New Scientist(英文)