耳の鼓膜が破れてしまった経験をもつ人は、世の中そう多くはないだろう。厚さ0.1ミリ、直径8ミリ程の薄い膜により外気と内耳が隔たれているわけだが、普段人々から完全に忘れられている存在ではないだろうか。

しかし記者は、膜の存在の有り難さを身を持って思い知ることになる。

そう、膜が破れたのである。誤解がないように言っておくが、記者は格闘技をしているわけではない。ただ普通に過ごしていて鼓膜が破れることがあるのだ。だから、これを読んでいる皆さんも、いつなんどき鼓膜が破れるともわからない。そのときのためにもぜひ参考にして欲しい。

ことの始まりはなんてことはない。酔っ払った知人の勢い良く振った右手が、偶然記者の左耳にこれまた勢い良く命中したのだ。相手はふざけていたので、悪意はなかった(たぶん)。

途端に記者は、耳に異常を感じて不安になった。音が聞こえないのだ。厳密に言えばまったく聞こえないのではなく、すべての音が雑音に聞こえる。人の言葉はなんとかボンヤリと聞き取れる程度。自分の声も良く聞こえない。代わりに自動車のエンジン音や、換気扇などのモーター音が、地鳴りのようにグワングワンと鳴り響くのだ。そして、痛い。中耳炎になったときのような鈍い痛みを感じた。

さらに不思議なことに左耳を負傷したはずが、右耳も聞こえないのだ。むしろ、右耳の方が違和感を感じる有様だった。両方の耳をダメにしてしまったのか? まるで、機械の部品がひとつ外れてしまったかのような不思議な感覚だ。生まれて初めての経験に、言い知れない不安と恐怖が襲ってきた。

しかし病院へ行くのはもっと怖かった。医療の知識がない分、悪い方へばかり想像を膨らませてしまう。もしかしたら鼓膜が破れているのかもしれないが、鼓膜を治すには縫合しなくてはならないのだろうか? 万が一、手術ということにでもなったら、最悪治らないなんて宣告されたら、それこそ立ち直れないではないか!

病院行きを渋るうちに、数日すればきっと治るのではないかと現実逃避を始めるようになった。しかし、寝ても覚めても良くなる兆しがないので、1週間ほどして仕方なく近所の耳鼻科へ行くことにした。

モニターに映る記者の鼓膜を見ながら、医者はあっけらかんと話した。 「左耳の鼓膜破れてますね。ほら、ここに小さい穴が開いているでしょう。だけど、自然再生を始めてますよ。鼓膜の表面に薄い血管ができてますよね? 破れた鼓膜は放っておけば自然に治るんです。右耳はなんの異常もありませんよ。2~3週間くらいしたら完治します」と言って、飲み薬も塗り薬も持たされずに、そのまま帰された。

拍子抜けだったが、このときほど、もっと早く病院へ行って不安を解消させればよかったと思ったことはない。実は、このときの破れた鼓膜の写真を持っているのだが、あまりにも気持ちが悪いためここでお披露目するのは控えさせてもらう。

万が一鼓膜が破れたら……とにかく何もしないで安静にすることが一番の対処法だということがおわかり頂けただろうか。焦ることも、不安になることもない。2~3週間ほど雑音や鈍い痛みを耐えるだけで良いのだ。しかしながら状態にもよると思うので病院へは行くべし。これで、あなたがたとえ鼓膜が破れるようなことがあっても、記者のように恐怖に打ち震えることはないはずだ。

photo by flickr rumpleteaser