その日、彼は読書をしていた。以前見かけた時と同じように、身なりは整っており、サンダルをきれいに揃えてダンボールに座っている。
「こんにちは。以前絵を買ったものです。今日は絵を販売していないんですか?」
私が声をかけると、彼は驚いた様子だったが、イヤな顔をすることなく質問に答えてくれた。ちなみに、私が訪ねた日は絵を売る気分じゃなかったそうだ。絵を売らない時には、読書をしたり瞑想したりしているという。
私は名刺を渡してウェブライターであることを伝え、「お話を伺ってもいいですか?」と尋ねた。彼は はにかんだように微笑みながら、快諾してくれたのである。
・話を聞いてみると……
彼はオイカワさん。路上での絵の販売は8年くらい前から行っているそうだ。現在の場所に来るようになったのは、ここ1年ほどだという。子どもの描いた絵であることを想像していたが、作品は彼自身が描いているとのことだ。
・絵の意味を尋ねる
ここからが本題だ。販売している絵には、きっと深い意味があるはず。子どものような稚拙なタッチではあるけど、きっとオイカワさんは深い意味があってやっているはず。そう思いたい! ということで、次の質問をした。以下は彼との対話の要約である。
佐藤 「あの『パピルス「五円玉」』は、どうして描かれたんですか? パピルスはキャラクターですよね?」
オイカワさん 「そう」
佐藤 「パピルスは何ですか? 性別とかありますか?」
オイカワさん 「パピルスはチョウチョウかな」
独自の世界観のなかで語られたことなのか。私には意味を汲みかねたが、パピヨン(フランス語で蝶)に相通じる何かがあるようだ。パピルスは何となくわかったのだが、「五円玉」は何だろうか?
佐藤 「では『五円玉』はなんですか?」
オイカワさん 「五円玉? 五円玉は “ご縁” かな」
佐藤 「なるほど。そういうのは、何か深い意味があって描いてるんですよね」
オイカワさん 「深い意味はない。描くときに思いついたことを描いてます」
なるほど……。思いつきで描いてたのか……。大きな物語の一部かと思ったら、思いつきだった。まさか落書きってことはないと思うけど、とにかく作品は閃きにゆだねられているらしい。
・謎多き男
改めてほかの作品も見たいと思ったが、この時オイカワさんは絵を持ってきていなかった。また別の機会に、過去の作品や新しい作品について教えてもらいたいと思う。それにしても、オイカワさんは謎多き男である……。
Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24