【心霊コラム】金縛りをかけるプロ! キャリーバッグを引く謎の女性を見た話(後半) 

・正面突破で聞いてみた

次の日の朝、ホテルのビュッフェに集まって朝食をとっているとき、Bがさっそく話を切り出した。

「ラーメン屋から帰ってきたら、キャリーバックを引いた女の人がお前の部屋に入って行くところを見たわ」

Aにとっては予期しなかったBのストレートカウンター。その一撃によろめいたのか、Aは思わず顔を伏せた。それから……Aは皿によそったパリパリのウィンナーをフォークで突つきながら、重い口を開いたのだ。

「実は昨日の夜、出たんや。幽霊が!」……このようにして、Aが語った恐ろしい心霊体験は以下の通りである。 

・Aの金縛り体験

A:「確かに昨日の夜、俺の部屋に女性の幽霊がやって来たんや。しかも俺がベッドで寝てたら、入ってきた幽霊にあっさりと金縛りにされてな」
B:「マジで……。金縛りって、どんな感じでなったん?」
A:「幽霊がキャリーバッグからロープを取り出して、俺の体を縛り付けてん」
私:「そんな物理的な方法で!?」
A:「あの手際の良さは、幽霊の中でもプロの部類やな。しかもや!」

私とBは、思わずAの方へ身を乗り出した。

A:「俺が金縛りで動けなくなったところで、その幽霊が俺の顔面に乗ってきてん。息が出来んくて、苦しかったわ……」
B:「それは大変やったな……その後どうなったん?」
A:「幽霊が部屋に入ってきて50分くらいした頃かな。タイマーがピピピっと鳴って、金縛りは解けたんや。そしたら、女性の幽霊は急いで消えていったわ。タイマーが鳴ったら即やで」
私:「メッチャ時間に律儀な幽霊やん!」
B:「他に何か覚えてないん?」
A:「そういや……その幽霊が去った後、俺の口の中にイソジンの香りが残ってたわ。あの幽霊、金縛りの前後で、なぜか俺にイソジンをさせたんや」
私:「えらくキレイ好きな幽霊やな」
A:「人間界よりも幽霊界の方が、衛生面を気にするのかもしれへんで」

私は『移民の歌』のことも質問したかったが、Aの強ばった面持ちを見ていると「昨夜の悪夢を思い出させてはいけない」という気持ちが自然と強くなり、自分の胸の中にしまっておくことにした。

・急いでホテルを出る

とにもかくにも、私とA、B、3人の意見は一致している。このホテルはヤバい! 幽霊が出る! 幸いにしてと言うべきか、私たちはその日にチェックアウトの予定だったので、朝食を済ませたら さっさとホテルを出ることにした。

すると……! チェックアウトの際、またしても驚愕の事実が明らかになったのである。フロントで会計をしているAが、焦った表情で私の方を見てこう言ったのだ。

ごめん、金貸してくれへん? 幽霊が俺の財布から2万円ほど抜いていったの忘れてたわ」と。

執筆:和才雄一郎
イラスト:稲葉翔子