今もっとも勢いのあるコンテンツの一つ「ウマ娘」。筆者もアニメ2期をきっかけに一気にハマり、アマプラで1期も視聴して合計24回は泣いたレベル。アプリゲームはもちろん本物の競馬にも手を出して、平日はゲームのウマ娘。週末はウマ娘をプレイしつつ本物の競馬。この数か月はウマ娘と馬のことしか記憶に残っていない

だが、ウマ娘関連で唯一手を出していなかったものがあった。それが漫画版の『ウマ娘 シンデレラグレイ』である。連載されているヤングジャンプは毎週買っているので、存在は知っていた。つまり、知りながらスルーしていたのだが、あるタイミングで急速に興味がわいたので読んでみることに。その結果……

・スルーしていた理由

あえてスルーし続けていた最も大きな理由は、筆者の中に「ソシャゲやアニメが先で、後から漫画になったものは、本家とは方向性がガラっとかわりがち」というイメージがあったからだ。つまり、アニメ・ゲームをそのまま漫画化したというよりは、アンソロジーコミックじみた内容になっているケースを嫌ってのことである。

アンソロ系にも独自の良さがあるのだとは思うが、筆者はテイストが違いすぎると感心を失うタイプ。メディアミックスコンテンツは、中心になる媒体と同じ方向性のもの以外は手を出さない主義なオタクなのである。そんな感じで、漫画版は別にいいかな……となり、次第に存在を意識することすらなくなっていた。


・お知らせと配布

そんな漫画版ウマ娘だが、再び意識する機会がやってきたのが先日のこと。いつものようにウマ娘のアプリを起動すると、運営からの「お知らせ」が目に入った。漫画がシリーズ累計35万部を突破したということで、記念にゲーム内通貨や育成に有用なアイテムの配布が行われたのだ。


なんとなく何巻出ていて35万部売れたのか気になったのでググってみると、その時点では2巻しか出ていなかった。えっ、2巻までで35万部とは素直にスゴい。でもなぁ、スルーしてたしなぁ。とりあえずAmazonで評価をチェックしてみっか……とAmazonの販売ページを見ると


★★★★★ 1866個の評価


これは……ッ! 筆者がチェックした2021年4月23日の時点では、1巻が1866個の評価に対し、94%が星5つ。2巻は1334件の評価で、96%が星5つだった。また、ウマ娘のように注目度の高いコンテンツであれば、それなりにアンチや荒らしも出て評価は下がるリスクも高い。

そして漫画の1巻というのは、描かれているコンテンツに興味がない「新しい漫画を片っ端から読む」系の人にも手に取られやすく、時には「〇〇に興味のない人には楽しめない」的な理由で低評価をつけられたりする。

「車に興味のない人には~」と低評価をつけられた車の漫画や、「釣りに興味のない人には~」と低評価をつけられた釣り漫画……この手のケースは山ほど見た。

例えコンテンツのファンでも、1巻は試すように読む方もいるだろう。にもかかわらずの圧倒的高評価。いくら人気コンテンツと言えど、漫画のクオリティが高くなければここまでの高評価は付かない。これは読んでみるしかねぇ……! 少し長くなったが、これが読むに至るまでの経緯だ。


・オグリキャップ

近所の本屋で軒並み売り切れていてゲットに手間取ったが、読み始めればあっという間。ついでに単行本化されていない部分も、ヤンジャンにて読み終えてしまった。

Amazonの星の数以外は一切の事前情報を見ていなかったため、主人公がオグリキャップであり、時系列はアニメやアプリよりも過去(時空は不明)ということを知ったのは読み始めてからだ。オグリか……よく知らないんだよな

ウマ娘にハマったからこそオグリキャップの名前も知ったが、筆者の競馬に関する知識はアニメ1期と2期で主役だった面々や、アプリで育成してハマったナイスネイチャ、ライスシャワーなどに偏っている。


オグリキャップと言えば、確かにアニメでの出演頻度はかなり高かったが……ほぼ毎回後ろで大量のメシを食ってるだけだった気がする。アプリ版のホームに時折出てきても、だいたいメシの話をしている。めっちゃ食べるウマ娘……という印象しかない。何より、弊チームシリウスにオグリキャップは未実装(育成キャラを引けてない)。


・変わるスケール感

よく知らない競走馬・ウマ娘だが、本シリーズにおいて、キャラクターたちのレース展開や着順は基本的に現実と同じものとなっている。オグリキャップの経歴や活躍とて、漫画を読めばきっとわかるだろう。そう考えて読み進め、まず衝撃を受けたのが、一つしかないと思っていたトレセン学園が、全国にそれなりにあるということ。

しかも、アプリやアニメの舞台で我々ファン的にもおなじみなトレセン学園は「中央」として特別視され、地方のトレセン学園とはレベルがダンチらしいということ。端的に言って、中央のトレセン学園に入れるのはエリート中のエリートだけっぽいのだ。

中央の制服で地方のレースを観戦するだけで、「あれは中央の……」的にザワつかれるレベル。しかも脚の速さだけじゃなく、学力も必要らしい。走るウマ娘をサポートする「スタッフ研修生」としてのウマ娘もいるようで、中央への編入試験は、受かれば会長も褒めるほど高難易度っぽい。

そんな超エリートウマ娘を鍛える中央のトレーナーも相当に凄い存在だったようだ。トレーナー界の超エリートである。なんだか、アプリで何のハードルも越えずに中央のトレーナーになっていて申し訳なくなってくる。うまぴょいがどうとか言っててすみません。

そして、その辺りの描写から伝わる圧倒的な格差の存在。確かにアニメやアプリで描かれている範囲内でも着順による勝敗はあったが、あくまで東京にあるトレセン学園という、走ることに特化した1つの専門学校的なコミュニティ内での上下みたいな、その程度の世界の広さしか感じていなかった。漫画版を読んで、世界観のスケールが「都内の専門学校」程度だったところから、一気に全国規模に


・熾烈な競争

地方競馬出身のオグリキャップにフォーカスしたのは、世界観の広さを印象付ける点において、天才的判断だと思う。ちなみに「シンデレラグレイ」の2巻までは、カサマツトレセン学園時代のオグリと、カサマツのウマ娘たちとのドラマが描かれている。

身も蓋もない言い方をすれば、そこまでで登場するオグリ以外のウマ娘たちは、レースの実力が中央のウマ娘には全く届かないと言える。アニメやアプリでメインキャラ達に負けまくる、モブの中央ウマ娘。彼女たちにすら遠く実力が及ばない数多のカサマツのウマ娘たち。その層に個別の人格やキャラクター性が付与され、ドラマが描かれることによって競争の熾烈(しれつ)さの解像度が増す

アニメとアプリでは、それぞれハードルはあれど基本は皆それを超えてキラキラしたエンディングを迎えられる……そういう世界しか筆者には見えていなかった。が、漫画にてめちゃくちゃ泥臭く、シビアな競争社会的側面を見せられてしまった。ほのかに感じるエグみと闇が、ドラマチックでありながらもリアルでアツい。

テンションがアガるのはともかく、ぶっちゃけ歌詞もノリも電波すぎる「うまぴょい伝説」。ちょっとネタじみて見ていたところがあったが、あれをステージで披露できることの栄誉は、実はウマ娘界においてネタでは済まないほど凄まじいのではなかろうか。こんなにうまぴょいが重く感じられる日が来るとは思っていなかった


・隙の無い布陣

最新話は中央に舞台を移しており、タマモクロスとやり合った秋の天皇賞の真っ最中。レースの結果がどうなるのかについては、ご存じの方も多いのでは。筆者も2巻まで読んでから、競走馬のオグリキャップのWikipediaをチェックした。すでに彼の競争成績や生涯は把握している。ウマ娘のほうも、レースの成績は同じ物となることだろう。

が、結果を知っていても見せ方でアツくしてくれるのがウマ娘。漫画でも1期と2期の複数話で脚本を担当した杉浦理史氏が漫画でも脚本を担当し、企画構成はアニメ1期プロデューサーの伊藤隼之介氏で、作画を漫画家の久住太陽氏が行うという、どんな馬券よりも堅い布陣で信頼しかない。

既刊2巻で物語としてはまだまだ始まったばかりな『ウマ娘 シンデレラグレイ』だが、世界観を広げてくれるという点と、展開描写のアツさは基本的に常時クライマックスだ。アニメのスポ根展開がハマった方なら、漫画も間違いないだろう。

また、ウマ娘ファンではありながらも、元より馬の方のオグリキャップのファンでもあった方の中には、アニメでメシを食ってる姿しか描かれない所に歯がゆさを感じていた方もいるのではなかろうか。漫画では主役だ。

GW(ゴルシウィーク)突入で皆さん育成に勤しんでいることと思うが、漫画『ウマ娘 シンデレラグレイ』がまだだという方は、この機に読んでみてはいかがだろう。漫画もウマ娘は激アツだぞ!

参考リンク:ウマ娘 シンデレラグレイ
執筆:江川資具
Photo:© 2021 アニメ「ウマ娘 プリティーダービー Season 2」製作委員会、(C) Cygames, Inc.
ScreenShot:ウマ娘 プリティダービー(Android)

▼漫画家の久住太陽氏のTwitterでも冒頭部分を読めるぞ! 3巻は5月19日発売予定なもよう。楽しみだ。