2019年5月29日午前11時59分にオリンピックのチケット抽選販売の申し込み受け付けが締め切られ、いよいよ「東京オリンピック・パラリンピック」が身近に迫ってきた。受付開始日はサイトにつながりにくい状況であったが、チケットは全て抽選制。6月20日に抽選結果が公表される。

さて、いま「東京オリンピック・パラリンピック」にまつわる “ある話題” が注目を集めていることをご存じだろうか? それは東京オリンピック・パラリンピックの会場内で撮影した動画は全て「ネットに投稿禁止」というもの。しかも著作権は全てIOCに帰属するという。

・規約で定められている

公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が定める「東京2020チケット購入・利用規約」の第33条、撮影の項目には以下のようにある。少々長いが、以下でご覧いただきたい。


「3. チケット保有者は、会場内において、写真、動画を撮影し、音声を録音することができます。また、チケット保有者は、IOCが、これらのコンテンツに係る知的財産権(著作権法第27条および第28条の権利を含みます。)について、チケット保有者もしくはその代理人に対する金銭の支払や、これらの者から別途許諾を要することなく、単独で権利を保有することに同意し、さらにチケット保有者は、これらのコンテンツについて保有する一切の権利(著作権法第27条および第28条の権利を含みます。)をIOCに移転するとともに、その著作者人格権を行使しないことに同意します」

「4. IOCは、前項を前提としたうえで、チケット保有者が会場内で撮影・録音したコンテンツを個人的、私的、非営利的かつ非宣伝目的のために利用することができる制限的かつ取消可能な権利を、チケット保有者に対して許諾します。ただし、チケット保有者は、会場内で撮影または録音された動画および音声については、IOCの事前の許可なく、テレビ、ラジオ、インターネット(ソーシャルメディアやライブストリーミングなどを含みます。)その他の電子的なメディア(既に存在するものに限らず将来新たな技術により開発されるものを含みます。)において配信、配布(その他第三者への提供行為を含みます。)することはできません」


かいつまんで言うと、3は「チケット保有者は会場内で写真や動画を撮影してもいいよ。ただし、著作権は全てIOCのものね」ということである。そして4は「撮影した動画を自分で見るのは全然OKだよ。でもネットにアップしちゃダメ」ということだ。

朝日新聞によれば「高額の放映権料を支払っているテレビ局の利益を守るため」とのことであるが、一言でいえば時代錯誤な感が否めない。インターネットを通じ、多くの人に拡散されるのもまた、現代のオリンピックの姿なのではなかろうか?

確かにアーティストのライブや美術館など、日本は海外と比べて撮影の許可がいまだに厳しい。例えば海外の博物館では「入場料5ドル、撮影するなら7ドル」などと定められている施設が多いが、日本は一律禁止のパターンがほとんどだ。

日本人だけならばともかく、海外からのオリンピック観戦者に「ネットにアップ禁止」のルールを守らせることは可能なのだろうか? そしてこの取り決めを海外の人はどう思うのだろうか? ロケットニュース24の英語版サイト「SORAニュース(soranews24.com)」のケーシー記者(アメリカ人)に聞いた。


──ケーシーさん、ケーシーさん。東京オリンピックの会場は「撮影はOKだけどアップは禁止」と日本で話題になっています。海外の人はどう思ってるんですかね?

「そうだな。まだこの件は海外では話題になっていないから、直接意見を聞いたわけじゃないけど “ビデオを撮ってもいいならそのビデオをどう使うのは私の自由でしょう!?” って思う人が多いんじゃないかな?」

──なるほど。

「日本も同じだと思うけど、今どきネット配信ができないなら “ビデオを撮る意味がない” って考える人がたくさんいるよね」

──ですよね。

「日本のことちょっと知ってる程度の外国人は “さすが日本らしい時代遅れの考え方だ” って思うと思うな。特にメディアに対しての考え方はアメリカとは違う」

──というと?

「基本的に日本は芸能人やイベントの撮影など、他の国と比べたら規制が厳しい国だよね。博物館や美術館も。アメリカにも撮影禁止の博物館や美術館はあるけどさ」

──ルーヴル美術館ですら撮影OKですからね。

「だから、海外からの観光客はある意味のカルチャーショックを受けると思うよ。“なんで撮影しちゃいけないの?” ってさ」

──確かに「ダメなものはダメ」というだけで、理論的な説明がしづらい……。

「たぶん海外の人に一番納得いかないところは “会場で動画を撮ってもいいよ!” と “でもネットに載せちゃだめだよ!” がセットになってるとことかな?」

──ふむふむ。

「“撮っちゃだめ + 載せちゃだめ” なら理解できるし “撮っていい + 載せていい” も理解できる。ただ “撮っていいけど載せちゃだめ” は矛盾しているように感じて “撮っちゃだめけど載せていいよ” と同じぐらいに理屈になっていないと思う外国人がいるかもね」

──確かに。非常にわかりやすい。

「確かに海外でも、撮影禁止のアーティストのライブもある。そこで撮影した写真をネットにアップして問題になることも実際にあるよ。ただ、日本はほとんどが撮影禁止だもんね。アメリカと比べたら厳しいとは思うな」

──ただ、僕らは慣れちゃってるのでそこまで感じないんですけどね。

「特にスポーツに関して言うと、撮影禁止のイベントがほとんどないんだ。それに営利目的じゃなければ個人がネットにアップしても特に問題にならない。だから、東京オリンピックはネットへのアップ禁止と聞いて戸惑う外国人はたくさんいると思うな」


というわけで、日本と海外の価値観の差が如実に表れる結果となった。とはいえ、日本人でも「せっかくオリンピックを観に行ったら動画もSNSにアップしたい」と思うのがもはや普通の感覚ではなかろうか? テレビ局の利権もあるのだろうが、個人の動画をアップしたところで、そこまで権利を侵害するものなのか? 疑問は残る。

とにもかくにも、オリンピック開幕までに議論を呼びそうなこちらの話題。少なくとも、わざわざ海外から日本に来た観光客のみなさんに、不快な思いをさせることだけは避けたいものだ。この一件について、あなたはどう思うだろうか?

参照元:東京2020チケット購入・利用規約朝日新聞日本経済新聞
Report:P.K.サンジュン
Photo:RocketNews24.

▼ケーシーさんに「欧米人って耳そうじしないって本当?」と聞いた記事はこちら。