春だ、競馬だ、G1だ!!! 本格的に暖かくなり、競馬の世界は春のG1シーズン真っ只中である。昨年末の有馬記念では障害王・オジュウチョウサンの挑戦が話題となり、フェブラリーステークスでは藤田菜七子騎手のG1初騎乗が注目を集めた。なにげに今、競馬が熱いのだ。そして、どうせやるからには当たり馬券をゲットしたい。

さて先日、競馬好きの友人とパドックを眺めているとき、とあることが話題になった。それはパドックでウンコをしている馬についてだ。

・スッキリして激走する説

これまで私はパドックでウンコをしている馬は何となく評価を下げていた。特に深い理由はないのだが、今からいざ勝負というときに粗相しているような馬は少しだらしなく思えるからだ。

しかし、その友人によれば「ウンコをした馬は気分がスッキリしてその分激走する」というのだ。う~ん、言われてみればそんな気がしないでもないが……。

・自分自身に置き換えてみる

競走馬も私たち人間と同じ生き物だ。確かに自分の体に置き換えてみても、便通が良くないときは体がどこか重く感じるし、逆にそれが解消されたときは体が羽のように軽く感じられることはままある。もちろん気分爽快、やる気もアップだ。

・ネット上でも意見は分かれる

世の競馬ファンはどう考えているのだろうか。パドックの見方についての解説や私見を掲載したウェブサイトはそれこそ星の数ほどあるが、ネット上でも意見は割れていた。

「出すもの出してスッキリ」「緊張してる証拠なのでマイナス」「ウンコしてようがしてまいが関係ない」「下痢ならマイナスだが、そうじゃなければ問題なし」などと様々な意見があったが、パドックでウンコしている馬だけベタ買い(※)して傾向を調べてみる、という検証記事はどこにもなかった。

それもそうだろう。そもそもパドックで多くのファンが注目するのは馬の体つきや気合乗りなどで、ウンコなど二の次どころか三の次くらいの要素でしかないのだ。

(※)ベタ買い……一定の条件のみに絞って馬券を買い続けること

ならば私が人身御供となって検証してしんぜよう……ということで、さっそく京都競馬場にやってきたぞ。

今回の趣旨は簡単。ずばり「パドックでウンコをしている馬だけを1日買い続けた場合に儲かるのか?  否か? 」だ。たった1日のデータで結論を出せるはずもないことは百も承知だが、それでも何かの参考くらいにはなるだろう。ちょっと気にはなるけどそんなことをわざわざ調べるほどヒマじゃないよ……ということをわざわざ調べるのが私の使命なのだ。

馬券は全て単勝100円で勝負。パドックでブリブリしている馬の単勝だけを100円ずつ買い続ける。その他の要素は一切考慮しない。それが今回のルールだ。

・幸運を呼ぶウンコ、「黄金」を探せ

それではさっそく検証に移っていきたいが、その前に一つだけ。馬のウンコについて色々調べていたところ、面白い記述を発見した。以下、JRAオフィシャルサイトの競馬用語事典からの引用である。


「ボロ……馬糞のこと。この状態により好不調の判断がある程度できる。軟らかいのはよくなく、また堅過ぎず、落ちたときに3つ、4つに割れるのが良い状態といわれている。」


なるほど。落ちたときに3つ、4つに割れるウンコを探せば良いのか。それがどういうものか正直イメージは湧かないが、現物を見ればわかるだろう。要するにラッキーアイテムなのだ。この勝利を呼び込むウンコのことを本稿では便宜上「黄金」と呼ぶことにしたい。そして「黄金」を披露した馬に限っては単勝を倍プッシュの200円購入して勝負することにしたい。

それでは前置きが長くなってしまったが、レースに移っていこう。ちなみに取材を行ったのは1月19日(土)。この日の京都競馬場は重賞の開催もなく、客数もまばらである。パドックに貼りついて取材を行うには絶好の日だといえよう。

・第1レースからいきなり大当たり……か!?

第1レースはダート1800mの未勝利戦。こちらのパドックで気持ちよさそうに脱糞していたのは、③クロスオブヴァロー(5番人気)と⑫オーマオ(3番人気)の2頭であった。

さあ、いよいよレース開始だ。クロスオブヴァローは先団、オーマオは中団に付ける。クロスオブヴァローは直線でズルズル後退していってしまったが、オーマオは外から猛然と追い上げる。逃げる武騎手のスマートアルケミーと並んだところがゴール!! あれ、いきなり当たったんじゃね?

……と思いきや、わずかに届いておらずハナ差の2着。う~ん惜しかった。しかしまだ始まったばかりだ。どんどん検証を進めていこう。

第2レースでボロをしていた馬は④アンクルロイヤル(10番人気)だ。4コーナー手前で既に手応え怪しく、14着に大敗した。

第3レースでは⑨トーアディアナ(8番人気)、⑩アイファーファーレ(10番人気)の2頭を購入したがともに直線で伸びを欠き、それぞれ6着、9着に終わった。3レースを終えて、いまのところ当たりは無し。やはり人前で粗相するような馬は来ないのか?

続く第4レースは新馬戦だったが、パドックでボロをしている馬は1頭もいなかった。随分とお行儀の良い若駒たちである。したがってこのレースは飛ばし、少し早めの昼食をとることにしよう。ちなみに私は競馬場ではよくカレーを食べるのだが、なぜかこの日はカレーの気分ではなかったので、うどんをチョイスしたぞ。

しかし自分で言い出した企画ながら、朝から馬のウンコばかり監視していると何ともいえないわびしい気持ちになってくる。周りの人は楽しそうに馬の毛艶やらイレ込み具合などについて話している。ひたすら馬の肛門を見ているのはおそらく私だけだろう……。

いやいや、泣きごとを言っている場合ではない。競馬は1日に12レース行われる。まだ序盤も序盤なのだ。

さて、気を取り直して第5レースへと進もう。ここのパドックでド派手にかましていたのは、⑦アスターハリケーン(8番人気)だ。量だけならこの日1番だった。しかし、レースでは先行したものの直線で馬群に沈んで8着。勢いが良いのはパドックでの出しっぷりだけだった。

・午後の部も不振続く

第6レースで対象となったのは⑧マルカノーベル(3番人気)、⑨メドック(12番人気)、⑩リネンワンライン(15番人気)の3頭。それだけ買えば何とかなるのではと思ったが、結果はそれぞれ7着、8着、15着と撃沈。

第7レースでは⑤サンライズフォルテ(11番人気)を購入したが最後方追走のまま何もできず、14着に終わった。

・いまだ見つからない「黄金」

さて、第7レースまで終わりパドックで脱糞していた馬はここまで計10頭だが、いまだ勝ち星はない。10頭の内訳をみると半分の5頭が二桁人気の馬で、1番人気および2番人気の馬は1頭もいない。やけに穴馬ばかり買わされているのだ。

やはり人気になるような実力馬、もしくは激走するような好調馬はレース直前にボロボロと粗相するようなことはしないのだろうか? 「ウンコした馬は走らない」という推論が頭をもたげてくる。

それはさておき、思い出してほしいのがレース前に触れていた「黄金」だ。ここまでそれらしきものを発見できていない。というより、繰り返しになるが「落ちた瞬間に3~4つに割れるウンコ」というのが全くイメージできない。汚い話で恐縮だが、硬ければそのままボテッと落ちるか、緩ければ飛び散るかのどちらかではないのか?

滅多に見つからないから「黄金」なのだろうか。そんな「黄金伝説」に想いを馳せながら、レースはいよいよ終盤に向かっていく。

・ついに当たりが

さて、第8レースで指名したのは⑤リテラルフォース(2番人気)である。ここまで購入したなかでは最も上位人気の馬だ。逃げていたフィールドセンスに4コーナー入り口で並びかけると、追い比べを制して見事に勝利!! 今日初めての白星となった。単勝400円の払い戻しだ。

続く第9レースは⑨ディアボレット(9番人気)、⑪ダイアトニック(1番人気)の2頭。ここに来てゴリゴリの人気馬がパドックで用を足すようになってきた。ダイアトニックは道中中団待機し、直線で外から強襲。前をいく2頭をゴール前でハナ差捉えての1着!! 見事2レース連続での的中となった。なお単勝140円の払い戻しでトリガミ(※)となったことはご愛敬だ。

(※)トリガミ……馬券は当たったが、収支はマイナスとなること。

第10レースは芝2000mで行われる若駒ステークスだ。競馬ファンの間では3歳クラシック戦線を占うレースとして知られており、かつてはあのディープインパクトもこのレースを勝って、大舞台へと羽ばたいていったのだ。「モチが粘る!!」の珍実況が生まれたレースでもある。

ここで人目もはばからずウンコをしていたのは⑧サトノウィザード(1番人気)である。パドックから出ていく際に「ほな行ってくるわ」とばかりに1個発射し、本馬場へと向かっていった。

この日見たなかでは最も頼もしい(意味不明)出しっぷりだったといえよう。

しかしレースは2着。あの勇ましい出しっぷりはなんだったのか……。

・本当のメインレースは最終レースだった

いよいよ本日のメインレースである。ダート1400mで施工されるすばるステークスだ。ここは是非とも当てたい。さて、パドックに現れた瞬間に脱糞した便意みなぎる1頭は、①メイショウヒサカタ(15番人気)だ。

あれこれ予想して買うときは15番人気の馬などなかなか買えないものだが、今日は自分で決めたルールで縛っているので超穴馬でも躊躇(ちゅうちょ)なく買える。ベタ買いの面白いところだ。やや下痢気味だったのは⑦アキトクレッセント。下痢は良くないと聞いたが……。

レースが始まると、まず勢いよく飛び出したのはメイショウヒサカタだ。1番乗りでウンコをかました勢いそのままに先行する。しかし、ワンチャンあるのでは……と思ったのも3コーナー手前までで、みるみるうちに後続馬に飲み込まれ、結果は最下位の15着。完全な力負けである。もう1頭のアキトクレッセントも、やはりお腹の調子が悪かったのか8着に散った。

遂にメインレースも終わってしまった。ここまでの収支は購入1600円に対して払戻540円という何ともパッとしない状況である。「ウンコした馬は走る」とドヤ顔で語っていた友人もこのままでは浮かばれない。そんなやるせない思いで最終12レースのパドックを眺めていたとき、それは目の前に現れた。


え?


これってもしかして……



これ3~4つに割れてね ?


そう、あれだけ探しても見つからなかった「黄金」がここに来て発見されたのだ!!


この「黄金」を産み落とした勝利を約束された1頭は、⑭サブリナ(14番人気)だ。なかなかの穴馬だが、心配することは何もない。なにせ今日初めて出会った「黄金」の馬なのだ。これは地球人の群れに1人だけ超サイヤ人が混じっているようなものだ。ちなみにサブリナの単勝は166.9倍も付いている。これが勝てば(というか勝つけど)今日は大勝ちで帰れるのだ。

長々と検証記事を書いてきたが、これまでのレースは全て前フリだったのか……。最終レースでようやく姿を現した「黄金」の馬が単勝14番人気の大穴を開け、「とりあえず3~4つに割れるウンコをする馬だけ買っとけ」という結論とともにこの記事は永久保存版となるのであろう。

ルールどおり「黄金馬」サブリナの単勝を200円購入し、私はウキウキでスタンドに繰り出した。

周りの客は一日の負け分を取り返そうと目を血走らせているが、私は違う。なにせ私の馬は勝利を約束された「黄金」の馬であり、その単勝は166倍も付いているのだ。取材でなければ10万でも20万でもぶっこむのに!! 200円しか買えない今日の自分が歯がゆい。

そしてついに最終12レース、栄光へのゲートが開かれた……………… !


その瞬間、サブリナは最後方にいた。コンマ何秒を争う競馬の世界で、ゲートでの出遅れは死を意味する。ましてや距離の短い1200mのレースでは即死である。痛みを感じることなく死ねる即死だよ……。

3コーナーを最後方で回ったサブリナは4コーナーを最後方で回り、一番最後にゴールインした。間違いなく、この日登場した馬のなかで一番何もできなかった。

「黄金伝説」はここに幕を閉じた。終幕である。

・「黄金」とは何だったのか

それにしても、JRA公式でも推奨されている「落ちたときに3つ、4つに割れる」ウンコとは何だったのか。黄金とか言ってはしゃいでいた自分が情けなくなってくる。私の見間違いか? いや、確かに3つ、4つに割れてるぞ。

・それでも収穫はあった

結局、この日の収支は購入1900円に対して払戻540円で、都合1360円のマイナスとなった。しかしこれだけで「パドックでウンコをした馬は走らない」と結論付けるのは早計だ。

当たり前のことだが、それぞれの競争馬には元々持っている能力に違いがあり、どれだけ絶好調でも能力が段違いの相手には通用しないこともある。逆もまた然りだ。調子が悪くてもあっさり勝ってしまう強い馬もいる。

つまり重要なのは「ウンコをする」という事象が「好調」を意味するのか「不調」を意味するのか、ということである。それを最後に検証しよう。

各馬の元々持っている能力を正確に計ることなど出来ないが、競走馬の能力は過去の戦績からある程度は類推される。そしてそれが反映されたものがオッズだといえる。一概には言えないが、9番人気の馬が5着だった場合、たとえ5着でもその馬なりに好調だったとみることはできるのだ。

さて、今回の検証で対象となった馬は計18頭である。そのうち「支持された人気よりも順位を上げた馬」はわずかに6頭であった。このことから、少なくとも「パドックでウンコをしているから好調」ということは言えないと思う。

・心の動きが便意を催す

1日パドックに貼りついていて分かったことが、もう一つある。競走馬がパドックで客に姿を見せるのは15分程度の時間であり、その間に円形のパドックをグルグルと何週も周回し、最後の1周だけはジョッキーが騎乗して周回する。取材して初めて分かったことだが、「パドックに入ってきて最初の1周」と「ジョッキーが騎乗した最後の1周」に脱糞する馬が極めて多いのだ。

これは「環境の変化を感じた馬の心の揺れが、便意につながっている」ということではないだろうか。草食動物である馬は周りの環境の変化にとても敏感な生き物である。つまり「ウンコをしている馬は平常心から少し距離のあるところにいる」ということなのだ。馬の落ち着き具合が重要視される競馬のレースにおいて、これは結構重要なことだと私は思うのだ。

以上のことから、私は「パドックでウンコをしている馬」については「多少のマイナス評価」が妥当ではないかと考える。しかしこの日も2頭の馬が勝利を挙げたように、それは絶対的な「消し」ファクターではない。本当に強い馬はウンコブリブリでも強いのだ。

ちなみに「ウンコ」という言葉をこれだけたくさんワープロ打ちしたのは人生初めてである。こんな汚い記事に最後まで付き合ってくれた読者のみんな、本当にありがとう!!!

参照元:JRA日本中央競馬会
Report:グレート室町
Photo:RocketNews24.

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